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16.共同型バイオガスプラントを核とした地域バイオマスの循環利用システムの開発

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:寒地農業基盤研究グループ長 秀島好昭
研究担当グループ(チーム):寒地農業基盤研究グループ(資源保全チーム)、特別研究監(水素地域利用ユニット)

1.研究の必要性

 北海道では膨大量の乳牛ふん尿が排出されており、さらに、地域の有機性廃棄物を含めてそれらの処理と有効利用が大きな課題となっている。北海道は他都府県と異なり、家畜ふん尿等を肥料として利用できる広大な農地を有している。このため、家畜ふん尿を主原料とし、他の有機性廃棄物を副資材として共同利用型バイオガスプラントで処理し、その生成物であるバイオガスを再生可能エネルギ−として利用し、消化液を肥料として農地に還元利用する技術の実用化が求められている。これは食料・農業・農村基本計画(平成17年3月)、最近の各種政策等(バイオマスニッポン総合戦略、家畜排泄物処理法、食品リサイクル法、循環型社会形成推進基本法、新エネルギ−法)で火急とされる開発課題である。その実現のためには、大規模酪農地域を始めとする地域バイオマスの循環利用技術の実証と提案を行うことが求められている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、消化液を農地で循環利用する営農技術を検証するため、原料の安全性の確保、施用効果の解明、経済的に自立するシステムとするための原料や生成物の効率的な搬送手法・処理技術の解明、さらに、環境・資源面からの社会システムとしての分析と評価を行うこととした。また、バイオマスを地域で効率的にエネルギー利用する技術開発として、バイオガスを水素に変換し、将来の水素・燃料電池社会へ活用する諸技術を実証する。このため、以下の達成目標を設定した。
   (1) 各種バイオマスの特性・安全性とその消化液の品質解明
   (2) 各種バイオマス副資材の効率的発酵手法の解明
   (3) 消化液の長期連用の各種効果と影響の解明
   (4) スラリー・消化液の物性把握と効率的搬送手法の解明
   (5) バイオガスの水素化技術開発と副生成物の混合燃料とする特性解明
   (6) バイオマスの肥料化・エネルギー化技術の開発

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   1) バイオマスの肥料化・エネルギー化技術の開発と効率的搬送手法の解明(平成18〜22年度)
   2) バイオマス起源生成物の地域有効利用技術の開発(平成18〜19年度)

 このうち、平成18年度は1)、2)の両課題を実施している。

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)各種バイオマスの特性・安全性とその消化液の品質解明

 平成18年度は、家畜ふん尿以外のし尿処理汚泥、合併浄化槽汚泥、廃乳製品、乳牛工場汚泥、水産加工残滓等の地域で発生するバイオマスを副資材として共発酵処理し、その消化液中に含まれる重金属成分の組成変化および窒素・リン酸・カリなどの肥効成分の変化について調査・検討を行った。その概要は、次のとおりである。
1) 共発酵処理した副資材の総量は総処理量の15%であり、このことにより消化液中の灰分および有機物含有率が高まり、その結果、窒素やリン酸の含有率が高くなる。肥料成分の増加により、より効率的な消化液へと改質することが確認された。副資材の共処理による成分の変動の把握・管理方法さらに地域バイオマスの種類による品質解明は継続する必要がある。
2) 副資材の共発酵処理により、重金属のうち銅および亜鉛の含有率は高くなったが、基準値以下の小さな値であり、消化液は安全である。含有率が高くなった成分由来の副資材を同定した。地域バイオマスを受け入れる場合に安全性の検討は継続する必要がある。

(2)各種バイオマス副資材の効率的発酵手法の解明

 平成18年度は、副資材の発生時期および発生量に応じた共発酵処理とするもので、副資材共処理において制御を行わない、不定期・不等量の共処理でのガス発酵量の調査・検討を行った。その概要は、次のとおりである。
1) 共発酵処理を行った副資材の総量は処理全体量の約15%であるが、その発酵プロセスが停止することはなかった。
2) 一方、固形分(有機分)の少ないふん尿に比べ有機分の多い地域バイオマスの共処理することにより、バイオガスの発生量の増加を期待したが、室内(チャンバー)実験で予測するガス増量の傾向は認められなかった。これは、副資材の不定期・不等量の投入によるもので各副資材を投入した場合の発酵過程が未完であった理由と判断する。副資材の処理ルールを定めた場合の発酵効率の検証、さらに、その際のシステムの検討が必要となる。

(3)消化液の長期連用の各種効果と影響の解明

 平成18年度は、長期連用による肥効成分等の収支や土壌物理性の変化を監視する初年度であり、このための対照区土壌の理・化学性の把握と処理が異なる方式(好気処理)で生成されたスラリーではあるが、その長期施用した牧草地の理・化学性を調査し、影響解明への知見を整理した。その概要は、次のとおりである。
1) スラリー散布圃場は非散布圃場に比べ、粗孔隙(大きいと余剰水(重力水)の迅速な排除と空気の混入による湿害防止に効果)、易有効水分孔隙・難有効水分孔隙(植物が吸収利用する水分保持や旱魃害の防止)が大きく土壌物理環境が相対的に良好である。対照区について継続的な調査を行うことが必要である。
2) スラリー散布圃場は非散布圃場に比べ、その表層部では全炭素、全窒素およびCECの増加がみられ、表層における腐植物質の増加を示す。これらの傾向は、土壌の膨軟化・孔隙特性の改善・保肥力の増加となるもので草地基盤として良好な変化傾向が確認できた。対照区で同様な調査を行うことが必要である。

