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The Newton Apple Tree
雪崩・地すべり
研究センターたより
季刊 ・ 第37号 土木研究所 雪崩・地すべり研究センター
2006年5月発行 Snow Avalanche and Lndslide Research Center


【18豪雪の雪崩多発と研究活動】

 近年少雪傾向が続いていましたが、H16-17冬期に続きH17-18冬期は観測史上記録的といわれる豪雪に見舞われ昭和38年以来43年振りに「平成18年豪雪」と命名されました。最大積雪深の平年値との差を示したものが図-1で、特に新潟・長野県境、福井県などの山間地に多く、海岸沿いや太平洋側などでは平年より少なく「山雪型」といわれています。また、過去100年程度の推移においては38豪雪および1920年代及び40年代に非常に大きな積雪深の記録があります。

図−1 H18豪雪深と平年積雪深との差(気象庁データによる)
図−1 H18豪雪深と平年積雪深との差(気象庁データによる)
 
図−2 年最大積雪深の推移(気象庁観測データによる)
図−2 年最大積雪深の推移(気象庁観測データによる)
 
図−3 日別積雪深の推移(気象庁湯沢)
図−3 日別積雪深の推移(気象庁湯沢)

 この豪雪に伴い雪崩災害が多発し、国土交通省砂防部の調査では全国で100件の雪崩災害が発生し、うち集落に関りのある雪崩災害は28件とされています。特に12月から1月は厳しい低温の中連日降雪が続き雪崩災害が多発しました。集落雪崩対策が本格的に推進される契機となった昭和61年(1986年)の新潟県旧能生町柵口地区の雪崩災害以後、幸いにして貴い人命を奪う災害は無かったのですが、20年振りに秋田県仙北市の鶴の湯で作業員1人が死亡する災害が発生しました。

秋田県仙北市帳鶴ノ湯温泉において露天風呂及び旅館を直撃した雪崩
秋田県仙北市帳鶴ノ湯温泉において露天風呂及び旅館を直撃した雪崩
 
H18豪雪における雪崩災害状況
H18豪雪における雪崩災害状況

 

【技術指導】

 H18豪雪により多発した雪崩災害に対して、当センターにも集落雪崩に関わる危険度評価など技術指導の派遣要請が多数寄せられました。
○新潟県糸魚川市柵口地区
 (1月11日 要請者-糸魚川市)2名派遣
○長野県栄村秋山郷地区等
 (1月13日,18日 要請者-長野県)1名派遣
○妙高市土路地区
 (1月14日 要請者-新潟県)1名派遣
○秋田県仙北市鶴の湯地区
 (2月10-11日 要請者-秋田県)2名派遣
○糸魚川市の要請により、同市柵口地区の雪崩観測カメラのリアルタイム映像を能生支所(旧能生町役場)に提供
 今後は関係する機関と連携し、総合的な解析を行い、平成18年度から戦略的研究として着手される「雪崩災害の危険度判定に関する研究」において、地方自治体や管理者、そして住民の方々が現場で活用できる防災・減災対策の推進に寄与する手法の開発に強力に取り組んでゆく所存です。

雪崩現地指導(妙高市土路地区)
雪崩現地指導(妙高市土路地区)

 

【雪崩対策に関する緊急調査】

 今冬は長期間雪崩注意報が解除されず、地方自治体、道路管理者等からは、よりきめ細かな発生予測手法の確立が切望されました。そこで(独)防災科学技術研究所(以下防災科研)、(独)土木研究所、新潟大、信州大の4研究機関が連携し、科学技術振興調整費による緊急調査を実施しました。広域にわたる精密な積雪深分布と雪崩の発生状況データの収集とともに、防災科研が独自に開発を進める雪崩発生予測システムの高精度化に取り組みました。また行政を含む専門家からなる、本研究成果を今後の雪崩対策等に活かす検討会を開催しました。平成18年豪雪の雪崩が多発した新潟・長野の県境付近(秋山郷地域)と新潟県湯沢地域について、レーザープロファイラーを用いた積雪面の計測と、空中写真の撮影・雪崩判読を行い非常に貴重なデータが得られました。

レーザー計測陰影図
レーザー計測陰影図
空中写真による雪崩発生位置図
空中写真による雪崩発生位置図

 

【柵口雪崩防災講習会】

 13名が亡くなった柵口地区大雪崩災害から20年目にあたり、糸魚川市は2月19日に柵口地区権現荘において「雪崩防災講演会」を開催し、地元住民ら約百名が参加しました。この国内最大級の雪崩災害の風化を防ぐため、行政担当者及び地元区長らが当時の状況を報告し、研究者が雪崩発生機構や防災方策について解説しました。当センターからも花岡所長が総合的な現地観測の成果を紹介するとともに、高齢化により防災情報の伝承ができなくなることが危惧されると訴えました。
 なお当日、地元からの強い要請によるリアルタイムで雪崩を監視できるシステムの整備が完了し、会場から映像が配信されました。
 これら豪雪に関する一連の積極的な支援に対して新潟県知事からの礼状が5月に届きました。

柵口雪崩防災講習会

 

【組織の変更】
 4月1日より土木研究所と北海道開発土木研究所が統合され、それぞれ「つくば中央研究所」、「寒地土木研究所」となりました。今まで以上に両者の強い連携のもと、雪崩対策等は共同で研究を進めてまいります。

 

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