実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 川幅の変化は何に影響を与えますか?

A 洪水時には河床地形の変化に、
平水時には生物の住処である
瀬・淵に影響を与えます。


● 背景と目的

 中小河川における川幅の設定は、治水や河川環境を考える上で本質的で重要なテーマの1つです。治水面でみれば、平成22年に改訂された「中小河川に関する河道計画の技術基準」で、川幅拡幅によって流下能力を確保し、河床にかかる掃流力をあげない改修が原則となりました。また、環境面でみれば、瀬・淵の有無が生物の生息にとって重要な要素の1 つですが、瀬・淵の形成は、川幅の設定から大きな影響を受けます。川幅の変化は、洪水時に河床地形を変化させ、それが瀬や淵といった平水時の河道の景観に現れます(図1)。そこで、本研究では、改修後の中小河川を対象に現地調査を行うとともに、川幅や流量などの河道特性量と瀬や淵といった河道の景観との関係を分析し、川幅設定が河道の景観に与える影響について検討を行いました。

● 方法

 岐阜県と三重県の中小河川のうち74 河川9 5 箇所の地点について、川幅( B )の測定とともに標高データからGIS を用いて調査地点の流域面積、勾配( I )などを算出し、1年確率のピーク流量時の水深( H )やフルード数( F r )を計算しました。河道の景観については、現地で写真を撮影し、河床形態(河床波)や生物の生息場の物理的な要素を考慮し、【ステップ・プール(S&P)または礫列】、【岩盤】、【砂州】、【平坦な河床】の4つに分けました。

● 結果と考察

  図2 は、調査地点における河道特性量(BI0.2/H、フルード数)と河道景観との関係を示しています。横軸のBI0.2/H は、中規模河床形態の領域区分の指標に用いられています。具体的には、BI0.2/H が7 を上回ると砂州が発生し、平常時にみられる瀬・淵が現れやすく、7を下回ると砂州が発生せず、瀬や淵が現れ難くなります。また、縦軸のFrは、河床形態の違い( 砂堆や反砂堆などがあります)を表現するために用いられる指標です。この河床形態区分の境界値は、F r が0.8 で河床形態に違いが現れ、流砂に寄与する力に差が現れる1つの指標とされています。
 まず、BI0.2/H >7 の領域では、Fr < 0.8 で「砂州」が多く見られ、川の蛇行にともなって平面的に瀬・淵構造が発達しているのが特徴的です。一方、Fr > 0.8 では、「S&P および礫列」が多くを占めています。この河道景観は、山間地の河川で多くみられ、巨礫によって段落ちができ、縦断的に瀬淵構造が発達しているのが特徴的です。
 一方、BI0.2/H < 7 の領域では、上記と異なり瀬・淵の発達がみられる川が非常に少なくなります。また、Fr>0.8 では、「岩盤」や「平坦な河床」が多くを占めています。例えば、Fr>0.8 では、Fr<0.8 に比べて、河床の形状の抵抗が小さくなり、流砂に寄与する力が増加し易い傾向にあります。このため、流砂が相対的に増加します。したがって、上流から供給される土砂が少ないと河床が低下し、岩盤が露出しやすくなり、供給土砂がある程度確保できると平坦な河床が多いのではないかと考えられます。これは、流域の地質や地形の構造にも影響していると考えられます。また、Fr<0.8 になると、先の現象とは逆に流砂量が小さくなり、土砂が流出しづらいため、平坦な河床が広く形成されていると推察されます。
 以上から、河道特性量(Fr-BI0.2/H)と河道の景観との間に関係性が見られました。川幅の設定は、洪水時の河道の安定性や平水時の生物の生息場に影響を与えることがわかります。


担当:大石 哲也、 高岡 広樹、 原田 守啓
図1 川幅の変化による影響
図2 河道特性量( Fr-BI0.2/H )と河道の景観との関係


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