ユネスコセンター設立推進本部ニュース

第7号 2005年10月

このニュースレターは、2005年度に土木研究所に設立予定の 水災害リスクマネジメント国際センター(略称、ICHARM)の設立準備活動を 広く関係者の皆様方に知っていただく目的で発行しているものです。

バックナンバーについては こちら をごらん下さい。

目次
  1. 本部長からのメッセージ
  2. 活動のトピックス
  3.   
    1. 中国水利水電科学研究院からの視察団に協力
    2. 一般公開セミナー「長江水管理に関するセミナー」
    3. 水文・水資源学会において国際交流セッションを開催
    4. 河川ダム工学III研修始まる
    5. ユネスコ総会報告
  4. 研究紹介
    1. 水関連災害の世界的なトレンドに関する技術レポート
  5. 参加会議報告
    1. 第2回東南アジア水フォーラム
    2. ミレニアム発展目標に向けたリスクマネジメントと台風関連災害の社会経済的な影響評価に関する国際ワークショップ
    3. 国際水工学会第31会大会
  6. おしらせ
    1. 洪水ハザードマップ作成研修開催のお知らせ

1.本部長からのメッセージ

 

8月29日に米国メキシコ湾岸を直撃したハリケーンカトリーナは、南部各地に大きな被害をもたらしました。特に、ルイジアナ州ニューオリンズの長期間にわたる浸水被害およびアラバマ州からルイジアナ州に至るメキシコ湾岸地帯の高潮による被害は甚大でした。河川下流部の低平地域に人口と資産が集中するわが国の国民にとっても、自然の破壊力とそれに対する不断の備えの重要性を改めて認識させられる出来事だったと思います。

10月2日から7日にかけて、米国土木学会(ASCE)が組織した被災状況や災害復旧状況等についての現地調査団に、当本部の田中上席研究員が高潮対策の専門家として参画しました。1ヶ月以上たっても都市機能が回復していない現状や高潮堤防の上に乗り上げた船がそのままの状態になっているのを目の当たりにして、今回の高潮災害のすさまじさを実感したようです。

さて、10月12日、パリのユネスコ本部で開催された第33回ユネスコ総会第3委員会において、ICHARM設立にかかる日本政府の提案を承認する旨の決議が採択されました。前回の第32回総会において構想を表明してからちょうど2年目にして、ユネスコ加盟191カ国の承認を得られたことになります。今後、閣議決定を経て、日本政府とユネスコ間の協定及び土木研究所とユネスコ間の契約を締結の後、ICHARMの正式な設立となるはこびです。

昨年8月より土木研究所本館北側に隣接した実験棟の改修によって整備してきたユネスコセンター棟が9月末に概成し、推進本部のオフィスが移転しました。昨年に引き続きアジア8カ国から16名の技術者を迎えて11月7日にスタートする今年度の洪水ハザードマップ作成研修は、新オフィス棟2階のゼミ室を利用して行われる予定です。新しいオフィスで、メンバー一同気持ちを新たに、設立に向けた準備活動に取り組んでまいります。


ユネスコセンター設立推進本部長

2.活動のトピックス

 

i. 中国水利水電科学研究院からの視察団に協力

2005年7月28日-8月6日の期間、土木研究所と研究協力協定を締結している中国水利水電科学研究院および中国国家防洪抗干総指揮部からの、4名の日本視察に協力し、当推進本部のスタッフとの意見交換を通じて研究交流を行いました。

視察団の目的は、世界銀行から融資を受けた中国国内の堤防強化プログラムの一環として、日本の堤防整備の技術を学ぶことでした。、一行は淀川下流域におけるスーパー堤防の整備事業および、大阪の都市域内、鶴見緑地における地下河川事業などを視察しました。

彼らの視察結果をもとに、土木研究所ユネスコセンター設立推進本部のスタッフとの間で、意見交換を行いました。議論は主としてスーパー堤防技術の中国での適用可能性に集中し、投資金額や、社会制度、の相違を綿密に検討しなければならないという結論を得ました。今後も、このような国際的研究交流を通じて、知識・経験の交換・蓄積を推進していきたいと考えています。


