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13.水生生態系の保全・再生技術の開発

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:水環境研究グループ グループ長 中村 敏一
研究担当グループ:水環境研究グループ(河川生態、水質、自然共生研究センター)、材料地盤研究グループ(リサイクル)、水災害研究グループ(水文)

1.研究の必要性

 我が国の淡水域や湿地帯の水生生物は、河川や湖沼における改修工事、ダム建設、河川周辺農地における営農形態の変化や、流域の土地利用変化により大きな影響を受けている。このような水域環境の変化のなかで地域固有の生態系を持続的に維持するためには、河川・湖沼が本来有していた生態的機能を適正に評価し、これを保全・再生すること(自然再生)が必要であり、社会的要請も高い。
  河川・湖沼の生態的機能は、水域や水際域が持つ物理的類型景観、流量・水位変動特性、土砂・栄養塩類・有機物動態、河床材料などの要素により規定されているが、それぞれの要素の生物・生態系への影響については複合的であるために未解明な点が数多く残っており、これらを整理し、定量的評価を加えることは自然再生を適切に行うための喫緊の課題であり、研究の必要性が高い。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、河川・湖沼が有する生態的機能について、水域や水際域が持つ物理的類型景観、流量・水位変動特性、土砂・栄養塩類・有機物動態、河床材料などの要素が生物・生態系に影響する状況を種々の視点から抽出し、これらの生態的機能を定量的に評価すると共に、河川・湖沼などの水域環境を生物・生態系の視点から良好な状態に再生するための技術開発を行うことを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 新しい水生生物調査手法の確立
   (2) 河川地形の生態的機能の解明
   (3) 流域における物質動態特性の解明と流出モデルの開発
   (4) 河川における物質動態と生物・生態系との関係性の解明
   (5) 湖沼の植物群落再生による環境改善手法の開発

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 水生生物の生息環境の調査手法と生態的機能の解明に関する研究(平成18〜22年度)
   (2) 河川工事等が野生動物の行動に与える影響予測及びモニタリング手法に関する研究(平成18〜22年度)
   (3) 河川における植生管理手法の開発に関する研究(平成17〜21年度)
   (4) 多自然川づくりにおける河岸処理手法に関する研究(平成18〜20年度)
   (5) 河床の生態的健全性を維持するための流量設定手法に関する研究(平成18〜21年度)
   (6) 流域規模での水・物質循環管理支援モデルに関する研究(平成18〜22年度)
   (7) 河川を流下する栄養塩類と河川生態系の関係解明に関する研究(平成18〜22年度)
   (8) 土砂還元によるダム下流域の生態系修復に関する研究(平成18〜21年度)
   (9) 湖沼・湿地環境の修復技術に関する研究(平成18〜22年度)

 このうち、平成18年度は(1)〜(9)の9課題を実施している。

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)新しい水生生物調査手法の確立

1)分布を考慮した定量的底生生物調査手法の確立

 河川において生物生息場としての瀬淵構造と水生生物の関係を評価するため、研究に適した現地調査地として、長野県千曲川において人力では作業困難な急流部と河床深部において重機を用いた生物調査を試み、その手法について有効性と改良点を検討するとともに、瀬の石礫構造と水生生物の生息の関係を調査した。また、栃木県鬼怒川において黒部ダム下流での河床土砂減少に伴う河床低下と岩盤露出の現況を空中写真および現地踏査により把握し、黒部ダム上下流の水質、藻類、底生動物群集を比較する調査を行った。

 

2)野生動物自動追跡システムのアユへの適用

 野生動物自動追跡システム(Advanced Telemetry System: ATS)をアユに適用することを目的に、アユ用電波発信機の開発を行った。また、開発したアユ用発信機の装着方法の違いがアユの生存・成長・行動能力に与える影響を評価する飼育実験を行った。装着方法は、外部装着(アユの背部に電波発信機を装着する方法)と内部装着(アユの腹腔内に電波発信機を装着する方法)の影響を比較した。
  その結果、縦20mm×横10mm×厚さ2mm、重量約1.5gの電波発信機の開発に成功した。装着方法は、内部装着がアユの生存・成長・遊泳能力に影響の少ない装着方法と考えられた。

