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IV 地盤環境の保全技術に関する研究

→個別課題の研究成果

研究期間:平成13年度~17年度
プロジェクトリーダー:材料地盤研究グループ長 萩原良二
研究担当グループ:材料地盤研究グループ(新材料、土質、地質)

1. 研究の必要性
 最近の社会資本整備においては、有害化学物質などによる環境リスクへの対応がこれまで以上に強く求められるようになってきている。このため、建設事業が環境汚染の原因者となるおそれのある建設資材中の汚染物質による地盤環境への影響評価と対策に関する研究や、建設事業が原因者でない遭遇型の地盤汚染への現実的な対処方法に関する研究が必要である。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、汚染物質の環境特性および地盤中での移動特性を解明して地盤、地下水の調査・モニタリング計画手法を開発すること、安全で経済的な恒久対策を確立するまでの現実的な対策技術として、汚染物質の暫定的な安定化手法、封じ込め手法を開発することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 建設資材および廃棄物中の汚染物質の環境特性および地盤中での移動特性の解明
   (2) 地盤、地下水の調査・モニタリング計画手法の開発
   (3) 汚染物質の暫定的な安定化手法、封じ込め手法の開発

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 建設資材の環境安全性に関する研究(平成14~17年度)
   (2) 特殊な岩盤および岩石による環境汚染の評価手法の開発(平成14~17年度)
   (3) 地盤中ダイオキシンの簡易分析手法の開発(平成12~14年度)
   (4) 建設分野におけるダイオキシン類汚染土壌対策技術の開発(平成12~14年度)
   (5) 建設事業における地盤汚染の挙動予測・影響評価・制御技術の開発(平成14~17年度)
 このうち、平成15年度は(1)、(2)、(5)の3課題を実施している。

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成15年度に実施した研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 建設資材および廃棄物中の汚染物質の環境特性および地盤中での移動特性の解明
 「建設資材の環境安全性に関する研究(1)」では、建設工事における地盤改良などに使用する建設資材の環境安全性を明らかにするとともに、建設資材の環境安全性データベースを作成することを目標としている。平成15年度は、昨年度実施した防水シート、ジオグリッド、ジオテキスタイル、発泡スチロールなどの地盤材料の環境ホルモン分析結果に基づいて、環境ホルモンを含んでいる地盤材料からの環境ホルモンの溶出挙動及び土壌による環境ホルモンの吸着に関する実験を行った。溶出実験により環境ホルモンの溶出が確認されたのは以下の通りである。
  ノニルフェノールはPPO3とSOF(pH 12)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルはSOFとSNK(pH 4,7,12)、フタル酸ジ-n-ブチルはHSとPPO3(pH 4,7,12)、PPO3とSOFはアルカリのみで溶出した。ビスフェノールAは4種類の材料(HS,PPO3,SOF,SNK)とも溶出がなかった。
  吸着実験の結果、環境ホルモンの流出量は、通水速度の速い砂質土、関東ロームが粘性土、黒ボク土より多かった。流出総量では、砂質土、関東ロームではノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチルが他に比べ多く流出した。対添加総量では、砂質土、関東ロームではノニルフェノール、ビスフェノールAが吸着しないで大半が流出した。
  ビスフェノールAは他の環境ホルモンに比べ添加量が極端に少なくなったため、流出総量は少なかったが、添加量を多くした場合、対添加総量の結果より、流出量も多くなる可能性は考えられる。
  フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは、添加量が多かったにもかかわらず、いずれの土壌においても流出量は少ない傾向であった。
 1ヶ月間の溶出実験により、4種類の材料(HS,PPO3,SOF,SNK)とも環境ホルモン(ノニルフェノール、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル)の溶出が確認できた。この結果より、土壌中に存在する土木シート等は、環境ホルモンが溶出している可能性が考えられる。
  また吸着実験により、土壌に吸着されず流出することもわかった。このことより地下水に環境ホルモンが流出する可能性は大きいと考えられる。
  今後、土壌中における地盤材料から環境ホルモンの溶出と環境ホルモンの土壌中での挙動を把握するための屋外実験を行う必要がある。
  また、「建設資材の環境安全性に関する研究(2)」では、建設工事における発生土やセメント改良土などの土質材料の環境安全性の把握とその際に用いる評価技術を確立することを目標としている。平成15年度は、既設のセメント改良土から溶出する六価クロムの影響について現地調査と大型土槽実験を実施し、併せて数値解析結果を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
(1) 現地調査を実施した箇所において、セメント改良土から溶出した六価クロムが周辺地盤に影響を及ぼしているものはなかった。
(2) 土木研究所において行った既設のセメント改良土から六価クロムが溶出することを想定した実験や数値解析結果では、周辺地盤のもつ吸着や還元効果により周辺地盤への六価クロムの拡散はわずかであった。
  今後は土質材料の土質材料の環境安全性評価技術を確立するため、現場で使用可能な建設発生土中の重金属類リアルタイム判定手法の開発に取り組んでいきたい。
  「特殊な岩盤および岩石による環境汚染の評価手法の開発」では、建設工事における掘削面として露出する岩盤、および掘削ズリ、廃棄岩などの中には重金属等を含み、それらの溶出が周辺環境や生態系、人の健康などに影響を与える可能性が近年問題となっているため、これらの汚染源の地質的要因(岩種ごとの重金属の存在形態、分布形態など)および溶出機構を明らかにすることを目標としている。平成15年度は、岩盤や掘削ズリからの重金属類の溶出の予測手法に関して,岩石を対象とした溶出試験の試験条件を決定するため,試料の物理性状と溶出量の影響について検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。
(1) 粉砕における粒度分布と比表面積のバラツキをさけるためには、最大粒径を0.075mm以下とするとよいこと
(2) 重金属の含有量と溶出量の関係は,岩石の場合複雑であること
(3) 試料が細粒である(比表面積が大きい)ほど溶出量は多くなる傾向があること
(4) 重金属の溶出は硫酸イオンやカルシウムイオンに比べ複雑な反応による可能性があること
 今後は,岩石の反応速度,溶媒の性質について考慮した溶出試験を行うとともに,岩石のタイプに着目した試験を実施して,実用的な溶出試験方法について検討する必要がある。

