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地域住民が支える氾濫原の再生

 川は下流域になると、平地をゆったりと蛇行して流れます。下流域の最も大きな特徴は、本流沿いに広がる平地、すなわち氾濫原です。

 氾濫原には多様な生物の生息場所があります。かつての流れが取り残されてできた沼、湿地やたまり、本流とつながったワンド、クリーク、河畔林などです。

 氾濫原は、出水時に冠水することで、生物の生息場所としての機能を保っています。

 近年、氾濫原は生物の多様性維持のために重要であることが認識され、その再生が始まっています。佐賀県の松浦川アザメの瀬では、氾濫原の本格的な再生が地域住民と一体となって行われています。この一帯は、河川沿いに水田が分布していますが、松浦川と水田との連続性が断たれ、ナマズやドジョウ等の魚は産卵する場所や稚仔魚期を過ごす場所が不足していると考えられていました。そこで、河川沿いの水田の一部を氾濫原として位置付け、その水田を掘削して地盤を下げ、洪水時に水が入りやすくなるよう工夫しました。また、氾濫原の中にワンドやたまり、クリークを造成し、氾濫原内に多様な生息場所を確保しました。

 氾濫原のような自然再生には、地域住民の協力が必要不可欠です。アザメの瀬では、住民が積極的に計画に参画しただけでなく、その後の経過の観察も行っています。現在では氾濫原再生の効果を実感として理解し、ここを訪れる人達に自然再生の重要さを伝える役割も担っています。現在、松浦川の氾濫原の再生箇所では、氾濫原の環境を理解してもらうため、フィールド体験型の研修が行われ、生物多様性だけに留まらない幅広い効果が期待されています。


真田誠至

岐阜県世界淡水魚園水族館「アクア・トト ぎふ」/ 前(独)土木研究所 自然共生研究センター

松浦川アザメの瀬自然環境学習センター
再生させた氾濫原 アザメの瀬
ワンドを間近で観察できる回廊
フィールド体験型河川研修の様子