実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 流量増加に伴う河床付着膜の剥離・掃流の程度を
予測することはできるでしょうか?


A 基質への付着力を推定することにより、
予測することができます。


● 研究の背景

 現在、ダム下流区間の河床の状態を改善する対策として、フラッシュ放流(一時的に放流量を増加させる放流)が試みられています。その際、どのくらい放流すれば、どのような効果が得られるかを把握し、適切に放流計画を立案することが必要です。
 流量増加に伴う河床付着物の剥離・掃流については、物理的な外力だけでなく、河床付着膜の状態(付着藻類の基質への付着力、老化、構成、放流前の現存量等)によっても異なります。しかし、これらに関する定量的データの蓄積は十分でなく、また、予測手法は確立していません。


● 河床付着膜の状態に起因した掃流の程度の違い

 河床付着膜の状態に起因した掃流特性に関する定量的知見を得るため、実験河川や実河川を対象に調査を行ってきました。図1は、実河川におけるフラッシュ放流前の水際、平瀬、早瀬の摩擦速度と放流によるクロロフィルa 減少率の関係を示しています。水際ではクロロフィルa 減少率が高いのに対して、平瀬、早瀬では低いことがわかります。このような違いは、放流前の水理量によって河床付着生物膜を構成する要素(藻類、藻類以外の有機物、微細な土粒子)の割合や付着藻類群集の種組成が異なることが関与しています。図1の例では、水際の河床付着生物膜には、シルト等の微細な土粒子や藻類以外の有機物の割合が高く、付着藻類は、粘液物質のパッドや柄で基質に付着するタイプの珪藻のAchnanthes minutissima(マガリケイソウ)やCymbella lacustris(クチビルケイソウ)などが優占していましたが、放流によって、その80%が掃流されました。一方、平瀬や早瀬では、基質への付着力が強い糸状藍藻のHomoeothrix janthina(ビロウドランソウ)が優占し、特にその割合が高い早瀬では、クロロフィルa 減少率は約20%で、H. janthinaは、ほとんど掃流されていませんでした。本研究では、このような河床付着膜の特性に起因した流量増加に対する剥離率予測のモデル化を試みました。
 河床付着膜の基質への付着力の程度は、藻類群集に占める付着力が強い種、やや弱い種、弱い藻類の割合からある程度推定することができます。そして、各藻類の付着力の強さは、それぞれの付着藻類の生活・成長形態(例えば、基質にしっかりと付着する種、滑走する種、柄をのばし付着する種等)から判断することができます。また、図1のような藍藻のH. janthinaや珪藻が優占する付着藻類群集を対象とした場合、微細な土粒子が比較的多く含まれる河床付着膜は、滑走する珪藻などの付着力が弱い種の割合が高く、 土粒子量が少ない河床付着膜は、 付着力が強いH. janthinaの割合が高い傾向が示されました。図2は、出水を与える前の藻類群集に占める付着力の強い、やや弱い、弱い藻類の割合(Ci, Ct, Cm)と細粒土砂量(Se)との関係を、実験河川で得られたデータを用いて示したものです。強いグループ(ここでは主にH. janthina)は、細粒土砂量(Se)と負、やや弱い、弱いグループは正の関係がみられ、これは、細粒土砂量により、各グループの割合を予測することが可能であることを示しています。さらに、各グループの割合(Ci, Ct, Cm)を説明変数とし、出水による減少率(dp)を目的変数として重回帰分析を行うことで、減少率(dp)を予測することができます。ただし、ここで示した藍藻のH. janthinaや珪藻が優占する付着藻類群集は、日本の河川で一般的にみられる群集であり、適用範囲は広いと考えられますが、これ以外の藻類群集(糸状緑藻が優占する群集など)については別途検討が必要です。


担当:皆川 朋子
■図-1 放流前の水際、平瀬、早瀬の摩擦速度と放流によるクロロフィルa 減少率の関係(円グラフは、放流前の付着藻類群集に占める付着力の強い、やや弱い、弱い藻類の割合を示している。)
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■図-2 河床付着物に含まれる微細な土粒子量と付着力の強い、やや弱い、弱い藻類の割合の関係
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