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7.冬期道路の安全性・効率性向上に関する研究

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:寒地道路研究グループ長 小笠原 章
研究担当グループ:寒地道路研究グループ(寒地交通チーム、雪氷チーム)

1.研究の必要性

 積雪寒冷地では、積雪による道路幅員の縮小や、路面の凍結、吹雪による著しい視程障害の発生により冬期特有の渋滞・事故・通行止めなどが発生している。特に、スパイクタイヤの使用規制以降、「つるつる路面」と呼ばれる非常に滑りやすい路面が発生し、渋滞、事故が多発している。また吹雪による通行止めは、北海道の国道の通行止めの4割を占めている。これらの地域では、日常生活や社会経済活動における自動車交通への依存はきわめて高く、路面凍結対策、吹雪対策は重要な課題となっている。

 本重点プロジェクト研究では、冬期の安全・快適な道路交通を確保するための効率的・効果的な道路管理に資する技術開発を行うた

2.研究の範囲と達成目標

めの研究に取り組む。また、防雪対策施設の定量的評価手法を開発すると共に、性能規定の考え方を取り入れた道路吹雪対策マニュアルの改訂に取り組むことで、効率的な防雪施設の計画・整備を可能とし、冬期道路の安全性・効率性向上に資するため、以下の達成目標を設定した。
(1) 効率的・効果的な冬期道路管理手法を可能とするための技術開発
(2) 科学的な事故分析に基づく地域特性に合致した交通事故対策の策定のための技術開発
(3) 吹雪対策施設の定量的評価と性能向上および「吹雪対策マニュアル」改訂に向けた技術開発
(4) 道路交通上の視程計測手法と吹雪視程障害度の指標化および安全支援方策の開発に向けた技術開発

3.個別課題の構成

本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 冬期道路管理に関する研究(平成18〜22年度)
   (2) 寒地交通事故対策に関する研究(平成18〜22年度)
   (3) 防雪対策施設の性能評価に関する研究(平成18〜22年度)
   (4) 吹雪視程障害に関する研究(平成18〜22年度)
平成18年度は(1)、(2)、(3)、(4)の4課題を実施している。

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)効率的・効果的な冬期道路管理手法を可能とするための技術開発

 冬期における安全・快適な道路交通を確保し、効率的・効果的な冬期道路管理手法を可能とするための技術開発を行うため、「冬期道路管理に関する研究」において以下の試験等に取り組んだ。
   ・路面凍結予測手法の構築
   ・冬期路面状態の定量的評価技術に関する試験
   ・凍結防止剤等の散布効果の評価

 「路面凍結予測手法の構築」では、沿道での気象状況と路面温度に関する基礎データを取得するため、気象観測及び路面温度観測を行った。また、路面上での熱量の収支を計算する熱収支法を用い、走行する車両による影響を考慮した路面温度推定モデルとともに、路面状態を推定するために路面での水分の収支を考慮した水収支モデルを構築した。さらに、これらの情報と気象予測情報を道路管理者に提供する「冬期路面管理支援システム」を構築・運用した。
 「冬期路面状態の定量的評価技術に関する試験」では、冬期路面状態を定量的に評価する技術の確立に向け、我が国のすべり摩擦係数計測の標準機器として用いられている「路面すべり測定車」、欧米ですべり摩擦の計測機器として導入実績のある「加速度計」及び走行しながら連続的に路面のすべり抵抗を計測可能な「連続すべり摩擦抵抗測定装置」による計測試験を実施した。
 「凍結防止剤等の散布効果の評価」では、精糖の過程で発生する残渣を固めた「ライムケーキ」をすべり止め材として利用する可能性を調べるため、苫小牧寒地試験道路での散布試験を実施し、すべり抵抗による散布効果の評価を行った。

(2)科学的な事故分析に基づく地域特性に合致した交通事故対策の策定のための技術開発

 科学的な事故分析に基づく地域特性に合致した交通事故対策の策定のため、「寒地交通事故対策に関する研究」において以下の試験等に取り組んだ。
   ・交通事故分析システムの高度化と交通事故分析
   ・地域特性を踏まえた交通事故対策の開発

 「交通事故分析システムの高度化と交通事故分析」では、交通事故分析システムの交通事故データ等の更新をするとともに、交通事故分析システムの分析機能の高度化のために、交通事故と道路構造、気象状況などの要因を分析する機能などを追加した。また、近年の交通事故死者数減少要因の分析を行った。
 「地域特性を踏まえた交通事故対策の開発」では、実道での施工が進むランブルストリップスの設置が適切に行われるため、基本的な考え方、具体的な規格や施工方法、設置の際の留意事項を「ランブルストリップス整備ガイドライン(案)」として取りまとめ、発行した。
 さらに、地域特性に合致した交通事故対策の開発の取り組みの一つとして、ランブルストリップスの設置適用箇所の拡大に向け、白線破線(追越し可)に設置するランブルストリップスの規格検討を行った。

