実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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特集 流量変動 河川のダイナミズム・生物の営みを取り戻す
河川の流量管理
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出水による攪乱や流量の変動は、河川の形態やハビタットの形成、物質動態と密接にかかわっている。また、河川生物はこれに適応・進化した生活史をもっており、生物の営みを支えている。近年、流量の変動に配慮する必要性、出水の重要性が認識され、様々な試みが行われている。アメリカでは、1996年3月、グレン・キャニオンダムにおいて大規模な人工放流が実施された。日本においては、平成9年度より、ダムから平常時より大きい規模の流量を一時的に放流する試み(ダムの弾力的管理)が実施され、放流の効果の検証が行われている。今後、川の本来の姿、生物の営みを取り戻していくためには、流量の変動の回復がキーワードの一つになるだろう。


≪川の新たな問題となっている流量の安定化と藻類≫
文・福嶋 悟
横浜市環境科学研究所基礎研究部門主任・土木研究所部外研究員
 近年になって多くの河川で緑藻類などが異常繁殖し、内水面漁業に深刻な影響を与えている。我が国の内水面漁業の主要な漁業資源であるアユは、川と人により育まれてきた文化の象徴ともなっている。緑藻類の増加は、アユの産卵場と餌資源となる藻類の生育場を減少させる。その結果、アユの生息密度の減少と共に生育不良も生じ、餌資源の質に由来するアユらしい香りも失われてしまう。
 異常繁殖した緑藻類の糸状体は、人の背丈よりも長くなることもあり、他の水生生物の生息に影響を及ぼすと共に、緑に囲まれた川景色も損なう。このような現象は、土砂流送の減少と流量の安定化により、砂礫などの移動による河床の攪乱の減少が主な要因となって生じている。
 流量の変動による河床の攪乱により、基質上に生育する藻類は剥離し減少する。このような藻類量の減少を引き起こす要因として、河床の攪乱だけでなく、遷移の進行による自然剥離、カゲロウやカワニナのような水生動物の摂食も挙げられる。水生動物の摂食により藻類がほとんどなくなってしまっても、糸状群体を形成する緑藻類が基質と接する部分の基部細胞の多くは摂食されない。このような現象は、我が国の川で普遍的に分布する藍藻類にも見られる。藻類群集の遷移が進むと厚いマット状の群集となり、マット底部の光や栄養条件の悪化により、底部に位置する藻類の活性が低下し、さらには死滅することにより剥離するが、基質に固着した糸状群体基部細胞は基質上に残る。藻類量が低下した基質上では、二次元構造の藻類群集が発達し、藍藻類や珪藻類が多いマット状の群集や、糸状に伸びる緑藻類が主体の群集へと遷移が進行する。遷移の初期あるいは中途段階までは珪藻類が多いが、遷移がさらに進んだ段階での糸状藍藻類や糸状緑藻類の増加には、このような基部細胞の存在が寄与している。
 藻類は陸上の草や木と同じ生産者として、川の生態系で重要な構成者となっている。川の生物生息状況については、主に魚類や水生昆虫などの水生動物が調査の対象とされてきた。藻類は目に見えないサイズのためか、調査対象から除外されることが多かった。そのため、川の藻類について情報は他の水生生物と比べてきわめて少ない。流量の安定化による糸状緑藻類の増加が、川における問題点としてとらえられるようになったのは、内水面漁業への影響が認識されるようになったからであるが、藻類に関する情報が少ないためか、このような現象が川の生態系全体に影響を及ぼすことへの認識はまだ少ないようである。
 最近になって、糸状緑藻類の繁殖機構や、除去・制御方法の研究が始められている。研究対象となる藻類の生態について、明らかになっていない部分も多い状況下で、このような研究が工学分野で進められている。
 異常増殖が問題となる糸状緑藻類として、主にシオグサ(Cladophora)が挙げられている。筆者の主な研究フィールドとなっている横浜市内河川では、河床がコンクリート張りのところでシオグサが絨毯状に生育し,中部地方を流れる矢作川で除去対策の対象とされているのもシオグサである。しかし、東北地方ではヒビミドロ(Ulothrix)あるいはアオミドロ(Spirogyra)のような糸状体が分岐しない緑藻類や、寒天状の塊となり異臭を放つ黄色鞭毛藻類のミズオ(Hydrurus)の繁殖が問題となっている川がある。また、九州地方では川底に繁殖する被子植物も、内水面漁業へ影響を及ぼすことが指摘されている川もある。このような事例は、異常増殖が問題となる生物は多様であり、問題への対処方法も、対象生物あるいはそれぞれの川の環境特性により異なることを示唆している。
 筆者は独立行政法人土木研究所の部外研究員として、自然共生研究センターにおける流量変動が藻類群集に及ぼす研究に参加している。センターにおける研究は工学系研究者と生物系研究者が協力する学際的な研究体制が組まれているだけでなく、多様な分野から同じ現象を対象とした研究が進められている。このような研究体制が河川生態学の発展を支え、さらには生態系の維持・再生に寄与する成果を上げることを確信している。

