実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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特集 Educational and Ecological Exhibition
実験河川における研究解説パネルの開発
情報の受け手と送り手の双方から効果的な情報伝達について考える。
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多くの人々が自然環境に対する認識を深めることは、環境に関する問題解決の第一の糸口であり、
環境教育は環境保全活動の基礎をつくる重要な取り組みであるといえる。
また、近年、環境に関わる公共的な事業を進めるにあたっては、アカウンタビリティー(説明責任)が重要とされ、
人々が知識や情報を共有し、合意を形成した上で取り組みを推進していくことが理想とされている。
このような観点からも、今日“情報を伝えること”が重要視され、
わが国では自然環境に関する情報提供の機会が飛躍的に拡大している。
自然共生研究センターでは、多くの人々に対して常時、
情報を整理して伝達することができる“展示”を研究テーマの一つに掲げている。
今回の特集では、河川に関する研究をわかりやすく解説するために行ったパネルの開発について紹介する。
これまでの展示開発の多くが作り手の一方的な進め方で行われてきたことを見直し、
利用者に参加を呼びかけ、パネルの評価・検証を組み込んで行った取り組みである。


自然共生研究センターで育む夢
次世代への情報提供に期待
文・前迫孝憲
大阪大学大学院人間科学研究科コミュニケーションメディア研究分野・教授
 先日、自然共生研究センターと富山大学、大阪大学の各サイトを結んだ遠隔ワークショップの実験を行った(写真上)。自然共生研究センターからは衛星中継で映像を送り、各サイトからはWebカメラの映像をインターネット経由で自然共生研究センターに戻す方式であった。そして、あらかじめ地域の川を巡って調べたことを互いに出題し合い、考えながら、さらに自然共生研究センターの研究員の方々から適切なコメントや資料提示をいただくもので、通信技術の進展に合わせた新しい生涯学習の方法を探ることをねらいとしていた。
 このような方法は、来年から各学校へ導入が予定されている「総合的な学習の時間」でも重要と考えられている。自然共生研究センターでは、既に地元の学校と教材作成やカリキュラム開発に取り組まれ、注目すべき成果があがりつつあると聞く。例えば、 2005年の全教室インターネット接続計画をにらみ、映像サーバにビデオクリップ(短編映像)を蓄積し、これらを組合わせた学習が検討されている(写真下)。意味のある映像をどのように作成・収集していくか苦慮している関係者の多い現状で、自然共生研究センターでは、学校の先生との協力体制が進んでいることに驚かされた。これらは一朝一夕に実現できるものではない。
 今回、特集の実験河川の展示パネル開発では、開発途中に地元の小学生が現地を回る中で、その理解状態を把握しながら、きめ細かな改善が加えられている。また、野外実習では、数多くの研究員が支援を行いながら、子どもの発言や行動を記録に残すなど、大変な手間と思い入れが注ぎ込まれている。これらの記録は、事前学習の効果などを明らかにするための宝の山として期待が大きい。科学や科学者と一般社会の乖離が話題となる昨今、このような研究員の方々の姿勢や熱意、知識は、子どもたちに受け継がれると共に、我が国の教育を活性化する上でも、極めて重要な役割を担っていくと思われる。

≪利用者と一緒に展示を評価して、河川の情報特有の表現の難しさを実感した≫
報告:担当研究員 吉冨友恭
(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム
 河川の生態系は多くの事象が複雑に連鎖し変動しながら成り立っている。川に足を運んだ際、ふだん川をあまり見る機会のない人は、水の流れの違いや水際の植物、水面下の魚影等に気づかず、その場の多くの情報を見逃してしまうことも多いだろう。さらに、複数の要素の関係性について理解することは極めて困難である。専門家は、自然の中に存在する情報を積極的に読みとる能力をもっているが、多くの人々は自力で読みとることが難しい。したがって、河川生態系に関する情報を効果的に伝えるためには、受け手に応じたわかりやすい表現について考えることが必要とされる。
 自然共生研究センターでは、河川に関する調査・研究を進めるとともに、多くの人々の環境保全への意識の向上を目標に、研究の意義や成果を社会に広く発信していくことも重要な課題としている。今回、実験河川という河川を身近に体験できるフィールドを活かして、河川に関する研究成果をわかりやすく提供するための解説パネルの整備計画を行った。特に開発プロセスでは、パネルの利用者になると想定される自然共生研究センターの主要見学者層に参加を呼びかけ、パネルの表現の向上を目的とした調査を組み込んだ。具体的には、企画段階における河川に対する意識調査、制作途中における試作パネルを用いた評価・検証を実施し、利用者による検討を加えた双方向的な進め方によってパネルの開発を行った。