視察の様子

意見交換の様子
ii. 一般公開セミナー「長江水管理に関するセミナー」

2005年8月2日、土木研究所の主催により、三峡ダム建設の目的に焦点をあてた長江における水管理に関する半日のセミナーを、つくばにて開催しました。最初に基調講演を行なった范可旭氏(長江水利委員会)は、三峡ダム建設の目的は、治水、発電、舟運であり、沿岸域への電力供給よりもダム直下流における治水が第一の目的であることを強調しました。また、地域の住民移転、獣血吸虫病の予防、堆砂の軽減など、様々な関連課題があることも説明しました。次に王義成氏が、長江における治水の基本計画に関する講演を行い、中国における計画立案プロセスを紹介しました。また、中国北部、沙蘭町において、105人の子供の死亡をもたらした洪水(6月10日に発生)の報告がなされました。

講演のパワーポイント資料がダウンロードできます
范可旭氏, 王義成氏

 

iii.水文・水資源学会において国際交流セッションを開催

2005年8月3-5日の期間に、筑波大学で開催された水文・水資源学会(Japan Society of Hydrology and Water Resources: JSHWR)総会・研究会にて行なわれた国際交流セッション「地域における河川と水」を、土木研究所が後援しました。この国際交流セッションは、水文水資源学会、韓国水資源協会(Korea Water Resources Association: KWRA)、中国水利学会(Chinese Hydraulic Engineering Society: CHES)の3組織が共同して開催したものです。KWRAからはJai-Woo Song会長と6人が、また、CHESからは長江水利委員会水資源管理局長范可旭氏代表と6人が、本セッションに参加しましました。最初に、竹村公太郎博士による(リバーフロント整備センター理事長)「浮世絵から見た日本近代化における水循環」というタイトルのもと基調講演がありました。17世紀における版画に、地域の水循環に根差した水資源管理法とその文化を見出すことができるという講演でした。つづいて、KWRAおよびCHESから、学術発表がありました。土木研究所は国際セッションの開催、土木研究所施設の見学、及び東京の現場事務所への現地見学の企画に協力しました。


土木研究所施設見学

現場視察(首都圏外郭放水路)

 

C.河川ダム工学V研修はじまる

本年度の河川ダム工学III研修の開校式が8月22日国際建設技術協会で開催され、3ヶ月半の研修がスタートしました。本研修は、開発途上国においては、台風、熱帯サイクロンの被害対策をはじめとする治水及び乾燥地帯等における水資源開発が産業・経済の安定と発展、生活水準向上を図る上で欠かせない課題であり、これにかかる行政構築・技術開発について先進国からの技術移転等の協力が強く望まれていることを背景に、1969年度にスタートしたものです。この間時代の要請に応じた見直しが行われ、現在に至っています。現在の研修は河川ダム工学IIIとして2003年度に開設されたものです。本年度は、インドネシア、イラン、ケニア、ラオス、ミャンマー、 ネパール、フィリピン、スリランカ、シリア、ベトナムの10カ国から11名の受講者を迎えて実施しています。(写真は本研修の関係機関の代表者が出席して行った開講式における、坂本理事長の挨拶)



