ARRCNEWS

見聞録 -東京都葛西臨海水族園内-「水辺の自然」

 東京の葛西の埋め立て地につくられた葛西臨海水族園には、屋外に「水辺の自然の展示があります。この展示には都内の代表的な水辺の自然が人工的に再現されており、「流れ」、「渓流」、「池沼」といった特徴の異なる3つのゾーンから構成されています。 河川の中流域をイメージした「流れ」のゾーンでは、200mの人工河川の礫の粒径や水深を変化させ、瀬と淵が再現されています。飼育係長の桜井博さんは「『水辺の自然』では、水質汚濁がまだ進行していなかった昭和30年前半に多摩川に生息していた魚類を中心とした生物を飼育展示しています。瀬にはオイカワやシマドジョウ、淵にはギンブナやニゴイなど、それぞれの魚種が環境に適応して生息しているようです。」とうれしそうに話してくれました。完成から11年経った現在では、植栽した植物、放流した魚などが再生産されるようになり、ジュズカゲハゼやギバチなど多くの魚種の繁殖が確認されているとのこと。取材時にも水際に稚魚の群を見ることができました。また、タイコウチやミズカマキリなどの岸辺近くで生息する水生昆虫も順調に再生産しているそうです。

 陸上から水面下の生き物の様子をじっくりと観察することは容易ではありませんが、水辺の展示の一区間には淡水生物館が設置され、中に入ると水面下の一部分がガラス張りで、魚たちの様子が観察できるようになっています。私たちが訪れた7月は、ちょうど美しい婚姻色をもつオイカワの産卵期で、産卵行動を間近に観察することができました。このような水中で営まれている臨場の機会が得られにくい場面との出会いは、この展示手法ならではの体験といえるでしょう。最近では、このように実際の自然環境が再現された中で生命の営みを身近に感じることのできる展示の試みが多くの水族館でみられるようになり、環境教育の場としても期待されています。是非、一度訪れてみてはいかがでしょう。


吉冨友恭

水際には稚魚の群れが。
水面下の様子を間近に観察できる。