(2)河川地形の生態的機能の解明

1)河川における植生管理手法の開発に関する研究

 河道内の樹林化が進行している小貝川で、河川植生の変遷について研究を進めた。空中写真で読み取った地被状態の変化や植生高の変化から、樹林の面積拡大や高木化が進んでいることを定量的に示した。河川の高水敷における樹林化の背景には、生活様式の変化と河川改修の減少により、河川が利用されなくなった結果として樹林化が進行していることが示唆された。さらに、小貝川の現存植生について調査を行った結果、比較的標高の高い場所に分布し、人為影響が減少した植物群落は、竹林で遷移が止まっているパターンと群落内に照葉樹林の構成種が見られ、気候により遷移が進行しているパターンがあった。また、河川の作用が及ぶ標高の低い箇所と、耕作放棄に伴い遷移が中断・進行している箇所の中間域では、ヤブ化が進行し、氾濫原植生の生育場を減少させている可能性があることが分かった。

 

2)多自然川づくりにおける河岸処理手法に関する研究

 水際のタイプを大きく「石(礫)」および「植物」の2 タイプに類型化し、前者については「石の間隙の魚類の利用状況」、後者については「流量変化に伴う水際植物の魚類生息場としての機能」に関する調査を、実験河川を用いて実施した。また、実河川(砂鉄川)における河岸修復工法の魚類生息場所としての評価を実施した。主要な成果は以下のとおりである。a)礫により形成される水中の間隙は魚類の棲家として機能しており、礫の大きさにより棲息する種類組成が異なることが明らかとなった。b)水際法面に植物が生育していると、増水時でも水際部の流速が抑えられ、魚類の生息場(避難場)として機能することが確認された。また、その効果は植生が密であるほど大きくなることが明らかになった。c)修復工法の導入により魚類の生息に効果が認められ、その効果はとろ区間よりも瀬区間の方が大きかった。

 

3)流域における物質動態特性の解明と流出モデルの解明

 流量と河床付着物の状態、底生動物、魚類の摂食圧に関する基礎データを取得することを目的に、流量制御下にあるダム下流区間を対象とした現地調査及びアユの摂食と河床付着物の状態との関係に関する実験を行った。主な成果は以下のとおりである。a)ダム下流区間の河床付着物を対象に、シルトの沈積及び糸状緑藻の繁茂と流量等の環境要因との関係について検討した結果、前者は単位幅流量、後者はダム竣工からの経過年数が関与していることを明らかにした。b)アユは、糸状緑藻が繁茂し、シルトが沈積した河床付着物についても摂食すること、摂食によって付着藻類のみならず、シルト成分も減少させることを示した。また、アユの摂食行動には、アユが選好する流速及び河床付着物の状態に対する嗜好性が関与していることを示唆した。

(3)流域における物質動態特性の解明と流出モデルの解明

 流域で発生する栄養塩類の閉鎖性水域へ流出機構を明らかにするために、生活系の汚濁物質発生特性(トレーサー物質及び溶解性栄養塩類の実態)の解明と晴天時におけるこれらの物質の流達特性を把握した。その結果、トレーサー物質と溶解性栄養塩類の濃度比の整理から、生活系以外の点源の存在を推定することが可能であった。
  また、土木研究所で開発を進めてきた総合的な流域水循環解析モデルであるWEPモデルを基盤として窒素、リンの物質循環モデルを導入するために、研究対象とする河川流域の選定、導入する窒素、リンのモデル化、コーディング、モデル検証のための観測地点の選定および観測計画の立案を行った。
  さらに、溶解性の鉄(フミン鉄)やケイ素(シリカ)等の必須元素の河川への供給の減少に関する懸念に対応して、河川水および都市排水の調査を行った結果、溶解性鉄は都市排水中の濃度が下水処理場で半分程度以下となるが、河川水中では溶解性窒素・リンと比較して十分な濃度が存在していることが示された。溶解性ケイ素は都市排水中の濃度は下水処理場で変化しないが、河川水中では溶解性窒素とのバランスで不足する場合もあり得ると考えられた。

