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6.大規模岩盤斜面崩壊等に対応する道路防災水準向上に関する研究

研究機関:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:寒地基礎技術研究グループ長 西川純一
研究担当グループ:寒地基礎技術研究グループ(寒地構造、防災地質)

1.研究の必要性

 北海道では、平成8年の豊浜トンネル岩盤崩落を契機に道路斜面の調査、対策が鋭意実施されてきた。しかし、平成13年の北見市北陽の岩盤斜面崩壊、平成16年のえりも町における岩盤斜面崩壊など、大規模な岩盤崩壊が依然として発生している状況にある。さらに、落石規模の斜面変状も数多く発生している。こうした斜面崩壊から道路を守るべく、適切な斜面対策が求められている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、北海道内における道路沿いの斜面における大規模な岩盤崩壊について、調査・点検手法を明らかにしていくこと、さらに、防災工で対応可能な落石規模の斜面崩壊について、道路防災工の性能照査型設計手法を検討・提案し、既設の道路防災工の合理的な補修補強工の開発を行うことを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 大規模岩盤斜面崩壊等に関わる斜面調査・点検手法の提案
   (2) 北海道における岩盤斜面調査点検手法の策定
   (3) 道路防災工の性能照査型設計手法の提案
   (4) 既設道路防災工の合理的な補修補強工法の開発

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 岩盤・斜面崩壊の評価・点検の高度化に関する研究(平成18〜22年度)
   (2) 道路防災工の合理化・高度化に関する研究(平成18〜22年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の研究成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、(1)大規模岩盤斜面崩壊等に関わる斜面調査・点検手法の提案、(3)道路防災工の性能照査型設計手法の提案の2項目が、それぞれ平成18〜20年度に実施するものであり、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)大規模岩盤斜面崩壊等に関わる斜面調査・点検手法の提案

 北海道における岩盤・斜面崩壊事例の収集を行い、地球科学的観点から整理した。整理検討にあたっては、記録が残されている規模の大きな岩盤・斜面崩壊(崩壊土量1,000m3)を対象に、分布、地形・地質との関係、地震、降水・融雪等の発生要因との関係を検討した。この結果、崩壊事例は全部で33例あり、えりも東海岸及び日本海沿岸での崩壊が多い。崩壊規模については、日本海沿岸域で10,000m3を越える事例が多く、えりも地域では10,000m3以下の事例がほとんどである。地質との関係では、火砕岩とホルンフェルス〜砂岩・泥岩での崩壊例が多い。誘因については、11例が地震を誘因とする可能性がある。
 1996年以降に発生した大規模岩盤崩壊(豊浜トンネル、第2白糸トンネル、北陽、えりも)について整理した。これらの崩壊要因は様々だが、地下水の作用が大きな要因を占めていると推定された。なお、崩落監視および危険の回避という観点から重要となる前兆現象について、整理・検討を進めていく必要があると考えられる。
 上記の知見を踏まえつつ、新しい道路防災点検箇所のスクリーニング方法を構築した。この新たな方法は、管理対象道路の中から安定度調査箇所を選定するための絞込みを2段階で実施する。第1絞込みでは、管理対象道路の防災レベルを概括的に把握して「点検対象区間」を選定する。第2絞込みでは、選定された点検対象区間について災害要因を抽出し、「安定度調査箇所」を選定する。このとき「地域特性把握図」や「道路防災基本図」を作成しつつ情報の整理・把握に十分に利活用する。なお、同スクリーニング方法は北海道開発局に提案済みであり、北海道開発局では提案されたスクリーニング方法に基づき、新たな道路防災点検を実施中である。
 道路斜面防災は、危険斜面の調査抽出から始まり、点検や斜面変状の観測・監視へと進み、斜面の直接的な対策、あるいはトンネルなどによる迂回などの対策を実施する。スクリーニングにおいては確実性を向上させることにより「見落とし」をなくすと共に、その逆の「オオカミ少年」となることを極力回避することが望まれる。スクリーニングの次のステップである安定度調査では、斜面を精度良く評価し適切な対策への橋渡しとなることが期待される。以上のためには、斜面の調査・評価・対策の個々の技術において最新の知見・技術を取り込むと共に、三者をバランス良く実施していくことが重要である。そして、このためには、微地形と地質との関係、岩相や地質構造、岩石や鉱物特性、岩石の風化・劣化など地質学的アプローチと、岩石・岩盤の工学特性の計測・評価など工学的アプローチが重要である。

