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現場との連携 発電ダム下流の状況回復に伴う河川環境の変化

 ダムによる環境への様々な影響が知られていますが、ダム周辺での自然環境の変化をダム構造物の影響に直接的に関連付けることは非常に困難です。この一つの理由として、特に古いダムについて、建設前・後のデータの取得が不十分であったことが挙げられます。栃木県北部を流れる利根川水系湯西川の仲内ダムは、発電用の約8万立方平方

メートルの貯水容量を持つゲート式ダムでしたが、下流域でのダム新設に伴って、ゲートの常時開放による稼動停止が平成18年9月29日に行われました。自然共生研究セン

ターでは、湯西川ダム工事事務所と協力し、仲内ダムの稼動停止に伴う河川自然環境の変化を、様々な観点から現在までモニタリングしています。モニタリング対象は、流量や水温といった生息場所環境をあらわす要因と、水生生物(魚類、底生動物、付着藻類)の種類や数、そして粒状有機物(おもに落葉)の動態、などです。これまでの研究結果を見ると、流況の回復に伴い、すべての項目について、ダムの影響をあまり受けていなかった自然区間に類似していくような過程が、見られています。綿密に検討した仮説に基づく野外調査を行っているので、得られる結果をダムの影響と関連付けることは比較的容易であると思われます。ダムの稼動停止に伴う自然環境の反応の詳細なモニタリングを研究機関と連携して実施したケースは少なく、その成果が今後のダム・河川管理に活用されることが期待されます。このようなダムに関する事業に対しての計画性のあるモニタリングの実施には、特に情報交換面でのダム工事事務所との連携が重要な役割を果たします。

根岸淳二郎

(独)土木研究所 自然共生研究センター

ゲート開放後の状態