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10.道路構造物の維持管理技術の高度化に関する研究

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:構造物研究グループ長 福井次郎
研究担当グループ:技術推進本部(施工技術、構造物マネジメント技術)、材料地盤研究グループ(新材料)、道路技術研究グループ(舗装、トンネル)、橋梁構造研究グループ(橋梁)

1.研究の必要性

 国土交通省が所管する膨大な道路構造物を効率的に維持管理していくためには、損傷・変状に対する精度の高い調査点検技術、調査点検結果に基づく適切な診断技術、合理的な補修・補強技術の各要素技術を開発するとともに、それぞれを有機的に結合し、戦略的にマネジメントしていくシステムを構築する必要がある。
 前中期計画までの研究において、個々の要素技術については、一応の成果を上げつつある。しかし、多様な現場条件に対応した維持管理を実施していくためには、さらに多くの要素技術を開発する必要がある。また、これらの要素技術を有機的に結合するシステムについて、これまでの検討は十分ではない。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、道路構造物の維持管理技術について、緊急度の高い要素技術を開発するとともに、補修・補強の要否の判断、優先順位付け等の作業を支援するアセットマネジメントの概念に基づくシステムについて検討することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 新設構造物設計法の開発
     ・土構造物排水施設の設計法
   (2) 調査・点検手法の開発
     ・土構造物の排水性能の調査点検技術および排水機能回復技術
     ・コンクリート中塩分調査箇所選定手法
     ・トンネル変状原因推定法
   (3) 補修・補強技術の開発
     ・土構造物排水機能回復技術
     ・コンクリート中の塩分除去技術
     ・コンクリート補修補強材料耐久性評価技術
     ・鋼橋防食工の補修技術
     ・鋼床版補修補強技術
   (4) マネジメント技術の開発
     ・舗装管理目標設定手法
     ・舗装維持修繕手法
     ・トンネル変状対策工選定手法

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 土構造物の排水性能向上技術に関する研究(平成18〜21年度)
   (2) 塩害を受けるコンクリート構造物の脱塩による補修方法に関する研究(平成17〜19年度)
   (3) 被覆系コンクリート補修補強材料の耐久性に関する研究(平成17〜21年度)
   (4) 鋼橋防食工の補修に関する研究(平成18〜22年度)
   (5) 既設鋼床版の疲労耐久性向上技術に関する研究(平成16〜20年度)
   (6) 舗装の管理目標設定手法に関する研究(平成17〜21年度)
   (7) 効率的な舗装の維持修繕手法に関する研究(平成18〜22年度)
   (8) 既設トンネルの変状対策工の選定手法に関する研究(平成17〜19年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)新設構造物設計法の開発

 本目標に関して、土構造物(盛土・擁壁)に要求される排水性能を明らかにし、盛土材や排水材などの使用材料、降雨量、構造条件等に応じた排水施設の設計手法を提案することを目標としている。18年度は、異常降雨時に安定性に問題が生じやすい集水地形の盛土について、地下水位上昇を単純なモデルで表現した円弧すべり計算を実施した。その結果、盛土形状、土質、地下水位が盛土の安定性に及ぼす影響ついて把握した。

(2)調査・点検手法の開発

 本目標に関して、コンクリート中塩分調査箇所選定手法については、塩害に対する補修方法の一つである電気化学的脱塩に着目し、脱塩による補修の適用範囲や注意点について検討している。18年度は、通電中の供試体における電流密度分布の解析結果と、円柱供試体を用いた実験結果を比較した。その結果、解析によって塩化物イオンを除去できる範囲を明らかにできること、脱塩後も残留する塩化物イオン量を予測できる可能性があることを明らかにした。

(3)補修・補強技術の開発

 本目標に関して、コンクリート補修補強材料の耐久性評価技術については、開発されている様々なコンクリート補修補強工法のコスト評価をするため、補修補強材料・工法の耐久性に関する情報を整理するとともに、耐久性の評価に関する検討を行っている。18年度は、塩害に対する補修を実施した橋梁より採取した補修材料の調査および各地で暴露していた供試体の調査を実施した。その結果、被覆系補修補強材料の耐久性や遮塩性などの補修効果に関する情報を得た。
 鋼橋防食工の補修技術については、塗装回数を削減できる新規塗装系を確立するとともに、塗装以外の防食法の適用環境条件の見直しおよび適切な補修方法を確立することを目標としている。18年度は、塗装費の削減を目指した新規重防食塗装系について、防食性能、耐候性の評価を行った。その結果、従来の重防食塗料に対して、18種類の塗装系が同程度の防食性能を有し、17種類の塗装系が同程度の耐候性を有していると判断した。また、耐候性鋼を用いた橋梁の劣化実態調査を行った結果、漏水や結露しやすい内桁では層状はく離さびを生じているものがあり、外桁外観のみでは保護性さびの生成は判断できないことを明らかにした。
 鋼床版の補修補強技術については、デッキ進展き裂を含めた主要なき裂の損傷原因を解明し、疲労性状改善効果の高い補修・補強工法を開発することを目標としている。18年度は、解析および実験の両面から既設鋼床版に発生する疲労亀裂の発生原因について検討するとともに、鋼部材を主とする補強工法および剛性の高い舗装を用いる補強工法について検討した。その結果、亀裂発生メカニズムを把握するとともに、提案する補強工法の補強効果を確認した。

