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魚類の洪水時の避難場所:河道の動と不動の重要性

 洪水後に魚類の個体群が縮小・絶滅した事例は世界各地で報告されており、我が国でも、三重県の一河川において、天然記念物ネコギギ個体群の縮小が報告されている。これらのリスクを回避するためには、洪水時の避難場所の解明が必要であり、我々はこの点に着目して研究を継続してきた。調査の結果、ネコギギは洪水時には流出しない巨礫の下やクレパスを集団で利用することが推測され、コイ科魚類の稚仔魚は、洪水流が直接当たらない場所、すなわち地形の凹部や基岩や構造物の裏側に出現する緩衝域に避難していることが明らかになった。つまり、魚類の避難場所は、洪水により流出しない不動基盤により形成されていることになる。一方で、水流による有機物の掃流と土砂の移動は、礫の表面をリフレッシュし浮き石河床を形成する。このような河床環境の変化は、陸生植物および付着藻類の新たな更新サイトや魚類の棲家や産卵場所を提供する。つまり、洪水による河床形態の撹乱が、生物にプラスに働くことになる。以上より、生物の定着・生息環境が健全に維持されるためには、河道の動く所と動かない所が必要であり、洪水は不動環境(生物の避難場所)が保たれていれば、河川生態系の多様性増加のイベントとして機能する一面を有する。現在、我々は避難場所の創出方法に着目して研究を継続しているが、多自然川づくりに際しては、流れがブロックされる不動基盤の保全および創出にも留意する必要がある。

佐川志朗

(独)土木研究所 自然共生研究センター

動と不動の河道景観