実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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特集 水生生物にとっての水際域の機能
水際を構成する「陸上部」と「水中部」の植物
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水際域の構造と水生生物の生息量には密接な関係がある。
水際は陸上部の植物(陸上カバー)と水中部の植物(水中カバー)に分けられ、
両者の有無は、水生生物(魚類・甲殻類)の分布に影響することが分かった。
水中カバーがあると、水際の流速が低減し、そして水生生物の隠れ場が提供される。
そのため、水中カバーの消失は水生生物の生息量に強く影響することが確認できた。


≪特集≫ 「水生生物にとっての水際域の機能」に寄せて
文・中村 太士
北海道大学 大学院農学研究科 森林管理保全学講座 教授
私は1990年から2年間、日本学術振興会の海外特別研究員として米国北太平洋森林科学研究所ならびにオレゴン州立大学に留学する機会を得た。その時のテーマが「森林と河川の相互作用系」であり、当時の日本ではほとんど誰も研究していないテーマだった。一方、米国では多くの森林生態学、河川生態学、地形学の研究者が共同でこのテーマに挑戦し、新たな知見を多くの国際誌に発表していた。私は渡米後、そのおびただしい論文数と内容に圧倒されたのを覚えている。当時私がテーマとしたのは、森林が河川のエネルギーや物質の流れ、そして魚類の生息場環境に与える影響評価であった。 それから10年が経ち、今では誰もが「川の周りには森がある」と言うようになり、日本でも河川管理における水辺植生の重要性が認められるようになった。ただ一方で、「ではどんな植生がどこにどの程度の幅で必要なのか?」または、「どの水生動物に対して有効なのか?」と言った質問に正確に答えることができるデータが発表されているかと問われれば、答えは否である。多くの議論は情緒的であり、憶測的な段階でとどまっているのが日本の現状である。
 今回ここに発表された水際植生の重要性は、多分日本で初めて実証的なデータによって示された研究成果であり、見事に明瞭な違いを検出している。皆がなんとなく感じていた水際域を形成するエコトーンの重要性がはっきりと示され、エコトーンを形成しないコンクリート護岸の流路では、水生動物の生息量は激減している。実験河川ならではの結果であり、今後こうした操作実験と自然河川の検証成果が次々に発表され、科学的データに裏付けされた水際植生の管理基準が提案されるものと期待される。

≪水際にある僅かな植物が、水生生物の生息場として重要であることを実感した≫
報告:担当研究員 河口洋一
(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム 科学技術特別研究員
(実験の目的)
 水域と陸域のエコトーン(移行帯)にあたる水際域には、水生そして陸生の多様な生物が生息しています。多くの水際域は自然に繁茂する植物によって覆われていますが、過去に行われた護岸工事等によって、水際の植物が減少した河川では、単に陸上の生物だけでなく水生生物にも影響を及ぼすようになりました。
 自然植生がコンクリート護岸に置き換わることで失った機能を把握することは、河川における生物の生息環境を改善や復元するうえで非常に重要だと考えられます。水際植物の機能をカバー効果(陸上部・水中部)に着目し、陸上部の植物カバーや水中部の植物カバーが、水生生物に対して与える機能を検証する実験を、国土交通省中部技術事務所と共同で、平成14年度から開始しました。

(実験方法)
■調査方法
実験は自然共生研究センター内にある実験河川Aで行いました。実験河川Aの特徴は、河道形態が直線で、その長さはおよそ800m、水面幅は3m程度です。調査は9月末から10月にかけて行い、エレクトリックショッカーによる魚類そして甲殻類の生息量調査(3回の採捕)、河川内の物理環境調査(水深、流速、底質組成、カバー量)、餌資源量調査(藻類、底生無脊椎動物、微細有機物、流下有機物)さらに採集した魚類の胃内容物調査も行いました。今回は、処理区間で特に大きな違いがみられた魚類と甲殻類の生息量、そして物理環境の結果について説明します。
■実験デザイン
実験河川Aに(図1)のような5つの調査区を設定しました。1つの調査区の長さを15mとし、Aは水際(水中部に生えている植物)と陸上の植物をそのまま残した区間(自然河岸)、Bは水際の植物を残し陸上の植物を刈り取る区間(水中カバー)、Cは水際の植物を刈り取り陸上の植物を残した区間(陸上カバー)、Dは水際と陸上の植生を全て刈り取った区間(植生なし)、Eは法面がコンクリートで覆われた区間( コンクリート護岸)としました。ADまでの調査区は各4つの繰り返しを、Eの調査区は2つの繰り返しを設置しました。実験において、各調査区の水深が一定になるように、調査区の下流側にコンクリートブロックを設置し(魚類の移動は可能)、人為的に水深を調整しました。また事前調査から、処理前のA〜Dの各調査区では、魚類や甲殻類の生息量、河川内の物理環境そして水中の餌資源量に違いがないことも確認しました。