≪出水に関する実験により、流量増加と生物とのいくつかの関連が示唆された≫
報告:担当研究員 皆川朋子
(独)土木研究所 水循環グループ 河川生態チーム
流量変動と河川生態系の維持、出水と生物や物質動態に関する知見を得るため、自然共生研究センターでは様々な実験を行っています。ここでは出水と付着藻類の剥離・掃流、流量増加と魚類の遡上に関する実験について紹介します
(出水と付着藻類の剥離・掃流に関する実験)
川底の石の表面に生育する珪藻、藍藻、緑藻などの藻類(付着藻類)は、河川生態系における一次生産者として重要な役割を担っている。これらは、出水により剥離し、更新されることによって、基礎生産や魚類などの餌資源としての質が維持されているものと考えられる。近年、流量の安定化や平常時流量の低下に伴う細粒土砂の堆積、付着藻類の光合成活性の低下など、現場で問題になるケースが多い。そこで、自然共生研究センターでは、出水が河川の基礎生産に与える影響や、石表面の付着物(付着藻類や細粒土砂等により形成された層)がどのような出水条件で剥離・掃流するのかを明らかにするための検討を行っている。ここでは後者に関する実験の一部を紹介する。

■実験方法 
表1 実験条件

図1 結果

図2 結果
長期間、低流量(0.05m3/s)を維持した河床勾配約1/500の平瀬の礫を対象に、流量0.05m3/sを0.1⇒0.25⇒0.5m3/sに段階的に増加させ、出水条件と付着物の剥離の関係を把握する。なお、各流量レベルにおける継続時間は24時間とした。表1に各流量レベルの出水条件を示す。付着藻類の採取は、各流量レベルにおいて、増加開始から3、6、24時間後に、それぞれ10個の礫から付着物を5×5cm2の範囲からブラシを用いてこすりとり、乾燥重量、クロロフィルa(付着藻類の現存量や生産量を示す値として用いられる)、強熱減量、フェオフィチン(死んでいる藻類を示す)を測定した。また、藻類の同定、細胞数の計数を行った。なお、流量増加前の付着物は、細粒土砂を多く含むものであった。
■結果・考察
 図1に結果を示す。各値は、平均値と標準偏差で示されている。なお、図中では便宜的に、0.25及び0.5m3/sにおける流量増加前の値を、それぞれ前の流量レベルにおける24時間後の値で示している。また、図中の*、**は、一元配置分散分析において、a、b、c間にP<0.05、P<0.01で有意な差があることを示している。
 0.1m3/sにおいては、乾燥重量及び無機物量は増減し、明瞭な減少はみられず、付着物は掃流していない。0.25m3/sでは、3時間後に減少を示すが、この減少は、0.1m3/s時に堆積したものと考えられる。その後24時間後においても減少はみられなかった。0.5m3/sでは、時間の経過と伴に乾燥重量、無機物量、クロロフィルaが減少する傾向を示した。このことから、今回対象とした付着物を減少させるためには、少なくても0.5m3/s、摩擦速度では7.1cm/s以上を要することがわかった。しかし、実験終了時においても付着物は多く残存していた。また、流量増加前の藻類群集の優占種は、珪藻のAchnanthes subhudsonis (マガリケイソウ)、Melosira varians (タルケイソウ)、Navicula minima(フネケイソウ)、藍藻のChamaesiphon sp(. カマエシフォン)であった。出水後は、Naviculaminima(フネケイソウ)のみが増加前の約13%まで減少していたが、その他の優占種には大きな変化はなく、優占種以外の種にも大きな減少はみられなかった。このことから、今回の出水条件では、付着物は十分に剥離・掃流されておらず、さらに出水規模を大きくする、あるいは継続時間を長くする等が必要である。
 流速等の水理条件や水質によって、石表面の付着藻類群集は異なり、付着状況も異なる。また、細流土砂の堆積が問題となるケースがある等、各現場の状況に応じた掃流条件の検討が必要になると考えられる。今後、様々な 状況に対処できるよう、様々な条件の下で実験を積み重ねていく予定である。