(3)吹雪対策施設の定量的評価と性能向上および「吹雪対策マニュアル」改訂に向けた技術開発

 吹雪対策施設の定量的評価と防雪対策施設の性能向上および「吹雪対策マニュアル」改訂に向けた技術開発を行うため、「防雪対策施設の性能評価に関する研究」において、以下の試験に取り組んだ。
1) 防雪施設の評価に必要な課題の抽出  吹雪対策の効果計測を行った既往研究文献を収集し、防雪施設の評価に必要な以下の課題を抽出した。
・観測機器の道路上の設置箇所による差異
・観測機器の設置高さによる差異
・吹きだまり形状による視程への影響 等
2) 吹き止め式防雪柵の性能評価計測
・石狩吹雪実験場に実物の吹き止め柵を設置し、視程、風速等の観測を行った。

 H19年度は、野外調査の継続とデータ解析を行い、防雪施設の定量的評価手法に関する検討を進めたい。

(4)道路交通上の視程計測手法と吹雪視程障害度の指標化および安全支援方策の開発に向けた技術開発

 道路交通における視程計測評価方法を定め、吹雪視程障害度の指標化と視程障害時の安全支援に資する技術開発を行うため、「吹雪視程障害に関する研究」において、以下の試験に取り組んだ。
1) 視程計測に関する実態把握
一般国道40号沿いの4箇所で吹雪視程を計測し、時間変動と空間変動を把握し以下の知見を得た。
・視程を平均する対象の時間が長くなるにつれて視程変動強度は大きくなる。
・視程の10分平均では、視程変動強度の値は概ね0.3以下である。
・風速の場合、観測地点間の距離が離れる程、両地点間の風速の相関係数は低下するが、視程ではその傾向はみられない。等
2) 吹雪視程への影響要因把握に向けた実験
・石狩吹雪実験場で、視程計や、視程板による吹雪の観測を行った。

 H19年度は、野外調査の継続とデータ解析を行い、吹雪時の視認性への影響要因に関する検討を進めたい。

個別課題の成果

7.1 冬期道路管理に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒地交通チーム・雪氷チーム
研究担当者:徳永ロベルト、舟橋誠、松澤勝

【要旨】
 本研究は、冬期の安全・快適な道路交通を確保するための効率的・効果的な道路管理手法を提案し、冬期道路管理マネジメントシステムに資する技術開発を行うための研究に取り組むものである。平成18年度は、路面凍結予測手法の構築や冬期路面状態の定量的評価技術に関する試験、精糖時に発生する残渣から製造したすべり止め材等の散布効果に関する試験等を行った。

キーワード:熱収支モデル、路面凍結予測、凍結防止剤、すべり摩擦係数


7.2 寒地交通事故対策に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒地交通チーム
研究担当者:平澤匡介、小寺紳一、武本東

【要旨】
 全国の交通事故死亡者数は、平成17年に7,000名を切り、平成18年には約6,400名となった。北海道においては、都道府県別交通事故死者数のワーストワン記録を平成17年に14年ぶりに返上し、平成18年には300名を切った。しかし、都道府県別で愛知県に次ぎ2位となっており、依然として交通事故で多くの犠牲者を出している。また、冬期にはスリップ事故等の冬型交通事故が多発しており、寒冷地特有の交通事故も含め寒地交通事故対策は良質な社会資本整備のための重要な課題である。平成18年度は、科学的な事故分析を行うための交通事故分析システムの高度化、死亡交通事故対策や冬型交通事故対策等の地域特性を踏まえた事故対策等の研究開発を行った。

キーワード:交通事故分析システム、交通事故対策、地域特性、ランブルストリップス


7.3 防雪対策施設の性能評価に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:雪氷チーム
研究担当者:加治屋安彦、松澤勝、伊東靖彦、山田毅

【要旨】
 北海道では、国道における通行止め原因のうち吹雪による視程障害が4割を占めるなど、吹雪による冬期交通障害が多く発生している。本研究では、効果的な防雪対策の計画、施工を容易にするため、防雪対策の性能評価法を検討する。平成18年度は、防雪林もしくは防雪柵の視程障害緩和と吹きだまり防止効果に関する既往の研究文献を収集分類した。そして、観測機器の設置箇所や設置高さによる計測値の違いなど、防雪施設の評価に必要な項目を抽出した。また、標準的な防雪柵として吹き止め式防雪柵の性能評価方法を確立するため、石狩吹雪実験場に実物柵を設置し、視程、風速等の観測を行った。

キーワード:防雪柵、防雪林、性能評価、視程


7.4 吹雪視程障害に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:雪氷チーム
研究担当者:加治屋安彦、松澤勝、伊東靖彦、武知洋太

【要旨】
 道路の吹雪対策や道路管理に用いられてきている「視程」は航空気象に基づく定義であり、道路交通管理のための視程とその計測法は、十分に確立されていない。そこで、道路交通における視程の評価方法を検討するため、野外観測により吹雪時の視程の時間変動、空間変動の実態把握を行った。その結果、視程を平均する対象の時間が長くなるにつれて視程変動強度(平均偏差と平均視程の比)は大きくなることや、視程の10分平均では、視程変動強度の値は概ね0.3以下であること等が明らかになった。

キーワード:吹雪、視程、視程障害、視程計測