(4)マネジメント技術

 本目標に関して、舗装管理目標設定手法については、管理目標設定の技術的根拠を明らかにするとともに、実情に応じた舗装の管理目標値の設定手法をとりまとめることを目的としている。18年度は、実道の路面性状、ひび割れの形態・程度および舗装の構造的な健全度を調査し、道路管理者が舗装管理の指標として利用している路面性状と舗装の構造的な健全度の関連性を検討した。その結果、「ひび割れ率」、「ひび割れの形態」、「ひび割れの幅」が舗装の構造的な健全度と一定の関連性があり、これらを用いて舗装の健全度を推測できる可能性があることを把握した。
 舗装維持修繕手法については、ライフサイクルコスト低減を図るため、各種維持的工法および、近年採用が進んでいる排水性舗装の効果、性能の持続性等を明らかにし、維持修繕方法を提案することを目標としている。18年度は、維持的工法であるクラックシールの性能評価手法および排水性舗装の路面管理指標について検討した。その結果、クラックシールの性能評価手法としてはがれ抵抗性試験、排水性舗装の路面管理指標としてひび割れ幅および横断プロファイルを提案した。
 トンネル変状対策工選定手法については、トンネル覆工の対策工の種類と規模を変状状態に応じて選定する方法を提案することを目標としている。18年度は、文献および実際の変状事例から変状発生原因別に覆工コンクリートに発生したひび割れのパターン化を行い、その特徴を抽出するとともに、鋼板接着工の効果を確認するため実大規模の載荷実験を行った。その結果、損傷した覆工コンクリートを鋼板で補強する場合、コンクリートと鋼板を確実に接着すれば、無垢の覆工コンクリートと比較して変形が抑制され、耐荷力も向上すること等を明らかにした。

個別課題の成果

10.1 土構造物の排水性能向上技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:技術推進本部(施工技術)
研究担当者:大下武志,宮武裕昭,中島伸一郎

【要旨】
 本研究は,盛土・擁壁に要求される排水性能を明らかにし,盛土材や排水材などの使用材料,降雨量,構造条件等に応じた排水工の設計手法を提案するとともに,既設盛土・擁壁の排水性能の調査・点検手法,簡易で効果的な機能回復方法の開発を行うことを目的とする.本年度は,集水地形の盛土を取り上げ,異常降雨時の地下水位の上昇を単純なモデルで表現して円弧すべり計算を実施した.その結果,盛土形状,土質,地下水位に応じた盛土の安定性について傾向を把握した。

キーワード: 盛土,擁壁,排水性能,円弧すべり


10.2 塩害を受けるコンクリート構造物の脱塩による補修方法に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平17〜平19
担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
研究担当者:渡辺博志、古賀裕久、中村英佑

【要旨】
 本研究課題では,塩害に対する補修方法の一つである電気化学的脱塩に着目し,脱塩による補修の適用範囲や注意点について検討している。平成18度は,通電中の供試体における電流密度分布の解析結果と,円柱供試体を用いた実験結果を比較し,解析によって塩化物イオンを除去できる範囲を明らかにできること,脱塩後も残留する塩化物イオン量を予測できる可能性があることを明らかにした。今後,これらの知見について検証する実験を継続すると共に,脱塩工法による補修のガイドライン(案)としてとりまとめる予定である。

キーワード:電気化学期脱塩、補修、コンクリート構造物、塩害


10.3 被覆系コンクリート補修補強材料の耐久性に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平17〜平21
担当チーム:材料地盤研究グループ(新材料)
研究担当者:西崎到、守屋進、木嶋健、加藤祐哉


【要旨】
 様々なコンクリートの補修補強工法が開発されているが、その合理的な選定のためにはライフサイクルを通じたコスト評価が必要である。そのためには補修補強材料の適用環境に応じた耐久性に関する情報が必要であるが、このような基礎資料は不足しているのが現状である。本研究では、長期暴露中の供試体ならびに補修された構造物の調査から、被覆系をはじめとした補修補強材料・工法の耐久性に関する情報を整理するとともに、耐久性の評価・向上に関する検討を行っている。平成18年度は、宮崎県の塩害補修橋梁より採取した試料の調査、並びに静岡県・石川県・茨城県の暴露供試体の調査を実施した。その結果、使用された被覆系補修補強材料の耐久性や遮塩性などの補修効果に関する情報が得られた。。

キーワード:塩害、ASR、表面被覆、連続繊維シート、炭素繊維、暴露試験、実構造物調査、コンクリート耐久性


10.4 鋼橋防食工の補修に関する研究

研究予算:運営交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:材料地盤研究グループ(新材料)
研究担当者:西崎 到、守屋 進