(4)河川における物質動態と生物・生態系との関係性の解明

1)河川を流下する栄養塩類と河川生態系の関係解明に関する研究

 主に2つの調査を実施した。一つ目は、河床の動きやすさが物質動態や水生生物に及ぼす影響を明らかにするために、広島県にある江の川において河床が動きやすい河原再生地区と比較的固定されている未実施地区を中心に河床堆積性有機物および水生生物の差異を比較した。河床の安定性が異なることで、河床に棲む生物種が異なること、流下物の一時的貯留に差が見られることが示された。二つ目は、河川生態系を支える栄養塩の由来に関する調査手法を確立するために愛知県豊川において安定同位体を用いて、水生生物を構成する有機物の由来を調査し、栄養塩を含む物質循環について検討を行った。この結果、滞留時間が比較的短い取水堰でも有機物生産が多く、下流における生態系に影響が大きいことが示された。

 

2)土砂還元によるダム下流域の生態系修復に関する研究

 ダム下流域における物理環境と底生動物群集の変化を把握することを目的として、物理環境・底生動物群集に関する集中的な野外調査を阿木川ダム(岐阜県・恵那市)周辺で行った。ダム下流の地点では、細粒河床材料の減少・粗粒化が顕著に見られたが、ダム下流2.8km地点で流入する支川の合流後は、支川により細粒河床材料が再供給され、粗粒化が改善していた。また、ダム下流の底生動物群集は、個体数の著しい増加にもかかわらず群集の種多様性は低かったのに対し、支川流入後の底生動物群集はタクサ数の増加により種多様性の増加がみられた。細粒河床材料と、流下物量・組成に関する因子の2つは、底生動物の群集変化に強く関わっている可能性があることが示された。

(5)湖沼の植物群落再生による環境改善手法の開発

 霞ヶ浦において現存する3時期(昭和35年、平成2年、平成14年)の湖沼図と植生図から沈水植物が減少していく変化過程をGISにて基盤データとして整理した。さらに、この基盤データを基に、それぞれの時期を対象に水位、風波の条件を変え、湖底の巻き上げが水質へ与える影響について解析による検討を行った。その結果、昭和35年のように水生植物群落が十分にある場合、底面攪乱がおこり難く、水中に巻き上がる懸濁物質が供給され難いことが分かった。結果から、水生植物群落は水質改善に寄与するものと推察された。また、消波に十分な水生植物群落があることが、次世代の水生植物群落の維持に関わっていることが示唆された。水位変動と地形についても検討を行った。水位を低下させたときに悪影響が懸念される沿岸の砂利採取跡の影響の基礎的検討を行った。その結果、現状の湖棚は低下しており、勾配が急になっているので水位低下による砂浜創出効果が小さくなっていることが分かった。また現状における水位低下は湖棚砂の砂利採取跡への落ち込みにより、湖岸侵食を招く可能性があることが示唆された。

個別課題の成果

13.1 水生生物の生息環境の調査手法と生態的機能の解明に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)
研究担当者:天野邦彦(上席)、中西哲、尾嶋百合香

【要旨】
 河川において生物生息場としての瀬淵構造と水生生物の関係を評価する研究、河床土砂減少が水生生物に及ぼす影響の解明および生態系復元を検討する研究を行った。長野県千曲川において人力では作業困難な急流部と河床深部において重機を用いた生物調査を試み、その手法について有効性と改良点を検討するとともに、瀬の石礫構造と水生生物の生息の関係を調査した。また、栃木県鬼怒川において黒部ダム下流での河床土砂減少に伴う河床低下と岩盤露出の現況を空中写真および現地踏査により把握し、黒部ダム上下流の水質、藻類、底生動物群集を比較する調査を行った。

