ユネスコセンター設立推進本部ニュース

第3号 2005年1月

目次

 
 1.本部長からのご挨拶
 2.研究紹介1−世界水アセスメント計画(World Water Assessment Programme)
 3.研究紹介2−長江における治水政策の分析
 4.最近の話題−「降雨体験車」での豪雨災害発生に関する一般の意識調査−
 5.最近の活動と今後の予定


本部長からのご挨拶

あけましておめでとうございます。

昨年4月に土木研究所にユネスコセンター設立に向けた準備活動を担当する組織として推進本部が設置されて9ヶ月。この間、内外の会議等いろいろな機会をとらえてセンター設立計画のPRに心がけてきました。この結果、センター設立の意義や活動内容について、内外の関係の皆様方に徐々に認識されつつあるというところかと思います。

振り返ってみますと、昨年4月のIHP(International Hydrological Program)ビューロー会合及び9月のIHP政府間理事会では、いずれも多くの国々の賛同を得て、支持決議をいただくことができました。設立に際して日本政府とユネスコ間で交わす合意書案についても、すでに外務省を通じて調整が開始されており、今春のユネスコ執行委員会での審議に向けて最終的な詰めの段階となっています。今後とも、国土交通省、外務省、文部科学省及び在仏ユネスコ日本代表部をはじめ関係する多くの方々の支援をいただきながら、秋のユネスコ総会において加盟各国の承認を目指します。

5月には土木研究所のウエブサイト内に推進本部のホームページ(和文・英文)を開設し、順次内容の充実につとめてまいりました。今後とも、推進本部メンバー各位の創意工夫を生かして、随時気軽に訪れてもらえる「役に立つ」サイト作りを進めたいと思います。9月17日に創刊したニュースレター(和文・英文でメール送信)も今回で第3号。手作りゆえの苦心は多々ありますが、2ヶ月に1回の発行ペースを将来にわたって持続できるよう、これまたメンバー全員で力を合わせます。

土木研究所本館北側に隣接して8月に着工した新オフィス建築(実験棟改修)工事は、今秋概成に向けて着々と進められています。センター設立とあわせて内外から受け入れる予定の研究スタッフが気持ちよく仕事に取り組める環境を提供できることを願う次第です。

さて、昨年は、例年の約3倍に当たる10個の台風が日本列島に上陸し、梅雨前線による豪雨とあわせて、全国各地に大きな被害をもたらしました。10月23日夕刻に発生した新潟県中越地域を震源とするマグニチュード6.8の地震に起因する土砂災害等についても、懸命の復旧作業が進められていますが、被災者の中には、いまだに仮設住宅等での生活を余儀なくされている方々も数多い状況にあります。思い起こせば、ちょうどWMO(World Meteorological Organization)本部(ジュネーブ)で開催された水文委員会会合の技術講演セッションで、「わが国が古くから水害や地震災害をはじめさまざまな自然災害を克服して国づくりを進めてきた」ことを話した翌日に、現地のテレビで台風23号による水害の様子が映し出され、またその2日後には、今度は新潟中越地震による被災映像が立て続けに報道され、各国の参加者から被災者の方々に同情する旨の言葉をかけていただきました。その約2ヶ月後に今度はスマトラ島沖地震とそれによる津波災害が周辺各国に人類史上未曾有の被害をもたらしました。一瞬にして人命と財産を飲み込んでしまう自然災害の脅威に、わが国同様直面している国々に対して国際社会が協力して手をさしのべることの意義をあらためて認識した次第です。

本年も推進本部一同一丸となって、初期の目的達成に向けた準備活動に取り組んでまいりますので、皆様方からのご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。


ユネスコセンター設立推進本部長



研究紹介1
−世界水アセスメント計画(World Water Assessment Programme)−

WWAPの背景

多くの国際会議やフォーラムが開催される中で、世界の淡水資源がおかれている状況を継続してモニタリングし、評価する必要があることが少しずつ認識されるようになってきました。例えば、「水問題の歩み−1972〜2003−ストックホルムから京都まで」をご覧ください。国連は水アセスメントを系統的に継続して実施することを確かなものとするため、世界水アセスメント計画(WWAP:World Water Assessment Programme)を2000年3月から開始しました。WWAPの主要な活動成果は世界水開発レポート(WWDR:World Water Development Report)として、2003年3月に日本で開催された第3回世界水フォーラム期間中に発表されました。WWDRには、テーマ別・手法別の事例研究、水情報、そしてキャパシティービルディングに関連する内容が盛り込まれることになります。

日本からの貢献

WWDR第1版(Water for People Water for life)の最大の特徴は、新しい手法を検証するために事例研究を用いている点です。日本からは国土交通省が巨大都市東京を事例(完全版はPDF形式でこちら)として、WWDRに貢献しています。WWDR第2版(WWDR-U)は2006年3月に出版されますが、第2版では、水関連ガバナンスに焦点を当てており、水資源に関する政策・管理に関して日本での成功事例が盛り込まれる予定です。