(4)スラリー・消化液の物性把握と効率的搬送手法の解明

 平成18年度は、共発酵処理の原料スラリーとその消化液の固形分量と従来までの乳牛ふん尿を原料とするスラリーとその消化液の固形分量を比較し、その固形分量から推算できる搬送効率を分析・評価した。その概要は、次のとおりである。
1) 共発酵の原料スラリーの固形分はTS=7.2%から、消化後はTS=3.9%まで分解・消化が進行する。このことにより液の粘性は低下し、消化液の管路での搬送効率は高いと分析できる。
2) 共発酵とふん尿単味の発酵処理後の消化液の固形分は顕著な差はなく(それぞれTS=3.9%とTS=3.5%)、管路輸送を想定する場合では同一仕様のシステム整備でよいと示唆された。副資材の加水分解、発酵・消化作用により異なると思われる消化液の搬送特性をさらに精査する予定である。

(5)バイオガスの水素化技術開発と副生成物の混合燃料とする特性解明

 バイオガスの触媒改質により水素や従来は石油等から生産される化学基礎原料の製造が可能であり、メタンの脱水素芳香族化反応はベンゼンと水素を併産できる。地域におけるベンゼンの利用性改善を目的として、ベンゼンへの水素添加によるシクロヘキサンの生成プロセスとその用途としての燃料や水素キャリアとしての利用の実験的研究を平成18年度に行った。また、平成18年度において地域でのバイオマスとバイオガス利用形態を定め、水素・燃料電池利用のシステムとその物質収支・エネルギー収支等の検討とシステムの青図を試案した。その概要は次のとおりである。
1) バイオガス400m3/日(成乳牛約200頭から生産できるバイオガス量に相当)を使い直接改質法により水素とベンゼンを併産する実験を行い、その物質収支等の把握からバイオマスの排出量規模に応じた水素・燃料電池利用形態が考察できた。
2) バイオガス由来のベンゼン添加原料を用いた水素化実験は、転化率87.2%と比較的高い転化効率を示し、水素キャリアとしての高い効率を得た。ガスクロ分析では、ベンゼン〜シクロヘキサン系以外に脱水素芳香族化反応の副産物であるトルエンとその水素化合物であるメチルシクロヘキサンも同時に含まれる。微量不純物の分析ではバイオガス中の残留窒素を起源とする微量の窒素化合物が確認されたが、処理過程における空気の混入抑止策をこうじることで低減できる。判明した転化率(ベンゼンの非反応分)により、ガソリン等の混合燃料として利用する場合の収支を明らかにした。
 ベンゼン水素化技術については、二段水素化方式により転化率を向上させる技術の検討、バイオガス体の改質と利用の総合的な分析と評価が今後に必要である。
個別課題の成果

16.1 バイオマスの肥料化・エネルギー化技術の開発と効率的搬送手法の解明

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:資源保全チーム
研究担当者:石渡輝夫、横濱充宏、石田哲也、今井啓、山田章

【要旨】
 本研究は共同型バイオガスプラントにおいて、乳牛ふん尿を主原料として、他の地域バイオマスを副資材として発酵処理し、バイオガスを再生可能エネルギーとして、消化液を肥料として農地に還元する技術の実用化を目指す。H18年度は地域での各種副資材の基本的性状の把握、副資材がバイオガス発生および消化液の性状に及ぼす影響の評価および曝気スラリーの長期施用が土壌理化学性に及ぼす影響の把握を行った。

キーワード:共同型バイオガスプラント、バイオマス、副資材、バイオガス、消化液


16.2 バイオマス起源生成物の地域有効利用技術の開発

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平成18年度〜平成19年度
担当チーム:水素地域利用ユニット
研究担当者:秀島好昭、主藤祐功、大久保天

【要旨】
 バイオガス中のメタンを原料に触媒技術を使って水素に直接改質した場合に、副生成物としてベンゼン(C6H6)が生成する。ベンゼンに水素を添加したシクロヘキサンは遠方に水素を安定して運搬する有機ハイドライド(水素キャリア)として利用できるほか、石油系の混合燃料としても利用が可能である。平成18年度は、この水添技術や生成物の特徴を明らかにした。また、経営規模が大きな酪農家からの家畜ふん尿バイオマスを水素・燃料電池利用するモデルを検討し、エネルギー収支等を明らかにすると同時に技術的課題を整理した。

キーワード:バイオガス、水素・燃料電池、メタン直接改質、有機ハイドライド、混合燃料