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川と共に 世界で進む、河川の自然復元

 スイス、ドイツの近自然工法が日本に紹介され、導入されてから10年が過ぎようとしている。スイス,ドイツの近自然工法は、行きすぎた人為的な川への圧力の開放への努力と見ることができるわけであるが、ここ数年、ドイツ、スイスでは、より総合的な河川整備計画へと発展しつつある。ここ数年、わが国では大規模な水害が頻発しているが、ドイツなどの欧州でも、百年確率の洪水が頻発しており、 治水が重要な課題となっている。これらの解決にあたって、従来のように、すべての洪水を河道で処理するのではなく、遊水地や土地利用別に安全度の差を設けるなど流域の氾濫を許容した柔らかな治水を行うことによって自然環境も合わせて守っていく手法が検討されている。治水と環境を統合的にかつ土地利用のあり方も含めて治水を行っていく方法である。ドイツやスイスにおけるこのようなやり方は、土地開発への圧力が近年大きくないことおよび近自然型河川工法などの柔軟な計画論が治水へ発展あるいは影響を及ぼした結果とも見ることができる。

 さて昨夏フランスで河川の自然復元のシンポジウムが行われた。イギリス、フランス,アメリカ、ドイツ、オーストリア、日本など欧米を中心に20カ国を超える国が参加した。河川に対するさまざまな人為的な影響の軽減のための国際会議である。人為的な影響として、水質悪化、上下流方向の分断、河川形状の単調化、流量の減少・一定化、土砂量の変化、外来種などによる在来生物への影響などが取りあげられ、それらをどのように軽減、復元していくのかという取り組みや研究が報告された。わが国が抱えている課題と共通点が多く、世界同時にこれらの問題に取り組んでいるのだと言うことを確認し、勇気を得た。

 特に今回のシンポジウムではチェコを始めとする東欧諸国からも自然復元の開始が報告された。ベルリンの壁崩壊からわずか10年、その動きの速さに驚くばかりである。

 わが国においても、いよいよ本格的な自然復元の動きが始まっている。代表的な事例として、多摩川の樹林化した河道の樹木の伐採、掘削などによる河原復元、北海道標津川の直線化した河道の蛇行復元などがあげられる。これらの事業には研究者が積極的に係わっていることも着目される。このように見てくると河川の自然環境の保全・復元の取り組みには世界共通の課題が予想以上に多く、世界規模でほぼ同時に解決策が模索されている。

 さて、環境問題はさまざまな事象が絡み合った複雑な現象より生じておりその解決には総合的かつ柔軟な対応が必要とされる。このような考え方や態度は、さまざまな分野の解決手法に大きく影響を及ぼしていくものと考えられる。わが国においても人口の増加圧力や大規模な開発圧力が今後軽減することから、いよいよこのような総合的な治水対策が議論され、環境の保全とともに、実行されていくようになるであろう。


島谷幸宏

(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム