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XIII 超長大道路構造物の建設コスト縮減技術に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成14年度~17年度
プロジェクトリーダー:構造物研究グループ長 福井次郎
研究担当グループ:耐震研究グループ(振動、耐震)、基礎道路技術研究グループ(舗装、トンネル)、構造物研究グループ(橋梁構造、基礎)

1. 研究の必要性
 豊かで質の高い暮らしを実現するためには、複数の都市あるいは地域が連携し、それぞれの資源あるいは機能を共有することが重要である。海峡を挟んだ複数の地域において、このような地域の交流と連携を図るため、超長大道路構造物の建設コストを縮減する技術の開発が求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 本研究では、建設コスト縮減の可能性のある新たな構造あるいは施工法に着目し、吊橋については、新形式主塔および基礎の耐震設計法の開発、耐風安定性に優れた上部構造形式の開発、薄層化舗装およびオープングレーチング床版技術の開発を行い、トンネルについては、トンネルボーリングマシンを用いたトンネル設計法の開発を行うことを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 超長大橋の新しい形式の主塔、基礎の耐震設計法の開発
   (2) 耐風安定性に優れた超長大橋上部構造形式の開発
   (3) 薄層化舗装、オープングレーチング床版技術の開発
   (4) 超長大トンネル用トンネルボーリングマシンを用いたトンネル設計法の開発

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 超長大橋下部構造の設計・施工の合理化に関する試験調査(平成10~17年度)
   (2) 大規模地震を想定した長大橋梁の耐震設計法の合理化に関する試験調査(平成10~17年度)
   (3) 経済性・耐風性に優れた超長大橋の上部構造に関する調査(平成11~17年度)
   (4) 薄層化橋面舗装の施工性能向上に関する研究(平成14~15年度)
   (5) 経済性に優れた長大トンネルの掘削方法に関する試験調査(平成11~15年度)
 このうち、平成17年度は(1)~(3)の3課題を実施している。

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別課題の17年度の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。「2. 研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、プロジェクト期間中の成果について要約すると以下のとおりである。

(1) 超長大橋の新しい形式の主塔、基礎の耐震設計法の開発
 「大規模地震を想定した長大橋梁の耐震設計法の合理化に関する試験調査」では、複合構造主塔および軟岩上直接基礎の耐震設計法を開発することを目標とした。平成14年度は、RC主塔および鋼製主塔の地震時挙動特性等に関する安定解析を行い、耐荷力特性、損傷特性を明らかにした。この結果と既往の模型載荷実験で明らかとなった耐力・変形特性を併せ、地震時限界状態を考慮した耐震照査法(案)としてとりまとめた。また、地盤の軟化剛性と基礎底面での滑動、剥離を考慮した基礎の非線形動的FEM解析を実施し、基礎の回転角および水平変位量評価方法の妥当性を検討した。この結果に基づき、軟岩上直接基礎の地震時変位予測法を提案した。15年度は、複合構造主塔の試設計、プッシュオーバー解析を実施し、耐荷力・変形性能等を明らかにした。16年度は、前年度の検討を継続し、プッシュオーバー解析と動的解析を併用した新しい主塔構造の地震時限界状態評価法を提案した。17年度は、これまでの検討結果をとりまとめるとともに、これらの成果をもとに大規模地震時における長大吊橋上部構造の限界状態、許容できる損傷度を設定して耐震性能照査法を提案した。
 「超長大橋下部構造の設計・施工の合理化に関する試験調査」では、新形式基礎としてサクション効果を考慮した基礎およびパイルドファウンデーションの開発を目標とした。平成14年度は地震時に基礎底面に作用するサクション効果について、室内模型実験および動的解析を行い、サクション効果を考慮した基礎の新しい地震時応答解析手法を検討した。15年度は、前年度の検討を継続してサクション効果を考慮した直接基礎の転倒モーメント算定式を提案した。また、試設計を行い、サクション効果を考慮することによりコスト縮減が可能なことを明らかにした。パイルドファウンデーションについては、鉛直載荷実験を行い、杭の荷重分担以外に杭による地盤補強効果があること等を明らかにした。16年度は、サクション効果については、遠心載荷試験を実施し、水深の増大に応じて非常に大きなサクション効果が期待できること、地震波を模した繰り返し載荷でも基礎の抵抗モーメントはほとんど低下せず、地震時もサクション効果が期待できること、砂地盤においても根入れがある場合はサクション効果が発揮されること等を明らかにした。パイルドファウンデーションについては、FEM解析、遠心載荷試験を実施し、杭と地盤の摩擦を地盤の相対密度の増加に換算した上で直接基礎として設計できる可能性があること等を確認した。17年度は、サクション効果については、遠心載荷試験を継続し、基礎底面下端に設置した止水スカートがサクション効果発揮に有効であること等を確認し、サクション効果を考慮した下部構造の設計計算モデルを提案した。パイルドファウンデーションについては、FEM解析、遠心載荷試験で明らかとなった地震時応答特性等に基づき、杭による地盤支持力増加の評価法、簡易動的解析モデルおよび耐震性能照査法を提案した。

(2) 耐風安定性に優れた超長大橋上部構造形式の開発
 「経済性・耐風性に優れた超長大橋の上部構造に関する調査」では、14年度は開口部を有する2箱桁断面の構造形式を対象としてフラッター解析手法の精度向上を図るため、解析モデル改良を行い、吊橋のケーブル、ハンガーの曲げ剛性を考慮することにより、吊橋の振動特性を精度よく推定できること等を明らかにした。15年度は、桁として二箱桁と一箱桁のハイブリッド構造、ケーブルとして吊り橋と斜張橋のケーブルシステムを併用した新形式の上部構造(斜張吊橋)について構造特性、振動特性を調査し、経済的な諸元を提案した。また、耐風安定性を調査するため、全橋模型を設計・製作した。16年度は前年度製作した全橋模型を用いて風洞実験を実施し、強風によるねじれ変形を抑制するようにケーブルシステムの改良を行うとともに、補剛桁にスプリッター板を設置することにより、所要の耐風安定性を確保できること等を明らかにした。17年度は、フラッター解析を実施し、スプリッター板設置による耐風安定性向上の効果を確認した。これらの結果をとりまとめ、経済性・耐風性に優れた上部構造形式として、支間中央部に空力特性の優れた二箱桁を配置するとともに、主塔近傍では桁幅を絞り主塔基礎の軽減の図れる一箱桁を併用した桁構造を有し、ケーブルとして吊り橋と斜張橋のケーブルシステムを併用した新形式の上部構造(斜張吊橋)を提案した。また、この上部構造(斜張吊橋)を国際特許に出願した。

(3) 薄層化舗装、オープングレーチング床版技術の開発
 「薄層化橋面舗装の施工性向上に関する研究」では、施工温度の適用範囲が広く、施工性に優れたSMA(砕石マスチックアスファルト)を対象に薄層化橋面舗装の検討を行った。14年度は、締固め度や床版との付着性を調査し、締固め性・接着性への締固め温度の影響を考慮して橋面用混合物を選定する必要があること等を明らかにした。15年度は、SMAに関し、床版との付着性、水密性、経済性等に関する検討を継続し、中温化技術の有効性、施工精度を考慮した必要舗装厚さ等を解明した。また、試設計により薄層化舗装によるコスト縮減効果を確認した。これらの結果をとりまとめ、超長大橋梁への適用を対象とした舗装材料仕様、舗装厚、施工管理、端部処理等を規定した薄層化舗装技術を提案した。
 「経済性・耐風性に優れた超長大橋の上部構造に関する調査」では、耐風性向上、死荷重軽減を目的としたオープングレーチング床版の検討を行った。14年度は、輪荷重走行試験を実施し、疲労耐久性に優れたオープングレーチング床版の開発を試みた。15年度は、前年度の検討を継続し、容易に取り替え可能な2層型式構造のオープングレーチング床版を提案した。

(4) 超長大トンネル用トンネルボーリングマシンを用いたトンネル設計法の開発
 「経済性に優れた長大トンネルの掘削方法に関する試験調査」では、14年度は、計測データに基づきトンネルボーリングマシン(TMB)による施工時の地山状態と補助工法の関係の分析および支保工に作用する荷重の評価を実施し、機械データに基づき大規模トラブルは予測可能であること、地山等級によって支保工に作用する荷重の傾向が異なること等を明らかにした。15年度は、前年度の検討を継続し、機械データが地山評価の有用な指標となり、補助工法採用の判断に利用できる可能性があること等を明らかにした。これらの結果をとりまとめ、TMBトンネルの支保工の設計モデルおよび設計荷重を提案した。


個別課題の成果

13.1 超長大橋下部構造の設計・施工の合理化に関する試験調査(1)

