● 背景
河川の現象を理解するには、学習対象としている現象の空間スケールを適切に設定しておくことが重要です。例えば、土地利用に伴う水質の変化は大スケール(流域)で捉え、一方で、底生動物の生息は河床材料の状態など小スケール(微生息場)で捉えることが適当です。この様に、河川の現象は、空間スケールを階層的な視点で捉えると、分かりやすく理解することができます。
そこで、本報告では、大・中・小スケールの3つの視点から構成した、河川環境を学ぶためのプログラムの実践事例について紹介します。
● 河川環境学習の題材
日本の平地のほとんどは河川の氾濫によって形成されたものです。氾濫原の河川近傍には、ワンドと呼ばれる半止水域空間があり、そこにはイシガイ類やタナゴ類が生息しています。これらの共生関係として、タナゴは二枚貝に産卵すること、二枚貝の再生産には寄生宿主となる魚類が必要であることが知られています。
題材としたのは大スケールの流域から小スケールの微生息場までの複数の現象を対象とする氾濫原で、学習の方法に検討が必要であると考えられます。ここでは、空間スケールを流域レベル、生息場レベル、微生息場レベルに整理してプログラムを構成しました(図1、2)。
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● プログラムの内容
流域レベル(展示教材):氾濫原が見られる空間的な位置関係を明らかにするため、国土交通省水辺共生体験館の空中写真(木曽川水系、1/25000)を用いて、木曽川流域と氾濫原のある下流域の位置関係を確認しました。
生息場レベル(フィールド体験):当センターの実験河川にある孤立型ワンドにおいて、物理環境調査(流速、河床材料、水質)と生物調査(二枚貝等の採捕)を行いました。また、実験河川で洪水を起こし、河川の水位が上昇してワンドに繋がる過程を観察しました。
微生息場レベル(講義):ワンドに生息する生物の関係についてフリップを用いて共生関係を解説するとともに、フィールド体験を通じて得た部分的な情報の統合化を図りました。
● まとめ
プログラムは2008年7月から8月に67名の親子が受講し、効果を明らかにするため、学習者に質問紙による事前および事後調査を行いました。その結果、学習者の75%(N=59)がワンドに生息する生物の共生関係を説明することができ、また、81%が氾濫原環境の維持に洪水が必要であるとの回答でした。
自然観察や自然体験は、環境保全への理解を深めるための重要な機会です。今後も体験等で得られた部分的な情報を、有機的に結びつけるプログラムの開発に取り組んでいきたいと考えています。
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