キーワード:瀬淵構造、石礫構造、底生動物、土砂減少


13.2 河川工事等が野生動物の行動に与える影響予測及びモニタリング手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)
研究担当者:天野邦彦、傳田正利

【要旨】
 平成18年度は,野生動物自動追跡システム(Advanced Telemetry System: ATS)をアユに適用することを目的に,アユ用電波発信機の開発を行った.また,開発したアユ用発信機の装着方法の違いがアユの生存・成長・行動能力に与える影響を評価する飼育実験を行った.装着方法は,外部装着(アユの背部に電波発信機を装着する方法)と内部装着(アユの腹腔内に電波発信機を装着する方法)の影響を比較した. その結果,縦20mm×横10mm×厚さ2mm,重量約1.5gの電波発信機の開発に成功した.装着方法は,内部装着がアユの生存・成長・遊泳能力に影響の少ない装着方法と考えられた.

キーワード:野生動物、テレメトリシステム、アユ、電波発信機装着方法、遊泳能力実験


13.3 河川における植生管理手法の開発に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平17〜平21
担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)
研究担当者:天野邦彦、大石哲也


【要旨】
 本研究では、河川下流域にある河道内の氾濫域に存在する植生を対象に、その遷移機構を明らかにするとともに、植生から見た氾濫原の健全度に関する評価法、植生の適切な維持管理・復元手法を提案することを目的とする。平成18年度は、河道内の樹林化が進行している小貝川で、河川植生の変遷について研究を進めた。空中写真で読み取った地被状態の変化や植生高の変化から、樹林の面積拡大や高木化が進んでいることを定量的に示した。河川の高水敷における樹林化の背景には、生活様式の変化と河川改修の減少により、河川が利用されなくなった結果として樹林化が進行していることが示唆された。さらに、小貝川の現存植生について調査を行った結果、比較的標高の高い場所に分布し、人為影響が減少した植物群落は、竹林で遷移が止まっているパターンと群落内に照葉樹林の構成種が見られ、気候により遷移が進行しているパターンがあった。また、河川の作用が及ぶ標高の低い箇所と、耕作放棄に伴い遷移が中断・進行している箇所の中間域では、ヤブ化が進行し、氾濫原植生の生育場を減少させている可能性があることが分かった。

キーワード:河川植生、植生遷移機構、氾濫原、人為攪乱、耕作放棄、維持管理


13.4 多自然川づくりにおける河岸処理手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:水環境研究グループ自然共生研究センター
研究担当者:萱場祐一、佐川志朗


【要旨】
 本研究は、様々な水際タイプの生態的機能に関する既往研究結果の整理と新たな実験・調査を行い、河川中流域において水際域を保全する際の留意点を取りまとめることを目的とする。平成18年度は、水際のタイプを大きく「石(礫)」および「植物」の2タイプに類型化し、前者については「石の間隙の魚類の利用状況」、後者については「流量変化に伴う水際植物の魚類生息場としての機能」に関する調査を、実験河川を用いて実施した。また、実河川(砂鉄川)における河岸修復工法の魚類生息場所としての評価を実施した。主要な成果は以下のとおりである。

1)

礫により形成される水中の間隙は魚類の棲家として機能しており、礫の大きさにより棲息する種類組成が異なることが明らかとなった。

2)

水際法面に植物が生育していると、増水時でも水際部の流速が抑えられ、魚類の生息場(避難場)として機能することが確認された。また、その効果は植生が密であるほど大きくなることが明らかになった。

3)

修復工法の導入により魚類の生息に効果が認められ、その効果はとろ区間よりも瀬区間の方が大きかった。

なお、今後は個々の間隙(微環境スケール)での魚類生息場所特性の把握、修復工法の効果要因(物理環境および餌環境等の両面を考慮)の解明等についてのさらなる研究を行うとともに、既存の多自然護岸の類型化、評価および問題点等の整理を行う必要がある。

キーワード:間隙、ショートカット河道、増水、水際修復、木杭


13.5 河床の生態的健全性を維持するための流量設定手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:水環境研究グループ自然共生研究センター
研究担当者:萓場祐一、皆川朋子、真田誠至、片野泉