当本部の役割

WWDR-Uは、国連のWWAPによって定められた11課題から構成されおり、うち1課題がリスクマネジメントを取り扱う事となっています。ここでは、水関連のリスクインディケータの開発が主要な課題となります。2003年11月には、第1回のリスクインディケータに関する国連水組織委員会が開催され、当本部からも参加がありました。リスクインディケータ作成のための専門家委員会はWMOISDR(International Strategy for Disaster ReductionWWDR-Uの編集に携わる専門家から高い評価を受けています。リスク指標の技術的な詳細は、次号ニュースレターにて紹介します。

2005年2月には、リスクインディケータ開発のための第3回専門家ワークショップを当本部が主催いたします。ワークショップには、土木研究所WWAPユネスコ事務局(パリ)、WMO、ISDR等の専門家が参加します。

研究紹介2
−長江における治水政策の分析−
 
研究の枠組み
 

本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST:Japan Science and Technology Agency)の戦略的創造研究推進事業(CREST:Core Research for Evolutional Science Technology)の研究プロジェクトとして採択された「人口急増地域における持続的な流域水政策シナリオ」の一環として平成15年10月より実施されているものです。中国水利水電科学研究院との共同研究体制のもと実施しています。

長江の中流氾濫原および下流デルタ地域には人口・資産・農地が集中している一方で、同地域は洪水の常襲地域ともなっています。したがって、この地域における洪水防止体系の構築は、中国の持続的な経済発展にとって、重要な課題の1つです。長江流域の概要を図に示します。

研究のアプローチ

私たちの研究は、流域での長江の治水政策を分析し、グッド・プラックティスを見つけ出し、社会科学的な考察を加えて日本を含む他国への適用を可能にすることを目標としています。そのために、私たちは、中国における政策立案過程、および実施過程の社会科学的な分析というアプローチをとっています。



1998年に発生した長江大洪水を契機に、中国政府は治水政策を大幅に見直しました。それは、治水計画の基準とされてきた1954年洪水と比較して、1998年洪水はピーク流量が小さいにも関わらず水位が高く、洪水被害の危険性が非常に高かったからです(1954年洪水と1998年洪水の詳細な比較検討は、「長江洪水セミナー報告書(日本語のみ)」をご覧ください)。提出された政策では,土地利用の転換と規制が中心となっており,1)山林の伐採を禁止し植林をする,2)傾斜地の農地を山林に戻す,そして,3)輪中堤を湖沼に戻し遊水地として効果的に利用する、に要約されます。これら政策中で、洪水直後から現在に至るまで、実際に大規模な実施がなされてきたのが3)の政策であり、洞庭湖およびポーヤン湖周辺で実施されています。

特に、私たちは洞庭湖に注目しています。洞庭湖は、長江から輸送されてくる土砂と輪中堤築堤による過剰な干拓により、1954年から1971年にかけて、3,915km2から2,820km2に激減しました。これは、急増する人口への食糧供給のために農地造成を推進したことに起因します。しかし一方で、洞庭湖の遊水機能の低下により洪水被害が頻発するようになりました。このような背景のもと、上記の政策が実施されることになりました。政策実施過程では、「単退」と「双退」という二つの方式が取られています。「単退」は居住者のみ移転し農地は残す方式、「双退」は居住者・農地ともに移転する方式です。「単退」の場合には、移転後も従来からの農地を利用できますが、再現期間10年の洪水時には湛水するため、移転時および湛水時に補償金が支払われます。一方で、「双退」の場合には移転時に補償金が支払われます。「単退」・「双退」方式の採用基準、補償金の設定基準等を分析し、政策が成功するための条件を現在分析しています。



最近の話題
−「降雨体験車」での豪雨災害発生に関する一般の意識調査−


はじめに


11月20日(土)、秋空の温かい気候のもと、土木研究所と国土技術政策総合研究所の共催で「土木の日」一般公開が開催されました。当本部は、水工研究グループ水理水文チームと共同で「降雨体験車」を出展し(国土交通省関東地方整備局のご好意により貸していただきました)、一般の参加者にカッパ・長靴の完全防備で豪雨を体験して頂きました。

その目的は、豪雨とそれにより引き起こされる災害との関連性を一般の人が正しく認識しているかを確認するためです。2004年は過去最高の10個の台風が上陸して豪雨災害が多数あったためか参加者の関心が高く、273人もの参加を頂きました。体験車はフル稼働状態で、応対する職員もうれしい悲鳴を上げていました。


アンケートの目的

降雨体験車では300mm/hの豪雨を体験することができます。しかし、災害はもっと小さな雨でも発生することもあり、また上流で豪雨があれば災害に巻き込まれる危険性があるため、最新の気象情報を得ることが非常に重要です。

今回の調査は一般の方を対象に実施し、大災害は少ない雨量でも起こる可能性を認識しているか、気象情報をどこから得ているか、また、降雨体験車は水災害に対する意識啓発として役に立つか、等を把握するために行いました。



アンケート結果

 

回答者数は、210人(回収率77%)で、そのうち79%がつくば市の住民でした。また、回答者のうち37%は10歳未満の子供でした。アンケートは以下に示す4つの質問からなっています。また結果の図を示します。