D.第33回ユネスコ総会

2年に一度、ユネスコ加盟191カ国の代表が一堂に会して意思決定を行う場である、ユネスコ総会が、10月3日から21日にかけてパリのユネスコ本部で開催され、土木研究所からは、坂本理事長、高橋総務部長及び寺川本部長が参加しました。この間、10月12日の第3委員会において、ICHARM設立にかかる日本政府の提案を承認する旨の決議が採択されました。エルダリン自然科学局次長から、提案のポイントとフィージビリティスタディ結果の概要について説明がなされた後、日本政府を代表して、ユネスコ日本代表部の今里公使から、ICHARM設立の意義や活動予定内容を紹介し各国の支持と協力を求めました。約20カ国の代表から、「日本の経験や技術、知識をもとに国際貢献を行う姿勢を高く評価する」、「既存のセンターや各国の取り組みとの連携、協力を望む」といった支持発言が相次ぎました。「ICHARM」「Tsukuba」の名称がまさに何十回も連呼され、うれしく思うと同時に、身の引き締まる思いでした。今回の総会には、ICHARMの他、チリ政府提案による「ラテンアメリカ・カリビアンの乾燥・半乾燥地域水センター」(チリ ラセレナ)、英国政府提案による「水法、水政策、水科学に関する国際センター」(イギリス スコットランド)、ポーランド政府提案によるヨーロッパ地域を活動範囲とする「水文生態学センター」(ポーランド ロッズ)及びコロンビア政府提案の南米地域を活動範囲とする「都市の水管理センター」(コロンビア カリ)の4センターを、いずれもユネスコの後援を受けて各国が設立、運営するカテゴリー2センターとして設立することが承認されました。これで、既存の8センターとあわせて13センターがそれぞれ国際センターもしくは地域センターとして活動することになります。各センター間の横のつながりを介した世界的なネットワークが、それぞれのセンターの活動にとって重要な意義と効果を有するものになると思われます。

10月11日に開催された第3委員会では、昨年末のインド洋津波災害を契機として、ユネスコ国際海洋委員会(IOC)が音頭をとって世界気象機関(WMO)や国際防災戦略(ISDR)等の関連国際機関と連携して推進している地球規模の津波警報システム構築戦略についても活発な議論がなされました。(海に面していない内陸国も含め、)加盟各国からは、津波をはじめとする海洋関連災害に対する早期警報システム構築の重用性を指摘する声が相次ぎ、2年後の第34回総会に向けて戦略の実行を推進することが決議されました。

 今回の総会では、また、松浦事務局長が有効票154票中151票という圧倒的な支持を得て再選されました。日本人で初めての事務局長として、引き続き4年間の任期を務められます。


3. 研究紹介
 

i. 水関連災害の世界的なトレンドに関する技術レポート

リスクマネジメントチーム専門研究員 タレク・メラブテン

世界的に見て、災害による社会経済的な損失が増加していることから、災害に対する効果的な備えと軽減の方法が欠けていることがわかります。水災害を戦略的に軽減するための方法を開発するためには、我々の社会が直面しているリスクレベルを具体的に評価し理解する確固たる方法を樹立することが必要です。ユネスコの後援のもとで、水災害とリスクマネジメントのための国際センターを設立するための準備の一環として、災害軽減に向けた洪水のリスクマネジメントと政策分析に関する研究を実施しています。この研究は、国連機関である世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)や国連災害軽減戦略(United Nation International Strategy for Disaster Reduction: UN-ISDR)との共同研究として実施しているものであり、国連の世界水アセスメントプログラム(World Water Assessment Program: WWAP)のもとに進められている世界水開発レポート第2版(Second World Water Development Report: WWDR II)の作成と同時に進められています。

第1フェーズでは、水関連災害の世界的・地域的なトレンドと、水関連災害が社会におよぼすインパクトを包括的に評価しました。この研究の最終目標は、将来的に標準的な指標が必要になってくることに応えるために我々の理解を深めるためにあります。ここで、標準的な指標とは、水関連災害のリスクを同定することを支援するための指標であり、政策分析をおこなって水災害軽減のために採用する対策の効果を評価するための指標です。本研究では、ベルギーのルーベン大学に設置されている世界保健機関(World Health Organization: WHO)による災害による疫学研究所(Centre for Research on Epidemiology of Disasters: CRED )が作成し、メンテナンスを行っている緊急災害データベース(Emergency Disaster Database: EMDAT)をもとに評価を行いました。災害ごとに図表によって表した分析結果から、災害軽減のために我々がとっている対策の進捗具合を評価する指標となりうる世界的・地域的な災害トレンドを知ることができます。成果には、水災害に対する社会・経済的な脆弱性を明確に評価するにあたって、あらたに浮上してきた問題および挑戦課題に関しても強調されて述べられています。この研究で得られた成果は、WMOとUN-ISDRによるリスクマネジメントに関する国連専門家会議(土木研究所もメンバーとして参画しています)に示され、UNESCOが後援するUN-WWAP事務局が行っているWWDR IIの作成の際に参考にされています。