【要旨】
 本研究は、生物の摂食効果により河床の健全性が維持される機能に着目し、これを加味した河川流量管理の考え方を提示することを目的としている。18年度は、流量と河床付着物の状態、底生動物、魚類の摂食圧に関する基礎データを取得することを目的に、流量制御下にあるダム下流区間を対象とした現地調査及びアユの摂食と河床付着物の状態との関係に関する実験を行った。主な成果は以下のとおりである。

1)

ダム下流区間の河床付着物を対象に、シルトの沈積及び糸状緑藻の繁茂と流量等の環境要因との関係を検討した結果、前者は単位幅流量、後者はダム竣工からの経過年数が関与していることを明らかにした。

2)

アユは、糸状緑藻が繁茂し、シルトが沈積した河床付着物についても摂食すること、摂食によって付着藻類のみならず、シルト成分も減少させることを示した。また、アユの摂食行動には、アユが選好する流速や河床付着物の状態に対する選択性が関与していることを示唆した。


キーワード:付着藻類、底生動物、アユ、摂食圧、河川流量


13.6 流域規模での水・物質循環支援モデルに関する研究(1)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水災害研究グループ(水文)
研究担当者:深見和彦、猪股広典


【要旨】
  効率的な河川・湖沼の水質改善対策を考えるにあたっては、流域からの汚濁負荷と対象水域の水質悪化との定量的な因果関係や土地利用・農業形態の変化等の影響を総合的に把握した上で適切な対策シナリオを検討する必要がある。本研究では、土木研究所で開発を進めてきた総合的な流域水循環解析モデルであるWEPモデルを基盤として窒素、リンの物質循環モデルを導入することにより、流域内の窒素、リンの動態を定量的に把握する流域水・物質循環モデルを開発することを目的とする。
  平成18年度は、研究対象とする河川流域の選定、導入する窒素・リンのモデル化、コーディング、モデル検証のための観測地点の選定および観測計画の立案を行った。

キーワード:WEPモデル、流域水・物質循環モデル、窒素・リン


13.7 流域における物質動態特性の解明と流出モデルの開発(2)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(水質)
研究担当者:鈴木穣、小森行也、岡安祐司


【要旨】
 流域で発生する栄養塩類の閉鎖性水域へ流出機構を明らかにするために、生活系の汚濁物質発生特性(トレーサー物質及び溶解性栄養塩類の実態)の解明と晴天時におけるこれらの物質の流達特性を把握した。その結果、トレーサー物質と溶解性栄養塩類の濃度比の整理から、生活系以外の点源の存在を推定することが可能であった。

キーワード: 流域モデル、トレーサー、栄養塩類、流出機構、生活排水


13.8 流域規模での水・物質循環管理支援モデルに関する研究(3)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:材料地盤研究グループ(リサイクル)
研究担当者:尾崎正明,山下洋正


【要旨】
 近年、流域での開発により溶解性の鉄(フミン鉄)やケイ素(シリカ)等の必須元素の河川への供給が減少して、河川や海の生態系に影響を及ぼしているとの報告が見られる。都市化した流域では、都市雨水・排水が必須元素の挙動に大きな影響を与えている可能性があるため,その影響を明らかにすることが求められている。そこで,河川水および都市排水の調査を行った結果,溶解性鉄は都市排水中の濃度が下水処理場で半分程度以下となるが,河川水中では溶解性窒素・リンと比較して十分な濃度が存在していた。溶解性ケイ素は都市排水中の濃度は下水処理場で変化しないが,河川水中では溶解性窒素とのバランスで不足する場合もあり得ると考えられた。

キーワード:溶解性鉄,溶解性ケイ素,シリカ,河川,都市排水


13.9 河川を流下する栄養塩類と河川生態系の関係解明に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)
研究担当者:天野邦彦、中村圭吾、中西哲、尾嶋百合香