(植物の刈り取りによって、各処理区の物理環境は変化する)
各調査区の物理環境の特徴を(表1)にまとめました。コントロール区であるA(自然河岸)の特徴は、陸上そして水中に植物カバーがあり、水際の流速が低減します。B(水中カバー)はAと比べて陸上カバーだけがなく水際の流速は変わりません。C(陸上カバー)とD(植生なし)は水中カバーがないため、水際の流速がAやBより若干大きくなりました。またE(コンクリート護岸区)は、コンクリート表面の粗度が低いため、他の処理区と比較して流速が大きくなりました。

(水中カバーの有無は、水生生物の分布に強く影響する)
■結果1 
図1 処理区の設定

表1 処理区の特徴

図2 水際域の構造と魚類の生息量比較

図3 水際域の構造と魚類のタイプ ( 遊泳魚と底生魚の割合)

図4 水際域の構造と甲殻類の生息量比較
まず、水際の構造と魚類の生息量との関係をみてみましょう(図2)。魚類の生息量は、1調査区で3回採捕を行いその合計であらわしています。各処理区で魚類の生息量に違いが見られ、A(自然河岸)>B(水中カバー)> C(陸上カバー)>D(植生なし)>E(コンクリート護岸)の順で魚類の生息量が小さくなりました。特に水中カバーのないC,D,Eの処理区では、Aに比べて魚類の生息量が小さかったのが特徴的でした。また、陸上カバーのないBの魚類生息量はAと比べると若干小さいものの、他の処理区ほど大きな生息量の減少は見られませんでした。つまり、この結果は陸上カバーの消失は魚類の分布に対してそれほど強く影響しないが、水中カバーの消失は強く影響することが示されました。
■結果2
今回の実験では、全体で15種の魚類が採捕されました。これらの魚類は大きく遊泳魚と底生魚に分けられ、遊泳魚の優占種としてオイカワ、フナ類、タモロコが、また底生魚ではカマツカ、ドジョウ、シマドジョウなどがあげられます。これら遊泳魚と底生魚の割合が、水際域の構造によって変化する傾向が見られました(図3)。A ,B,Cでは遊泳魚の割合が70%以上と高いのに対し、DやEでは底生魚の割合が高くなり、全体の約50%を占めるほどになりました。水中カバーそして陸上カバー両方の消失が、遊泳魚の分布に影響することが示されました。
■結果3
また、実験河川にはアメリカザリガニやモクズガニそしてミゾレヌマエビといった甲殻類も生息しています。これら甲殻類の生息量を各処理区で比較してみると、魚類の結果よりも顕著な違いがみられました(図4)。A(自然河岸)とB(水中カバー)は生息量にほとんど違いが見られないのに対し、C(陸上カバー)やD(植生なし)の生息量はAとBの処理区より大きく減少しました。またEのコンクリート護岸区では、甲殻類の生息量が極めて小さかったのが特徴的でした。甲殻類にとって、水中カバーの存在がとても重要であることが示されました。
■考察
今回の実験から、陸上に植物が存在していても水際(水中部分)の植物が消失した場合、水生生物の分布に影響を及ぼすことが明らかになりました。水際の植物の存在は、岸部の流速の低下や水中カバーの創出といった河川内の物理環境構造に反映され、このことが水生生物の分布に大きく影響すると考えられます。また、法面がコンクリートで覆われた区間の特徴として、水際の流速が減少しないことが示されており、このような環境が甲殻類の生息場として好ましくないと考えられました。
(失われた「水際域の機能」の復元に向けて)
多自然型川づくりの一環として、多くの河川で水辺(特に陸上部)に植物を植えていますが、水生生物の生息環境の改善を考える場合、水際の水中部にも植物を植えたり、また水際に植物が生息できる空間を確保する必要があるようです。水際の植物の機能は、単に水中の物理環境を変えるだけでなく、様々な機能(陸上からの餌供給や日射の抑制)を保持しています。各河川そして対象区間にあった水際域における植物管理が、必要とされています。

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