ARRCNEWS

展示見聞録 -山口県立きらら浜自然観察公園-「観察ホール」

 きらら浜自然観察公園(山口県吉敷郡阿知須町)のある場所は、シベリアやカムチャツカから日本列島を縦断し東南アジアへ向かう渡り鳥たちと、モンゴルや中国から朝鮮半島を経由して四国・九州へ横断する野鳥たちの交差する位置(クロスロード)にあたります。30ヘクタールの広大な園内には、野鳥を中心とした様々な生き物を観察できるビジターセンターを拠点に、その周囲に「干潟」「汽水池」「淡水池」「ヨシ原」「樹林地」という5つの自然環境が創出されています。これらの自然環境を見渡せるビジターセンターの「観察ホール」には、子供連れの家族を中心に、幅広い層の人たちが見学に訪れます。ここには30台のフィールドスコープ(望遠鏡)が設置され、多くの人たちが椅子に座ってゆったりと自然観察を楽しむことができます。この施設では、これまでに141種類もの野鳥が観察されているそうです。10月は渡り鳥のシーズンで、園内のヨシ原では夕方になると、南の国へ渡る途中のツバメ、ショウドツバメ、数千から1万羽がねぐらを作ります。ノビタキ、コヨシキリ、ノゴマなどの小鳥たちも次々と渡っていくそうです。観察のポイントは常駐するレンジャーが日頃の調査・研究の結果をもとに詳しく説明してくれます。チーフレンジャーの原田量介さんは、「11月からは冬鳥のカモたちが主役になります。渡ってきたカモのオスたちがきれいな繁殖羽に変身する時期です。カモの中でもひときわ注目されるのは公園のマスコットにもなっているトモエガモで、近年、生息数が減っているため何羽やってくるか楽しみです。」と、これからの時期の観察ポイントを教えてくれました。

 このような水辺の自然環境を良好な状態に保持するためには、やはり水位の変動が鍵となります。園内の「干潟」「汽水池」の環境は、海に繋がる水門を開閉し、海水の流入量を調整することで維持されています。わが国にはいくつかの野鳥観察の拠点がありますが、このように動的な空間を大規模に創出し、そこを観察場として活用している場所は他にありません。人の手を加えて創り出す環境が、多くの生き物に利用されながらどのように変化していくのか、自然環境の保全・復元の視点からもこの施設の今後が注目されます。


吉冨友恭

(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム

ビジターセンターでは水辺の様々な環境を一望できる。
きらら浜自然観察公園全体(配置図)(パンフレットより転載)
フィールドスコープを使って干潟の生物を観察。