(2)道路防災工の性能照査型設計手法の提案

 トンネル抗口部は急崖部に近接することが多く、その落石対策は重要な課題である。RC製アーチ構造形式のトンネル坑口部における落石を想定した耐衝撃性の確認と、耐衝撃性が十分でない場合には適切な耐衝撃性向上のための対策を講じることが必要である。そこで、RC製アーチ構造形式の耐衝撃特性の把握を目的として、模型幅を変えた小型RCアーチ模型に対して、重錘落下衝撃実験を実施した。実験は200m幅の試験体および800mm幅の試験体それぞれ4体ずつ実施した。その結果、200mm幅の試験体では衝突エネルギーの増加に伴い曲げ破壊が卓越したのに対し、800mm幅の試験体では押し抜きせん断破壊により終局に至ることが確認された。また、アーチ効果が押し抜きせん断破壊に対しては効果的に作用しないことが確認された。今後は、トンネルの内面補強法や落石衝撃力を緩和する緩衝構造の開発、それらの設計法の確立に向け研究を進めたい。
 また、本研究では,道路沿いに設置される道路防災施設の新たな工法として,斜面法尻の掘削を最小限とし,基礎杭を擁壁内まで立ち上げ,フーチングを設けずに土留壁勾配を垂直として基礎杭頭部を鉄筋コンクリート構造で結合する杭付落石防護擁壁を提案し,二層緩衝構造を併用した場合の耐衝撃挙動を把握することを目的に,重錘衝突実験を実施した。その結果、以下のことが明らかとなった。

 

1) 二層緩衝構造を設置した杭付落石防護擁壁に作用する重錘衝撃力は,ラーメの定数をλ = 3,000 kN/m2 とする振動便覧式による算定値と同程度の値を示す。
2) 伝達衝撃力を静荷重として置き換え2次元骨組解析により算出した杭の応力および変位は,実験結果に対して安全側の評価を与える。
3) 二層緩衝構造を設置した杭付落石防護擁壁は,杭の一部が塑性化するような落石エネルギーに対しても残留変位量は小さく,落石エネルギーの吸収性能に優れた工法であることが明らかとなった。
個別課題の成果

6.1 岩盤・斜面崩壊の評価・点検の高度化に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:防災地質チーム
研究担当者:伊東佳彦、日下部祐基、伊藤憲章、岡崎健治、日外勝仁

【要旨】
 北海道では、平成8年の豊浜トンネル崩落を契機に道路斜面の調査・対策が鋭意実施されてきた。しかし、平成13年の北見北陽崩落、平成16年のえりも町での大規模斜面崩壊など、岩盤・斜面崩壊等は依然頻発しており、安全な道路環境の維持・保全のため、より精度の高い斜面の調査・評価・点検等の防災システムの構築が急務となっている。本研究は、このような防災システムを構築することを目的に、地形・地質や岩盤風化などの観点からの斜面の研究を行うものである。平成18年度は既存の資料・事例について整理分析を進めるとともに、北海道における道路防災点検箇所のスクリーニング方法を提案した。

キーワード:大規模岩盤崩壊、道路防災点検


6.2 道路防災工の合理化・高度化に関する研究

研究予算:運営交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒地構造チーム
研究担当者:西 弘明、今野久志、岡田慎哉

【要旨】
 本研究では、RC製アーチ構造形式の耐衝撃特性の把握を目的として、模型幅を変えた小型RCアーチ模型に対して、重錘落下衝撃実験を実施したものである。実験は200mm幅の試験体および800mm幅の試験体それぞれ4体ずつ実施した。結果、200mm幅の試験体では衝突エネルギーの増加に伴い曲げ破壊が卓越したのに対し、800mm幅の試験体では押し抜きせん断破壊により終局に至ることが明らかとなった。また、アーチ効果が押し抜きせん断破壊に対しては効果的に作用しないことが明らかとなった。さらに、この実験に併せて実構造物を用いた実規模衝撃実験を実施し、実規模構造物における衝撃応答特性を検討した。
 また、本研究では,道路沿いに設置される道路防災施設の新たな工法として,斜面法尻の掘削を最小限とし,基礎杭を擁壁内まで立ち上げ,フーチングを設けずに土留壁勾配を垂直として基礎杭頭部を鉄筋コンクリート構造で結合する杭付落石防護擁壁を提案し,二層緩衝構造を併用した場合の耐衝撃挙動を把握することを目的に,重錘衝突実験を実施した。結果、本構造は落石エネルギー吸収性能に優れていることが明らかとなった。また、二次元骨組み解析により、耐衝撃性能評価がおおよそ可能であることが明らかとなった。

キーワード:道路防災工,落石対策工,衝撃実験,アーチ構造,杭付落石防護擁壁