実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q どうして洪水の影響を受けるワンドが
淡水二枚貝の生息に適しているのでしょうか?



A 定期的に洗い流されることで、生息に適した水質条件が
維持されていることが大きな理由のひとつです。

● 背景と目的

 “ワンド”や“たまり”とは、河川本流近傍の半止水環境を持つ水域のことです。このような水域は、世界的に多様性や個体数が減少している淡水二枚貝(イシガイ類)の生息地として重要です。半止水環境では、洪水による増水時に流水の影響をある程度受けること(洪水冠水)が、イシガイ類の生息環境維持に重要であることが明らかになってきています。しかし、洪水時の冠水がイシガイ類の生息にとってなぜ重要であるかを問う研究は行われていません。ここでは、洪水冠水がイシガイ類の生息に影響を及ぼす機構を明らかにすることを目的とした野外実験の成果を報告します。

● 仮説設定と方法

 洪水冠水がイシガイ類の生息に関わる機構として二つが考えられます(図1)。第一の機構は、幼生の生活史ステージで魚類への寄生が不可欠なイシガイ類の特性に関係しています。つまり、洪水冠水によって、本流域との間で十分な宿主魚類の移出・入が維持されていることが考えられます。第二に、冠水時に本流域との水交換が行われ生息に適した水質が維持されていることが考えられます。ここでは、第二の機構の重要性を検討するために、「第二の機構が重要でない場合、非生息水域に個体を移入すれば、生息水域と同様に成長・生残する」という仮説を検証しました。
 木曽川中流域(河口から26.2〜41kmの約15km区間)に残存するワンド・たまり(合計70個)では、イシガイ類の生息個体数が洪水冠水頻度によって説明されています(図2)。これらの水域から、冠水頻度の異なる3タイプの水域(冠水頻度レベル:高、中、低)を各3箇所、計9箇所設定しました(図2)。なお、冠水頻度“低”の水域には、イシガイ類の生息は確認されていません。下流域から採取したイシガイ類3種(イシガイ、トンガリササノハガイ、ドブガイ属)を各水域に同じ個体数ずつ放置し、一定期間後の成長率および生残率を求めました。

● 結果とまとめ

 成長量と生残率ともに冠水頻度レベルに基づいた水域タイプ間で有意に異なりました(図3、Nested and repeated measures ANOVAs, p<0.001)。また、冠水頻度“低”の水域で他の水域タイプに比較して、平均値が有意に低くなりました。これらの結果から、ワンド・たまりの冠水頻度が低下すると、水域の水質変化が直接的な制限要因となってイシガイ類の生息を困難にしていることが示唆されました。今後は、制限要因である水質の項目および形成過程を明らかにすること、そして、冠水頻度レベルと魚類群集の関係に注目し第一の機構の重要性を検討することが必要です。


担当:根岸 淳二郎
図−1 イシガイ類の生息に関する仮説
図−2 イシガイ類の3種の生息数と洪水冠水頻度
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図−3 冠水頻度に応じたイシガイ類の3種の成長率と生残率
      
(2008年6月から2009年3月までの計測に基づく)
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