(2) 地盤、地下水の調査・モニタリング計画手法の開発
 この達成目標を含む「地盤中ダイオキシンの簡易分析手法の開発」は、平成14年度に終了しており、「特殊な岩盤および岩石による環境汚染の評価手法の開発」では次年度以降、検討を行う予定である。

(3) 汚染物質の暫定的な安定化手法、封じ込め手法の開発
 「建設事業における地盤汚染の挙動予測・影響評価・制御技術の開発」では、建設工事において重金属類や揮発性有機化合物等により汚染された土壌、地下水に遭遇する場合において、汚染の拡散を防止して安全に工事を進めるための地盤汚染の挙動予測・影響評価・制御技術を開発することを目標としている。平成15年度は、建設工事中に地盤汚染に遭遇した場合の調査、影響検討、対策、モニタリングに関する考え方を整理し、「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル(暫定版)」を作成した。また、いくつかの地盤汚染事例に対し、マニュアルの適用性について検討を行い、以下のような課題があることを明らかにした。
(1) 調査目的の明確化(有無の確認か、対策範囲の設定か)
(2) 跡地利用と対策レベルの関係
(3) 自然的原因により有害物質が存在する場合の濃度レベルとリスクの考え方
  今後は、これらの課題の解決を目指した検討を行っていく予定である。
  なお、「建設分野におけるダイオキシン類汚染土壌対策技術の開発」は、平成14年度で終了している。


個別課題の成果

4.1 建設資材の環境安全性に関する研究(1)

    研究予算:運営交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平14~平17
    担当チーム:材料地盤研究グループ(新材料)
    研究担当者:明嵐政司、守屋進
【要旨】
 近年、環境意識の高まりとともに、建設事業における地盤改良などに使用する建設資材の環境安全性を確認し、環境への影響を明らかにすることが求められている。平成15年度は、昨年度実施した防水シート、ジオグリッド、ジオテキスタイル、発泡スチロールなどの地盤材料の環境ホルモン分析結果に基づいて、環境ホルモンを含んでいる地盤材料からの環境ホルモンの溶出挙動及び土壌による環境ホルモンの吸着に関する実験を行った。

キーワード:建設資材、環境安全性、地盤材料、環境ホルモン、溶出挙動、吸着


4.2 建設資材の環境安全性に関する研究(2)

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平14~平17
    研究担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
    研究担当者:小橋秀俊、森啓年
【要旨】 
 本研究はセメント改良土等の土質材料から溶出する可能性がある重金属類の環境影響を把握するとともに、土質材料の環境安全性を評価する技術を確立することを目的として実施するものである。15年度は、14年度に引き続きセメント改良土から溶出する六価クロムに関する検討を行った。その結果、既設のセメント改良土から溶出する六価クロムの影響について現地調査を実施した箇所において、六価クロムが周辺地盤に影響を及ぼしているものはなかった。また、既設のセメント改良土から六価クロムが溶出することを想定した実験では、周辺地盤のもつ吸着や還元効果により周辺地盤への六価クロムの拡散はわずかであることが確認された。

キーワード:セメント改良土、六価クロム、溶出


4.3 特殊な岩盤及び岩石による環境汚染の評価手法の開発

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平14~平17
    研究担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
    研究担当者:佐々木靖人,阿南修司,柴田光博,伊藤政美
【要旨】 
 掘削面として露出する岩盤や掘削ズリなどの岩石中には重金属等を含むものがあり,これらの溶出が周辺環境や生態への影響,人の健康などに影響を与える可能性が近年問題となっている。このため,道路の計画・調査,施工,管理の各段階で,岩盤や掘削ズリの重金属類溶出の抑制対策が求められている。
  15年度は,岩盤や掘削ズリからの重金属類の溶出の予測手法に関して,岩石を対象とした溶出試験の試験条件を決定するため,試料の物理性状と溶出量の影響について検討した。その結果,試料の粒径を0.075mm以下に調整すると粒度分布の再現性がよいこと,溶出量は試料が細粒であるほど多くなる傾向があること,重金属の溶出は硫酸イオンやカルシウムイオンに比べ複雑な反応による可能性があることが明らかとなった。

キーワード:掘削ズリ,重金属,溶出試験,粒度分布,比表面積


4.4 建設事業における地盤汚染の挙動予測・影響評価・制御技術の開発

    研究予算:運営費交付金(道路整備、治水勘定)
    研究期間:平14~平17
    研究担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
    研究担当者:小橋秀俊、古本一司、森啓年、大野真希
【要旨】 
 建設工事において、重金属等によって汚染された土壌、地下水に遭遇する場合がある。このような場合。浄化など恒久的な対策を実施することが望ましいが、安全かつ経済的な対策が存在しないのが現状であり、汚染の拡散を防止し安全に工事を進めることが可能となる技術の確立が求められている。
  本研究は、建設工事において遭遇する地盤汚染について移流分散解析等を用いた影響予測技術や汚染拡散防止技術およびモニタリング技術の開発を行い、これらを中心とした地盤汚染制御技術の提案を行う。15年度は、建設工事中に地盤汚染に遭遇した場合の調査、影響検討、対策、モニタリングに関する考え方を整理し、「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル(暫定版)」を作成した。

キーワード:土壌汚染、地下水汚染、制御技術