(流量増加と魚類の遡上に関する実験)
季節的な出水などの流量増加は、河川生物の生活史、例えば、産卵のための遡上行動等と密接に関係している。そこで、流量増加と魚類の遡上行動との関係に着目し、これを明らかにするための実験を行った。

■実験方法 
表2 採取された種数、個体数及び成熟種数

図3 魚類構成    図5 タモロコ及びシマドジョウ類の個体数
(ケースT)

図4 流量増加と採捕個体数の関係(ケースT)
 同じ形状を持つ2つの実験河川において、一方は流量を段階的に増加させ(流量増加河川)、もう一方は流量一定とし(対照河川)、終末池から実験河川に遡上する魚類を比較した。実験は2002年4月16〜26日に実施した。流量増加河川においては0.05m3/sを0.1、⇒0.25⇒0.5m3/sに段階的に増加させ、それぞれ24時間継続させた。対照河川は一定流量0.05m3/sとした。遡上個体の採捕は、各実験河川下流端に定置網を設置し、午前6時から午後6時まで2時間間隔でこれを取り上げ、個体の同定、標準体長、湿重量を測定した。また、成熟度(精子、卵を有しているかどうか)の判別が可能なものについてはこれを行った。以上の実験を、流量増加河川と対照河川を実験河川BとCとで入れ替え、繰り返し行った(ケースT及びケースU)。
■結果・考察
 表2に各実験ケースで採捕された種数、個体数、成熟が確認された種数を示す。それぞれ魚類は13〜16種、甲殻類は2種が確認された。採捕個体数及び成熟種数(精子や卵を有していた種数)は、流量増加河川が対照河川を上回っていた。図3に優占種とそれぞれの採捕個体数を示す。優占種はシマドジョウ類、タモロコ、ヨシノボリ類であり、シマドジョウ類の個体数が最も多く、それぞれ54〜75%を占めていた。これらの多くは成熟した個体であり、特にタモロコ、ヨシノボリ類はほぼ全数が成熟し、産卵期を迎えていた。図4にケースTにおける流量と採捕された魚類の個体数(合計)を示した。流量増加河川においては、流量の増加とともに個体数が増加する傾向がみられ、特に0.5m3/sにおいては、対照河川を大きく上回っていた。このような傾向は、タモロコ、シマドジョウで顕著であった(図5)。しかしケースUでは必ずしも同様な傾向が読み取れない場合もあり、魚類等の生物の行動には、天候、水温、流量増加時の濁水の状況、微妙な環境条件の違い等が大きく関与してい
ることが示唆された。
 以上のように、流量増加河川の遡上個体数は、一定流量の河川を上回り、さらに、流量増加に伴い遡上量が増加する傾向がみられるなど、流量増加と魚類の遡上との関連性が示された。
 今後、このような生物の営みと河川流量に関する知見を集積し、河川流量管理の考え方に反映させていきたいと考えている。

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