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III 流域における総合的な水循環モデルに関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成13年度~17年度
プロジェクトリーダー:水工研究グループ長 高須修二
研究担当グループ:水循環研究グループ(河川生態)、水工研究グループ(水理水文)

1. 研究の必要性
 
都市への人口集中や流域の土地利用の変化に伴い、降雨の流出および水利用の形態の変化、水質汚染や水辺の生態系変化など、水循環に関するさまざまな課題が生じている。これらの課題を解決するためには、治水・利水安全度の向上および水環境保全という国土管理上の問題を流域という視点でとらえて評価することが必要であり、そのためのツールとして総合的な水循環モデルの開発が求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 
本重点プロジェクト研究では、流域で生じている水循環の機構や水循環の中で営まれる生態系の変化などの実態を把握し、その機構をモデル化することにより、流域における人間活動が水循環、水環境へ及ぼす影響を評価できる水循環モデルを開発すること、また、既存のモデルを含めた各種水循環モデルの選定による統合水循環モデルの構築手法を提案することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
    (1) 流域で生じている水循環の変化を把握するための水循環・水環境モニタリング手法およびデータベース構築手法の開発
    (2) 流域や河川の形態の変化が水循環、水環境へ及ぼす影響の解明
    (3) 流域で生じている水循環の機構を表現できる水循環モデルの開発
    (4) 統合水循環モデル構築手法の提案

3. 個別課題の構成
 
本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
    (1) 総合的な水循環モデルに関する研究(平成13~17年度)
    (2) 都市河川流域における水・物質循環に関する研究(平成11~16年度)
    (3) 低水管理支援システム開発に関する研究(平成12~15年度)
    (4) 流域や河川の形態の変化が水環境へ及ぼす影響の解明に関する研究(平成14~17年度)
このうち、平成13年度は(1)、(2)、(3)の3課題を実施している。

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2. 研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、これまでに実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 流域で生じている水循環の変化を把握するための水循環・水環境モニタリング手法およびデータベース構築手法の開発
 
本目標に関しては、「都市河川流域における水・物質循環に関する研究」において、首都圏を対象として、水循環解析や物質循環解析に必要となる地形、地質、土地利用、植生、人口、農業、畜産、気象などに関する情報を収集し、GISプラットホーム上にデータベースを作成した。また、茨城県谷田川流域を対象に、水循環解析用データを収集し、GISプラットホーム上にデータベースを作成した。
 また、「総合的な水循環モデルに関する研究」においては、各種モデルを比較評価するための検証用水文データベースの基本概念を設計し、多摩川水系大栗川流域のデータを用いて具体的な検証用水文データベースを構築した。
 今後は、これらの成果をさらに発展させ、流域で生じている水循環の変化を把握するためのモニタリング手法およびデータベース構築手法の開発に結びつける予定である。

(2) 流域や河川の形態の変化が水循環、水環境へ及ぼす影響の解明
 
本目標に関しては、「都市河川流域における水・物質循環に関する研究」において、谷田川流域を事例として地下水位および地下水質の実態分析に着手した。一方、「低水管理支援システム開発に関する研究」においては、滋賀県野洲川流域を事例として、農地に係わる水問題を解決するため、検討すべき項目を抽出、整理した。また、森林の変化と河川流況の関係を把握するため、渡良瀬川草木ダム流域を対象として、関連する水文資料の分析に着手した。
 これらの研究はいまだ研究の緒についた段階であるが、次年度以降、さらに研究を推進し、流域や河川の形態の変化が水循環、水環境へ及ぼす影響について明らかにしていく予定である。