【要旨】
 重防食塗装系の防食性能と耐候性を維持したうえで、塗重ね回数を削減するなどして塗装費の削減を目指した新規塗装系について、その防食性能、耐候性の評価を行った。その結果、18種類の塗装系が従来の重防食塗料と同程度の防食性能を有していると判断され、17種類の塗装系が同程度の耐候性を有していると判断された。今後、これらの試験を継続して新規塗料の長期耐久性を見極める必要がある。また、耐候性鋼橋梁の劣化実態調査を行った結果、耐候性鋼橋梁は、漏水や結露しやすい内桁では層状はく離さびを生じているものがあるので、外桁外観のみでは保護性さびの生成は判断できないことが明らかとなった。

キーワード:鋼橋塗装、塗装コスト削減、新規塗料、各種防食法、補修方法


10.5 既設鋼床版の疲労耐久性向上技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平16〜平20
担当チーム:構造物研究グループ(橋梁)
研究担当者:村越潤、梁取直樹、宇井崇


【要旨】
 既設鋼床版におけるデッキ進展き裂を含めた主要なき裂に対して、その損傷原因の解明と疲労性状改善効果が期待できる補修・補強工法を検討している。対象とした疲労損傷部位は、デッキプレートとUリブ間の溶接部や主桁ウェブ垂直補剛材上端の溶接部、縦リブと横リブの交差部などである。補修・補強工法として、舗装構造の改良や鋼断面補強の検討を進めており、各工法について、解析、実験により各損傷部位周辺の応力軽減・疲労耐久性の改善効果、他の溶接部への影響、補強構造としての疲労耐久性、施工性等の検討を行っている。今後、対策選定の考え方を整理するとともに、個別工法毎に設計・施工法をマニュアルとしてとりまとめていく予定である。

キーワード:鋼床版、疲労き裂、補修・補強


10.6 舗装の管理目標設定手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平17〜平21
担当チーム:道路技術研究グループ(舗装)
研究担当者:久保和幸、藪雅行、加納孝志


【要旨】
 本研究は,舗装の管理目標を設定するための技術的根拠を明らかにするとともに,地域の実情に応じた舗装の管理目標設定の考え方をとりまとめることを目的としている。舗装の管理目標を検討する際には、安全性や快適性等のユーザーサービスの視点と舗装の構造的健全性に着目した道路資産保全の視点の両面から考える必要がある。これらのことを踏まえ平成17年度には,ユーザーサービスの視点から舗装の性能指標が道路利用者に与える影響について検討し,その概括的な関係を把握した。本年度は、道路資産保全の視点に着目し,実道で路面性状,ひび割れの形態・程度,およびFWD(Falling Weight Deflectomater)による舗装の構造的な健全度を調査して,道路管理者が舗装管理の指標として利用している路面性状と舗装の構造的な健全度の関連性に関する検討を行った。その結果,「ひび割れ率」,「ひび割れの形態」,「ひび割れの幅」が舗装の構造的な健全度と一定の関連性があり,これらを用いて道路資産保全の視点から管理目標を設定するための技術的根拠をより明確にできる可能性があることがわかった。

キーワード:ひび割れ,FWD,舗装の構造的健全度,管理指標


10.7 効率的な舗装の維持修繕手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:道路技術研究グループ(舗装)
研究担当者:久保和幸、藪雅行、寺田剛、綾部孝之


【要旨】
 道路構造物の効率的な管理が求められる中、舗装分野においても維持的工法を含めた適切な補修工法の選定によるライフサイクルコストの低減などを推進する必要がある。 平成18年度は、維持的工法であるクラックシールなどの技術の現状を整理するとともに、品質指標の提案を行った。また、近年、道路交通騒音低減の観点等から採用が進んでいる排水性舗装について、その破損形態が従来の密粒度アスファルト舗装と異なることから、排水性舗装特有の管理指標について検討を行った。

キーワード:舗装、維持修繕、クラックシール、予防的修繕、材料規格


10.8 既設トンネルの変状対策工の選定手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平17〜平19
担当チーム:道路技術研究グループ(トンネル)
研究担当者:真下英人、角湯克典


【要旨】
 本研究は、トンネルの定期点検・調査データ等から変状の発生原因を推定する手法を検討するとともに、トンネル覆工載荷実験および数値解析などにより定量的に変状対策工の効果を評価し、変状状態に応じて必要となる対策工の種類と規模を選定する方法について検討するものである。本年度は、文献および実際の変状事例から変状発生原因別に覆工コンクリートに発生したひび割れのパターン化を行い、その特徴を抽出するとともに、トンネル補強工の一種である鋼板接着工の効果を確認するため実大規模の載荷実験を行った。実験結果からは、損傷した覆工コンクリートを鋼板で補強した場合、コンクリートと鋼板を確実に接着すれば、無垢の覆工コンクリートと比較して変形が抑制され、耐荷力も約15%程度向上することがわかった。

キーワード:トンネル、ひび割れ原因推定、変状対策、鋼板接着工、載荷実験