実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q アユの餌としての付着膜の維持にも川底の
攪乱は必要なのでしょうか?
A 川底の攪乱の必要性や付着膜に占める
有機物の割合との関係性が定量的に明らかになりました。


 洪水後、川底の石が移動し、石の表面にはほとんど付着物がない状態がみられます。このような川底の“攪乱”は、河川生物の生息、河川生態系の維持に大きな役割を果たしています。
 時間の経過に伴って石の表面には、ぬるぬるとした付着藻類を主体とした膜が形成されます。この膜は、アユをはじめとする多くの魚類や底生動物の餌として利用されます。春から秋にかけて、比較的流れの速い川底の石には多くのアユのはみ跡(口で付着膜を擦りとった跡、写真1)をみることができます。アユの餌としての付着膜の維持にも川底の攪乱は必要なのでしょうか?ここでは、アユが利用可能な付着膜の状態と“攪乱”との関係についてみてみましょう。
 実験河川の川底に、攪乱後の状態と1年間攪乱されていない状態を想定した石(10×20×10cmに加工された自然石)を設置し(写真2)、週2回の頻度で石の上面から、付着膜をナイロンブラシで採取し、生きている藻類現存量を示すクロロフィルa、死んでいる藻類量を示すフェオ色素、有機物量を示す強熱減量、土粒子等無機物量を示す強熱残留物を分析し、付着膜の状態とアユのハミ跡の関係について検討しました。調査期間は平成15年6月から10月です。
 調査の結果、ハミ跡は攪乱後の状態を想定した新しい石からのみ確認されました(写真3@)。確認された期間は、6月中旬から7月中旬まででした。この間、両者に顕著な違いがみられた項目は、付着物量に占める有機物の割合(=強熱減量/(強熱減量+強熱残留物量))でした(図1)。ハミ跡が確認された新しい石の有機物の割合は、概ね0.4〜0.7の範囲にあり、1年前から設置していた石と比較すると高い値を示していました。しかしその後は1年前から設置していた石と同様の値に低下していきました。この要因は、無機物(シルト等の土粒子)の増加によるもので、時間の経過に伴い水中の細かい土粒子が沈降し、付着膜に取り込まれたものと考えられます。その他、調査期間を通して、藻類の現存量や有機物量は1年前から設置していた石の方が高く、一方、生きている藻類の割合や有機物に占める藻類の割合は、新しい石の方が高い傾向がありました。このことから、アユの餌としての付着膜の維持には、出水により“攪乱され”、川底の石が更新されることが必要であること、これには有機物の割合や無機物量が関与していることがわかりました。なお、有機物の割合については実河川における調査でも同様な値が得られます。また、藻類群落の組成にも大きな違いがありました。ハミ跡があった新しい石ではHomoeothrix janthina(写真4)が高い割合で優占していました。Homoeothrix janthinaは、糸状体性の藍藻で、春から秋にかけて、日本の多くの河川でみられる種で、近年の研究1)2)によって、ハミ跡のある石に優占してみられること、高い生産力があること、栄養価が高いこと等、アユとの関係性が明らかにされてきています。

1)Shin-ichiro Abe, Osamu Katano et al. (2000) Grazing effects of ayu, Plecoglossus altivelis on the species composition of benthic algal communities in the Kiso River., Diatom16, pp.37-43.
2)独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所(2004)アユが自ら創る付着藻類群のえさ環境、養殖41(7):86-89.



担当:皆川 朋子

■写真-1 アユのハミ跡
■図-1 有機物の割合(平均値±標準偏差、N=3)とハミ跡確認期間
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(1)新しい石
(攪乱後の状態を想定
(2)約1年前から設置されている石
(長期攪乱がない状態を想定)
■写真-2 実験河川の川底に設置した2タイプの石
(1)攪乱後として想定した新しい石
→ハミ跡が見られる
(2)1年前から設置されている石
→シルトなどの細粒土砂や糸状緑藻が見られる
■写真-3 石表面の状態
■写真-4 Homoeothirix janthina


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