実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 二枚貝がたくさん棲める場所には、
魚類もたくさん棲めるのでしょうか?



A 二枚貝の種数や量は、
多様な魚類が棲める指標になり得ます。


● 背景と目的

 河川の増水により冠水する氾濫原(現在では、堤防間に限られる)には一部本川と連結した「ワンド」や孤立した「たまり」のような水域があり、そこは魚類や二枚貝をはじめとした水生生物の重要な生息場となっています。また、農業用の水路も、氾濫原に依存する水生生物の二次的な生息場として機能しています。氾濫原や水路の生態学的な健全性を評価するとき、二枚貝に着目するのがよいと推察されます。なぜなら、二枚貝は長寿であるにもかかわらず、あまり移動しないという特性に加え、様々な生物間相互作用(底生生物の生息基質、タナゴ類の産卵基質、魚類への寄生、食物網など)を伴って生存しており(図1)、その場の環境条件を反映し易いと考えられるからです。ここでは、氾濫原・水路生態系における、二枚貝の指標性の一端を評価するため、二枚貝の生息が魚類の種の多様性の指標となるのか検討しました。

● 方法

 木曽川下流部(河口から26−41km)の氾濫原に存在する3つのワンドと6つのたまり、ならびに岐阜県関市に存在する4地域13水路を調査サイトに設定し、二枚貝と魚類の採捕を行いました。氾濫原での採捕は5月、8月、12月、2月に、水路での採捕は6月、8月、9月、2月に行いました。氾濫原および水路の各調査サイトで、二枚貝の生息量と種類(分類群数)、魚類の生息量と種類(分類群数)ならびに種の多様性(多様度指数)をそれぞれ求め、二枚貝の各変量が魚類のそれらを説明するかを解析しました。

● 結果と考察

 真夏(8月)の氾濫原では、二枚貝の生息量が大きい水域ほど、魚類の分類群数と多様度指数も大きいことが分かりました(図2)。真夏の氾濫原水域では、溶存酸素(DO)濃度が低下し易く、二枚貝をはじめとした水生生物の生息を困難にします。二枚貝が生息する水域は、真夏でもDO濃度が比較的高く維持され、魚類の生息場としても良好であったと考えられます。
 水路では、冬(2月)と初夏(6月)において、二枚貝の生息量や分類群数が大きいほど、魚類の分類群数と多様度指数も大きくなることが分かりました(図3)。水路は圃場整備や土地区画整理に伴い、魚類の遡上を妨げる落差が設置されたり、水路内の構造が単調化されたりします。このような物理的な生息場改変の影響が少ない場所に、二枚貝も魚類も生息していた結果として、両者の間に正の関係が見られたと考えられます。
 以上のことより、氾濫原や水路において、二枚貝の生息量や種数(分類群数)は魚類の多様性を示す指標になり得ることが分かりました。
※本研究内容は、Ecological Indicators 24, pp127-137(Negishi et al.)に 記載された論文に基づいています。


担当:永山 滋也、 根岸 淳二郎
図1 二枚貝の生息特性と生物間相互作用のイメージ図
図2 真夏(8月)の氾濫原水域における、二枚貝の生息量と
     魚類の分類群数および多様度指数との関係。
     両軸とも標準化した値を用いている。
図3 冬(2月)と初夏(6月)の水路における、二枚貝の生息量
     もしくは分類群数と魚類の分類群数もしくは
     多様度指数との関係。両軸とも標準化した値を用いている。


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