物理探査・土木技術に関する情報を提供します.

S波ランドストリーマーの開発

雑音との闘い:都市域での物理探査

S波ランドストリーマー探査風景

都市域では,地表空間だけでなく地下空間も高度に利用されています.地下空間の開発に伴い,地下地質調査やそれに関連した物理探査の適用ニーズも高いはずなのですが,実際には都市域では物理探査はあまり適用されてきませんでした.それは,都市域は一般に雑音レベルが高く,静穏な環境を好む物理探査には計測条件が厳しすぎたからです.実際,都市域には自動車や電車がまき散らす振動雑音や電気的雑音だけでなく,工場や建設現場,さらには携帯の無線基地局からの雑音などが輻輳しています.そこで,必要性はあっても物理探査の適用をあきらめるか,あるいは雑音の影響を少しでも避けるため,休日の夜間に探査実施するなどの方策がとられてきました.

最表層が最も不均質

物理探査は,地下の物性の空間的分布(不均質構造)を可視化する技術です.この技術を用いることで,たとえば日本列島の下数百kmまでもぐり込んでいるプレートの構造や,さらには深さ約2900kmコアマントル境界部にある数十km程度のわずかな凹凸の検出にも成功しています.このような技術を駆使すれば,例えるなら深さ約29m下の支持層の数十cmの凹凸も簡単にイメージングできるはずです.しかし実際にはこのような表層地盤の微細な構造を検出することは不可能でした.それは地下深部に比べ,地表部が著しく不均質であるためです.たとえば,マントル物質のP波速度は深さが同じであればほぼ同じ値を示し,変動幅もせいぜい数%のオーダーですが,表層部でP波速度は0.2km/s〜数km/sと1000%(10倍)のオーダーで変動することが知られています.

地球内部を調べる物理探査では,地下深くにセンサを設置して地表付近の雑音や不均質の影響を避けてきました.しかし表層部を調べる物理探査では,そのような方法を採用することはできません.都市域で,表層部を対象とした物理探査を行なうのは,波さかまく荒海に小舟を漕ぎ出し,船上から浅瀬のコンブやアワビを収穫する浅海漁業に喩えることができるでしょう.

舗装路:地下を見通すのぞき窓

海面が波立っていても,「のぞきメガネ」を使えば海中の状況をはっきりと見ることができます.都市域の不均質な表層地盤に対して,このような「のぞきメガネ」はないでしょうか?

実はあるのです.舗装道路がそれです.

表土を剥いで転圧し,アスファルト舗装をかけることは,不均質な表層物質を平均化し,さらに均質路盤材や舗装材料で置き換えることになるからです.

舗装路は直線的で連続しているため,物理探査の測線を設定しやすい,という利点もあります.

舗装道路は都市域で地下を見通す「のぞき窓」の役割を果たしていると言えるでしょう.

舗装路での物理探査:センサの設置法

スパイク型地震計の舗装路への固定例

舗装道路で物理探査を実施するには,解決しなければならないいくつかの問題がありました.一つは,先に触れた通行車両の影響の除去の問題です.もう一つはセンサの設置の問題でした.たとえば物理探査手法の一種である弾性波探査では,高感度の地震計をセンサとして使用しますが,通常はスパイクを地面に挿して地震計を固定してきました.しかし舗装路では写真に示すように舗装路に小孔を開けないかぎり,固定することは困難でした.さく孔を含め,これには大変な手間がかかりました.

S波ランドストリーマー:舗装路での探査ツール

弾性波探査では多くの地震計を等間隔で配置する必要があります.可視化領域を広げるには,さらにそれらの地震計を別の場所に移動し,再設置することも必要です.(1)舗装路上で,(2)地震計を等間隔に並べ,(3)スパイクで固定させず,(4)移動・再設置を容易にする,という課題を解決するために考案したのがベルト方式のランドストリーマーです(稲崎,1992).ランドストリーマーでは,ベルトの上にあらかじめ等間隔で地震計を配置し,一体化してあります.ベルトを牽引することで簡単に移動・再設置することができます.地震計の下にベースプレートを敷くことで,固定の問題も解決することができました.

舗装路でのランドストリーマー探査概念図
波形記録の比較

右図はこのランドストリーマーによる波形記録を,従来のスパイク地震計を用いて収録した記録と比較したものです.舗装路面上にスパイク地震計を設置して収録した波形(b)が乱れているのに対し,ランドストリーマーで収録した記録(a)は波列がそろっていることがわかります.未舗装の路肩部で測定すると,スパイク地震計を用いても(d),ランドストリーマーでも(c)雑音ばかりで,地下からの信号がほとんど記録されていません.舗装路が地下を見通す「のぞき窓」の役割を果たしていることが示されています.

技術移転と普及促進

ランドストリーマーは土木研究所で独自に開発したツールです.これを活用し,都市域での表層地盤探査を推進するために平成13年度から16年度にかけて,(独)産業技術総合研究所地質調査総合センターおよび民間調査会社5社{応用地質(株),川崎地質(株),サンコーコンサルタント(株),日鉱探開(株),日本物理探鑛(株)}と共同研究を実施しました.

使われてこそ新技術,です.ランドストリーマーを利用した表層地盤調査は,これまで24現場41測線で実績を積み重ね,海外でも利用されてきています.都市域での表層地盤探査に本技術の適用をご検討の際には土木研究所までお問い合わせ下さい.