【要旨】
 本研究においては、現地において河川の物理環境と流況が物質動態に与える影響の定量化を行うとともに、物理環境と物質動態の関係性を検討する。さらに、健全な河川生態系を維持できる水質許容値は河川の物理環境によっても異なると考えられるので、河川生態系保全のための河道特性に応じた水質許容値を設定するための基礎データを作成する。また、流域レベルでは、河川生態系を支える栄養塩の由来を明らかにすることが生態系を保全する上で重要であるので、安定同位体調査を用いてその由来を明らかにし、河川生態系を保全するための流域対策計画に資する知見を得ることを目的に研究を実施する。平成18年度は、主に2つの調査を実施した。一つ目は、河床の動きやすさが物質動態や水生生物に及ぼす影響を明らかにするために、広島県にある江の川において河床が動きやすい河原再生地区と比較的固定されている未実施地区を中心に河床堆積性有機物および水生生物の差異を比較した。二つ目は、河川生態系を支える栄養塩の由来に関する調査手法を確立するために愛知県豊川において安定同位体を用いて、水生生物を構成する有機物の由来を調査し、栄養塩を含む物質循環について検討を行った。

キーワード: 河原再生、江の川、豊川、底生動物、BOM、付着藻類、安定同位体


13.10 土砂還元によるダム下流域の生態系修復に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:水環境研究グループ自然共生研究センター
研究担当者:萱場祐一、片野泉、皆川朋子


【要旨】
 ダム下流域における物理環境と底生動物群集の変化を把握することを目的として、物理環境・底生動物群集に関する集中的な野外調査を阿木川ダム(岐阜県・恵那市)周辺で行った。ダム下流の地点では、細粒河床材料の減少・粗粒化が顕著に見られたが、ダム下流2.8km地点で流入する支川の合流後は、支川により細粒河床材料が再供給され、粗粒化が改善していた。また、ダム下流の底生動物群集は、個体数の著しい増加にもかかわらず群集の種多様性は低かったのに対し、支川流入後の底生動物群集はタクサ数の増加により種多様性の増加がみられた。細粒河床材料と、流下物量・組成に関する因子の2つは、底生動物の群集変化に強く関わっている可能性があることが示された。

キーワード:河床材料、粗粒化、アーマーコート、土砂供給、底生動物群集


13.11 湖沼・湿地環境の修復技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)
研究担当者:天野邦彦、中村圭吾、大石哲也


【要旨】
 湖沼の環境改善策として下水道整備等による流入水質改善や湖沼沿岸帯の復元が進められており、一定の成果をあげているが、今後さらに改善を進めるためには水質改善や生態系にとって重要な沈水植物の復元技術の開発や生態系に配慮した水位管理のあり方を明らかにすることが重要であることがわかってきた。そこで本研究は沈水植物を復元する手法として沈水植物群落を効率的に復元する手法を開発すること、および水位変動が地形や物質循環に与える影響を明らかにすることを目的とする。平成18年度は、霞ヶ浦において現存する3時期(昭和35年、平成2年、平成14年)の湖沼図と植生図から沈水植物が減少していく変化過程をGISにて基盤データとして整理した。さらに、この基盤データを基に、それぞれの時期を対象に水位、風波の条件を変え、湖底の巻き上げが水質へ与える影響について解析による検討を行った。その結果、昭和35年のように水生植物群落が十分にある場合、底面攪乱がおこり難く、水中に巻き上がる懸濁物質が供給され難いことが分かった。結果から、水生植物群落は水質改善に寄与するものと推察された。また、消波に十分な水生植物群落があることが、次世代の水生植物群落の維持に関わっていることが示唆された。水位変動と地形については、水位を低下させたときに悪影響が懸念される沿岸の砂利採取跡の影響の基礎的検討を行った。その結果、現状の湖棚は低下しており、勾配が急になっているので水位低下による砂浜創出効果が小さくなっていることが分かった。また現状における水位低下は湖棚砂の砂利採取跡への落ち込みにより、湖岸侵食を招く可能性があることが示唆された。

キーワード:湖沼沿岸帯、沈水植物、GIS、モデリング、水位変動