(3) 流域で生じている水循環の機構を表現できる水循環モデルの開発
 
本目標に関しては、「総合的な水循環モデルに関する研究」において、既往の水循環モデルをリストアップし、その水文学的特徴とモデルの内容を整理するとともに、このうち代表的な6モデルについて、多摩川水系大栗川流域のデータより構築した検証用水文データベースを用いて洪水流出計算を実施し、各モデルの精度を評価することで、その適用範囲を明らかにした。今後は、パラメーターおよび計算諸条件の設定・調整方法についてさらに詳細な検討を加え、モデル評価の客観性を高める予定である。
 また、「都市河川流域における水・物質循環に関する研究」においては、既往のモデルである分布物理型水循環解析プログラム(WEPモデル)の雨水流出計算・追跡機能を改良して、分布型汚濁負荷流出モデルを構築した。さらに、千葉県海老川流域を対象として本モデルの検証を行い、平常時における河川水中のBODとT-Nの濃度の変動の再現性を確認した。今後は、対象とする汚濁負荷項目を増やすとともに、地下水を含んだ物質循環モデルへと拡張する予定である。
 「低水管理支援システム開発に関する研究」においては、河川の取排水系統、貯水池での調整、流域からの流入などのモジュールを統合した低水管理支援システムの開発を目指しているが、今年度は、土木研究所で開発した水配分・水質統合解析シミュレーターを含めて内外4つのツールを比較し、今後のモデル開発にあたっての方向性を定めた。

(4) 統合水循環モデル構築手法の提案
 
本達成目標は、上記の目標に対する成果を受けて、統合水循環モデルの構築手法を提案するものであり、本重点プロジェクト研究の後半にその実施を予定している。


個別課題の成果

3.1 総合的な水循環モデルに関する研究

    研究予算 :運営費交付金(一般勘定)
    研究期間 :平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(水理水文)
    研究担当者:吉谷純一、深見和彦、松浦直
【要旨】
 流域の特徴や問題等に応じて、適切な水循環モデルを組み合わせて総合的なモデルを構築する手法の提案に向けて、13年度は、各種水循環モデルを評価するための検証用水文データベースを開発し、各種モデルの適用範囲や精度などを流量の再現性で評価する手法を提案した。多摩ニュータウンの大栗川流域を対象としてデータベースを作成して複数モデルによる洪水流出計算を行い、評価手法の適用性を確認した。
キーワード:総合的な水循環モデル、評価手法、ガイドライン、データベース


3.2 都市河川流域における水・物質循環に関する研究

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平11~平16
    担当チーム:水工研究グループ(水理水文)
    研究担当者:吉谷純一、木内豪、賈仰文
【要旨】
 都市河川流域における健全な水循環系の保全と再生を図るためには、流域スケールで自然系と人工系における水と汚濁物質の移動、循環の実態を明らかにするとともに、汎用的・実用的な予測モデルと各種情報のデータベースを構築し、効果的な対策を提示する必要がある。本研究では、茨城県谷田川、千葉県海老川をフィールドとして水・物質循環の実態を明らかにするとともに、流域水・物質循環を定量化できるシミュレーションモデルの確立を目指す。平成13年度は、谷田川流域を対象として、河川流量、河川水質、地下水位、地下水質のモニタリング結果の分析を行うとともに、分布物理型水循環解析プログラムであるWEPモデルに組み合わせる分布型汚濁負荷流出モデルを構築し、海老川流域を対象に検証を行った。
キーワード:都市河川流域、水循環、物質循環、WEPモデル


3.3 低水管理支援システム開発に関する研究

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:水工研究グループ(水理水文)
    研究担当者:吉谷純一、深見和彦、權五益
【要旨】
 流域水循環系再生計画の目標のひとつである平常時の流量を確保のため、水の有効利用、再配分、利用ルールの変更等の低水マネジメント代替案の河川流況への影響を解析するツールが必要とされている。本研究は、野洲川流域農地における水利用形態変化の実態をケーススタディとして解明し、この結果を受けて農地の水利用形態変化による河川流況に及ぼす影響の解析手法を開発するとともに、森林の影響解析手法の開発を行い、これらを統合した低水管理支援システムの開発を目的として研究を実施した。本年度は、平成12年度までに観測・収集してきた野洲川流域の水文資料の整理・分析を実施し、来年度に実施する農地主体流域の水循環解析の要件と目標を明らかにした。一方、23年間にわたる渡良瀬川上流の草木ダム流入量データを用い、山地森林流域における長期的な洪水・低水流況の変化に関するデータの整理を行った。
キーワード:低水管理、農地水収支、森林の影響、流域水循環解析