(パネルの開発プロセスで行ったこと)
■利用者の河川に対する意識を知るための調査
 効果的なパネルの表現を考えるにあたり、作り手はまず扱う情報に対する利用者の意識について理解しておく必要がある。本計画では制作前に利用者の河川生態系に対する興味・関心を知るための調査を行った。
 河川生態系の基本構成要素を、空間(河岸、河床勾配、川幅等)、水(水深、流速、水質等)、生物(魚類、水生昆虫、植物等)のグループに分け、それらの中から興味・関心のあるものを選択する調査を行った。各属性、生活環境や知識レベルは異なるが、興味・関心の傾向は似通っており、目にとまりやすくイメージしやすいものが上位に、下位には比較的目にとまりにくくイメージしにくいものがあがる傾向がみられた。このような結果から、河川における諸要素の関係性を明確にして伝えるためには、視覚的に捉えにくくイメージしにくい要素についてパネルにわかりやすく表現することがポイントになることが示された。

■試作パネルを用いた評価・検証
 実験河川の6つの研究テーマについて試作品をつくり、実際に現場に設置してそれらの評価・検証を行った。パネルの文章や図表等の表現について利用者にヒアリングし、各パネルのねらいが伝わっているかどうかを確認した。その結果、「情報が多すぎる」との声が圧倒的に多くあがった。さらに、「内容が専門的でわかりにくい」という指摘が部分的にみられた。それらを受け、タイトルとして表記したパネル冒頭の問いかけから、その答え(伝えたいポイント)に導くまでの表現を中心に改善を加えた。伝えたい内容のポイントを絞り込むことによって情報量を削減し(文字情報・図表を約半分に)、専門的、わかりにくいとの指摘のあった事項についてレイアウトを見直し、再度利用者に確認した。現場から読みとれない情報については写真を掲載し、わかりにくい河川の現象やしくみを図解やしかけで表現することによって解説を補い改善した。

(完成した解説パネルのポイント)
■専門的な内容をわかりやすく
 整理して伝えるために
 パネルの左側には、問いかけによる問題提起と、問いかけを受ける結論を、いわゆるQ&A形式で簡潔に示した。文章中のポイントとなる言葉については、文字サイズを大きくし、色を濃くすることで強調した。また、その中に表現されている言葉が専門的な場合は図解で補足した。関連情報が現場で確認できるパネルでは、ビューポイントを検討し、現場とリンクさせて解説した。
 パネルの右側には詳細な情報を3項目に分け、各項目の文章は箇条書きにした。「研究のポイント」では、研究の背景、意義、目的を簡潔に掲載した。「研究方法」では、調査風景がイメージできる写真を掲載することで、文章による解説を減らした。専門用語については別枠を設けて解説を簡潔に記載した。「研究結果」では、多くの結果には触れずポイントを絞った。掲載するグラフは1つとし、傾向を明確に示すための最小限のデータで、出来るだけ簡略化したグラフを用いた。
■河川の捉えにくい事象を
 実感してもらうために
 パネルには現場を見ただけでは読みとりにくい情報を、しかけを動かす行為を通じて実感できるような工夫を施した。明確な教育目標を定め、多くの感覚に訴えて事象の本質の理解へと導く展示手法はハンズ・オンと呼ばれ、欧米の科学館に始まりわが国でも導入されつつある。今回、河川に関する研究をわかりやすく表現するための検討を行った結果、ハンズ・オンを導入するに至った。完成した解説パネルは、実際のフィールドに臨み、川底の多様な空間、時間的な環境の変化が実感できるものである。
 パネルを開くと目の前に流れる川の断面を覗き込むように生息する魚類の様子を知ることができる。また、パネルをスライドさせると水面下の石や藻類に棲む底生動物の生息状況が理解できるなど、現場でしかけを動かすことを通して、川の様々なスケールの多様な空間の見方を利用者が自ら実感できるものである。一方、パネルを回転させて出水前後の川の変化を辿り、出水による自浄作用の変化を知る。また、出水のインパクトと連動させてレバーを引き、出水前後の河床の藻類の付着状況の変化を理解できるなど、川の流量の時間的変化をしかけの動きを通して実感できるタイプのパネルも完成した。

(今後に向けて)
 今回、利用者参画型の双方向的なパネル開発を行ったことにより、パネルのわかりやすさが向上したことが完成後の調査から示された。このことは利用者の意識調査やパネルの評価・検証を組み込んだ効果であると考えられる。しかし、完成したパネルにもまだ改善すべき点は残されている。センターでは引き続きパネルの利用者の声に耳を傾け、さらに開発の考え方や方法についても検討し、展示水準を高めるための表現を追求していくつもりである。
 複雑かつ変動的な河川の様々な情報についてメディアを通じてわかりやすく伝えることは、多くの人々に対して新しい視点を与え、自然との橋渡しをする上で重要となる。河川は画一的なものではなく河川ごとに特徴があるため、展示開発においては対象とする場に応じた綿密な調査が求められる。また、特定の場所だけでなく、それぞれの相互関係性も含めたスケールを捉えた見方も必要とされる。
 自然共生研究センターでは、河川に関する情報を、生態学的、教育学的な観点からどのように表現すべきか、実験河川のパネルだけでなく、対象や扱う情報、提供の場に相応しい情報提供の手段について広く検討していく予定である。

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