実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 高水敷掘削後に形成される
ワンド・たまりの数と
二枚貝の生息量は経年的に変化しますか?


A 河揖斐川では掘削後5 〜 7 年目で最大となり、
その後減少傾向となりました。


● 背景と目的

 河川が増水した時に冠水するエリアを氾濫原と言います。堤防間の陸域部にあたる高水敷は、この氾濫原に相当します。高水敷には、「ワンド」や「たまり」といった水域が形成されることがあり、多様な水生生物に生息場を提供します。しかし、ここ数十年の間に進行した河床低下に伴い、高水敷は相対的に高い位置に取り残され、河川が増水しても冠水しにくくなり、これらの水域の孤立化が進みました。一方、治水対策として、多くの河川では高水敷掘削が実施されています(左写真)。高水敷掘削は、相対的に低く、冠水し易い場を形成することから、氾濫原環境を創出する機会となり得ます。ここでは、高水敷掘削を氾濫原環境の創出機会として計画的に利用するための知見を得るために、掘削後の土砂堆積厚、ワンド・たまりの数、および二枚貝の生息量の時間変化について、掘削高さとの関係を含めて検討しました

● 方法

 揖斐川の自然堤防帯に含まれる河口から31〜39km区間で調査を行いました。調査区間の両岸には、平成12〜 19 年にかけて様々な高さで実施された高水敷掘削の工区が分布しており、掘削後に多数のワンド・たまりといった水域が自然に形成され、二枚貝が定着しています( 図1)。掘削工区は、初期の掘削高さに応じて、「1:<渇水位」、「2:渇水位〜低水位」、「3:平水位」、「4:平水位〜豊水位」、「5:豊水位」、「6:>豊水位」の6 つのカテゴリーに分類しました。85 箇所の水域において二枚貝の生息量( 1 時間あたりの採捕個体数N/hr)を調べ、掘削工区ごとにまとめました。また、定期横断測量データを基に累積土砂堆積厚(m)を、空中写真を基に水域の数を、掘削工区ごとに時系列で整理しました。そして、累積土砂堆積厚、二枚貝生息量、水域数が、掘削高さおよび経過年数とどのような関係にあるのか、解析しました。

● 結果と考察

 二枚貝の生息量は、掘削高さが低い工区ほど(ただし、渇水位より高い)多いことが分かりました(図2 左)。また経年的には、掘削後5年付近で最大となり、その後減少する傾向が見られました(図2 右)。掘削後の累積土砂堆積厚は、掘削高さが高いほど、また時間が経過するほど増大しました(図3 左)。水域数は掘削後6 〜 7 年目に最大となり、その後減少する傾向が見られました(図3 右)。
 これらの結果より、揖斐川では、初期掘削高さが低く、掘削後5 〜7 年目の工区において、二枚貝の生息量が最大となることが示唆されます。また、初期の土砂堆積はワンド・たまりの形成を通して二枚貝の定着に寄与しますが、継続的な土砂堆積は水域の減少ならびに冠水機会の減少による二枚貝生息環境の悪化を招くことが推察されます。高水敷が堆積傾向にある河川では、こうした時間変化を考慮し、治水目的の整備と調整を図りつつ、高水敷掘削を氾濫原環境の創出機会として利用することが望まれます。


担当:永山 滋也
       
図1 揖斐川の調査区間と掘削高さの概要
     掘削後に形成された水域には二枚貝が生息している
図2 掘削工区における二枚貝生息量と掘削高さおよび
     経過年数との関係
     
掘削高さの数字(2〜6)は「方法」を参照
図3 経過年数と累積土砂堆積厚および水域数との関係
     左図には掘削高さ別(1〜6:「方法」参照)のプロットとの
     関係式が色別で示されている。
     
※掘削校区ごとに複数の経過時点におけるデータが
       存在するため、プロット数は工区数よりも多くなっている。


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