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平10~平17
    担当チーム:構造物研究グループ(基礎)
    研究担当者:中谷昌一、竹口昌弘
【要旨】
 現在検討が進められている新交通軸における超長大橋に関する技術検討の中で、大水深基礎の経済的な建設技術が課題の一つに挙げられている。本研究は、基礎に生じるサクション効果やパイルドファウンデーションを考慮することにより基礎寸法を小さくし、工費の削減を可能とする新しい設計手法の提案を目標として実施するものである。
 17年度は、砂地盤上でのサクション効果について大型遠心載荷装置を用いて実験を行った。また止水スカートを取り付けることによりサクション効果が不透水性地盤と同等まで向上することを確認した。さらに、パイルドファウンデーションによる基礎地盤の耐荷性能の要因分析を行い、補強した杭の軸剛性の合計値より地盤の増加支持力を予測する相関式の提案を行った。

キーワード:サクション、止水スカート、大型遠心載荷試験、パイルドファウンデーション


13.2 超長大橋下部構造の設計・施工の合理化に関する試験調査(2)

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平10~平17
    担当チーム:耐震研究グループ(振動)
    研究担当者:杉田秀樹、近藤益央、谷本俊輔
【要旨】
 現在検討が進められている新交通軸における超長大橋建設に関する技術検討の中で、工費を削減することが求められており、その1つとして基礎の工費縮減という技術開発の方向性がある。このため、本研究はパイルドファウンデーションやサクションの効果を考慮した新しい基礎形式の提案を目標として実施するものである。
 本研究では、新形式基礎の一つとして海外で実績のあるパイルドファウンデーションの地震時振動特性の解明、耐震設計法の提案を目的とし、動的遠心模型実験および数値解析を実施した。動的遠心模型実験により、地震時にパイルドファウンデーションに生じる変位は動的成分に比べて残留成分が卓越するため、耐震性能の照査に際しては残留変位量の合理的な評価が不可欠であることが明らかとなった。このため、地震時残留変位を照査することのできる簡易動的解析モデルを提案し、パイルドファウンデーションの耐震性能照査法を概成した。

キーワード:橋梁基礎、パイルドファウンデーション、動的遠心模型実験、動的解析、残留変位


13.3 大規模地震を想定した長大橋梁の耐震設計法の合理化に関する試験調査

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平10~平17
    担当チーム:耐震研究グループ(耐震)
    研究担当者:運上茂樹、遠藤和男
【要旨】
 巨大地震の断層直近に計画される中央支間長2000mを超える超長大吊橋に対する合理的・経済的な耐震設計法を検討することを目的として、これまで、長大吊橋上部構造の主要部材の中で、大規模地震時に上部構造を構成する上で重要となる主塔構造に着目し、プッシュオーバー解析あるいは非線形動的解析等を実施して、振動特性、耐力・変形特性及び主塔各部の損傷特性等について検討を行ってきた。H17年度は、これまでの検討成果を取りまとめるとともに、これら成果をもとに大規模地震時における新形式主塔構造を含む長大吊橋上部構造の限界状態、許容できる損傷度を設定して耐震性能照査法の提案を行った。

キーワード:超長大吊橋、主塔、プッシュオーバー解析、耐震性能照査法、限界状態


13.4 経済性・耐風性に優れた超長大橋の上部構造に関する調査

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平11~平17
    担当チーム:構造物研究グループ(橋梁構造)
    研究担当者:村越潤、麓興一郎、高橋実、稲垣由紀子
【要旨】
 新交通軸の一部を形成する超長大橋を経済的に建設するためには、従来の長大橋を超える新たな技術開発が必要である。とりわけ、超長大橋においては、耐風安定性の確保が重要な課題の一つとなっている。本調査は、耐風性・経済性に優れた超長大橋上部構造を提案することを目的とする。
 現重点プロジェクト研究以前に、経済性・耐風性に優れた上部構造として、追越し車線部にグレーチング床版を設けた二箱桁形式を有する超長大吊橋を提案しているが、さらなるコスト縮減の可能性が高い構造形式として、支間中央部に空力特性の優れた二箱桁を配置するとともに、主塔近傍では桁幅を絞り主塔基礎の軽減の図れる二箱桁と一箱桁を併用した桁構造を有する斜張吊橋を提案した。同構造については、試設計、全橋模型の設計・製作、模型の妥当性の検証を行った後、全橋模型風洞試験を実施し、断面改良を加え十分な耐風性が確保されることを確認した。同時に本橋に対して3次元フラッタ解析手法の適用性について検討を行った。また、維持管理に配慮し、取替え可能な2層式オープングレーチング床版構造を提案するとともに、一連の輪荷重走行試験結果を基に、疲労耐久性の高い構造ディテールを明らかにした。

キーワード:超長大橋、耐風安定性、斜張吊橋、グレーチング床版、疲労、輪荷重試験