【質問1 今回体験した雨の強さで、「怖い」と感じたのはどの程度の雨からですか?】
【質問2 今年7月に、新潟県三条市に降った雨で、最も強かった1時間当たりの雨の強さは、次のどれでしょう?(参考:日本の最高記録187mm/h)】 ☆正解 50mm/h以下
【質問3 大雨が降りそうなとき、情報をどこから得ることが多いですか?(複数回答可)】
【質問4 「降雨体験車」で大雨を体験した感想をご自由に記入してください。(複数可)】



アンケートのまとめ

質問1では、300mm/hの雨でも「特に怖くなかった」との回答が最も多く、また、質問4でも「楽しい・おもしろい」などの感想と「怖い・雨が強い・すごい」などの感想がほぼ同じ程度になり、自由回答でも『思ったほどの雨ではなかった』との回答も目立ちました。このことから、降雨体験車での体験が、豪雨に対する意識啓発に必ずしも結びついていないと思われます。

質問2の結果からは、少ない雨でも災害が起こりうる危険性を広報していくことが必要と思われます。また質問3からは、大雨に関する情報の入手経路としては、テレビが最も多い反面(64%)、インターネットの専門サイトや携帯端末からは合計7%と低く、災害が起こりそうなときでも気象情報を積極的に得ようとしている層が少ないことがうかがえます。

最後に
 

アンケートとあわせて体験者には、過去に土木研究所で実用化したレーダ雨量計により、現在は現況雨量をインターネット経由でリアルタイムで見られること、このような技術をユネスコセンターを通して発展途上国にも技術移転するつもりであることを説明しました。現在、インターネットや携帯端末で見ることの出来る主な防災情報として、

防災情報提供センター
http://www.bosaijoho.go.jp/
http://www.bosaijoho.go.jp/i-index.html(携帯)

川の防災情報
http://www.river.go.jp/
http://i.river.go.jp/cgi-ippan/title.sh(携帯)

気象情報
http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/index.html

などがあります。今後はこのような情報を、一般の方にいかにわかりやすく、かつ、利用しやすく提供し、防災の意識向上につなげていくかが重要だと思われます。






使用した降雨体験車


受付テント前の様子

【アンケート結果:質問1】
『特に怖くなかった』・・・48%、『200mm/h』・・・29%、『100mm/h』・・・18%、『40mm/h』・・・5%

【アンケート結果:質問2】
『100mm/h以上』・・・75%、『50-100mm/h』・・・24%、『50mm/h以下』・・・1%

【アンケート結果:質問3】

【アンケート結果:質問4】

最近の活動と今後の予定

最近参加した会議の報告

統合的メコン川管理の発展に関する国際会議


土木研究所は、日本の科学技術プロジェクト「Japanese Research Revolution 2002 (RR2002)」の一員として2004年11月25−27日にラオス国、ビエンチャン市のラオプラザホテルにおいて「統合的メコン川管理の発展に関する国際会議」を開催しました。吉谷上席研究員は本会議において科学委員を勤めました。

当国際会議の1セッションであるフォーラムにおいては、モデル開発者としての科学者と意思決定支援のためのモデル利用者としての政府エンジニアの間での意思疎通、例えば、必要に応じたツールの選定のアドバイス、の重要性に注目した話し合いがなされました。我々が設立準備を進めているCHARM(Center for Hazard and Risk Management)はキャパシティビルディング、トレーニングおよび情報ネットワーキングを通じて、両者間の橋渡し的役割を期待されています。

詳細は、http://www.unesco.pwri.go.jp/をご覧下さい。





国際洪水イニシアティブ(IFI/P:International Flood Initiative/Program)準備会合

IFI/P会議がカナダのウエスタンオンタリオ大学で2004年12月9-10日に開催され、つく ばで作成されたコンセプトペーパーの修正と実行計画が策定されました。人間中心の 早期警報と危機管理、洪水リスクマネジメント、脆弱性、ガバナンスと住民参加、能 力開発・技術支援の5分野が活動分野として選定されました。



「水と災害」国際ワークショップ

標記のワークショップが、ウェスタンオンタリオ大学壊滅的損失減少研究所の主催で 2004年12月13日−14日にカナダ・ロンドンにて開催されました。土木研究所は国際洪 水ネットワーク、日本水フォーラムと共同でFlood control and mitigation measuresのセッションを担当・運営(チェアマン、吉谷上席研究員)しました。詳細はhttp://www.unesco.pwri.go.jp/をご覧下さい。



今後開催される会議

国連防災世界会議

2005年1月18〜22日の期間に、神戸で開催されます。本会議は、策定中の計画と実施計画において災害リスク軽減の方法を広く浸透させることを目的としています。当本部は国交省河川局がWMO、BOMAustralia Bureau of Meteorology:オーストラリア気象局)とともに主催する総合的な洪水リスク管理に関するセッションと,洪水災害及び土砂災害軽減のための国際的な連携に関するセッションに参画します。





開会式:壇上左より竹内教授(RR2002リーダー)、勝浦氏(在ラオス日本大使)コゲルス氏(メコン委員会CEO)
お知らせ

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編集・発行:独立行政法人土木研究所 ユネスコセンター設立推進本部

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