(なお、 レポートはホームページよりダウンロードできます)


4. 参加会議報告
 

i. 第2回東南アジア水フォーラム(8月29日(月)〜9日3日(土))

第2回東南アジア水フォーラムが、インドネシアバリにて開催されました。フォーラムセッション4、テーマ2「洪水、渇水、その他の水関連災害に対する脆弱性の低減」において、吉谷上席研究員が「洪水リスク軽減のための意思決定問題」と題して発表を行いました。発表では、利害が対立するとき公的な意思決定をすることは非常に困難である現実に水に関る組織は目を向けるべきであることを示唆しました。水文学者として実際の住民討論会に登壇した経験から、公的な意思決定への参加問題に焦点があてられました。


ii. ミレニアム発展目標に向けたリスクマネジメントと台風関連災害の社会経済的な影響評価に関する国際ワークショップ(9月5日(月)〜8日(木))

ESCAP/WMO台風委員会の主催により、マレーシアのクアラルンプールで標記ワークショップが開かれ、当本部から深見上席研究員と栗林研究員が参加しました。

深見上席研究員は、「日本における洪水予測システムの概要」と題して発表を行い、日本の自然的・社会的条件を背景とした洪水予警報システムの現状と最近の新しい動き(レーダ雨量計データ全国補正合成システムやそのデータを活用した分布モデルの活用事例等)について報告を行いました。他国からもそれぞれの洪水予警報システム開発状況の最新の報告が行われ、IT技術を用いた予警報システムの高度化がアジア域でも急速に進みつつあることが確認出来ました。

また、栗林研究員は「土木研究所における2004年度洪水ハザードマップ作成研修の概要」と題して、昨年度行った洪水ハザードマップ作成研修の内容とその活動成果について発表を行いました。洪水ハザードマップ作成研修については、台風委員会で行っている活動期間を、土木研究所の洪水ハザードマップ作成研修の期間に併せて延長する旨の提案があり、当本部としても台風委員会と共同しながら、国際ワークショップを開催したい旨伝えました。発表後、韓国やタイの代表者から研修を評価する声が挙がりました。

その他にワークショップでは、参加者を4グループに分けて、砂防グループの研究者がリーダーとなった現地調査が行われ、マレーシアにおいても日本と同じように土砂災害による被害が少なくないことを実感しました。


iii. 国際水工学会第31回大会(2005年9月11日(日)〜9月16日(金))

韓国ソウルのコンベンションセンターCOEXで第31回国際水理学会が"Water Engineering for the Future : Choices and Challenges"と題して開催されました。 16日午後に開催されたスペシャルセミナーでは"Coping with Risk"をテーマに、台風委員会に関係した活動の報告を中心に洪水リスクマネジメントに関した各国の取り組みの報告がありました。最初に国連アジア太平洋経済社会委員会のDr. Ti Le-Huu氏が台風委員会の概要を紹介し、続いて副議長でもある三宅且仁氏(財団法人ダム水源地環境整備センター調査第一部長)が台風委員会の活動を紹介し、引き続いて韓国、マレーシア、日本、スイスの事例が報告されました。日本の事例としては、当本部の田中上席研究員が、土木研究所が昨年度から実施している「洪水ハザードマップ作成研修」の概要について紹介しました。


5. お知らせ
 

洪水ハザードマップ作成研修開催のお知らせ

JICAの支援による第2回洪水ハザードマップ作成研修を、11月7日(月)から12月2日(金)の約4週間実施します。昨年度は、2005年2月に3週間の日程で実施されましたが、今年度は開始時期を11月に早め、期間を1週間増やして演習要素を大幅に加え4週間の日程で行われます。参加者は、東・東南アジア地域8カ国計16人を予定しています。

平成16年度洪水ハザードマップ作成研修の概要に関しては こちら をご覧下さい。


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