土木研究所・流域スケールの水循環と物質循環に関する研究情報サイト

WEPモデル(水循環解析ツール)の紹介

開発経緯と特徴 概要紹介 適用事例


WEPモデルで何ができるか? -適用事例-
 実際の流域におけるWEPモデルの適用例を紹介します。
千葉県海老川流域
海老川流域の概要
 千葉県海老川流域は船橋市と鎌ヶ谷市にまたがり、国土交通省(旧 建設省)の水循環再生構想の対象流域となっています。流域面積は27km2であり、海老川本川と前原川などの7つの支川が流れています(図 3.1)。流域内は流域界の近くには、雨量観測所(6地点)、河川水位流量観測点(2地点)及び水位観測地点(13地点)があります。
 海老川流域の市街化率は1993年時点では約60%ですが、2035年には山林や農地が市街地に転換され、都市化が一層進行すると予想されています。図 3.2に土地利用状況の変化予測を示します。
  図 3.1 海老川流域
      図 3.2 土地利用状況の変化
WEPモデルの検証(河川流量)
 都市化の著しい海老川流域を対象として、時間単位でのモデルの挙動を検証しました。特に、出水時の河川の時間流量を再現することは、モデルの適用性や信頼性を明らかにする上で重要です。図 3.3は、海老川八栄橋地点での時間流量について計算結果と観測結果とを比較したものです。図 3.3より、このモデルが出水時の流量変化を良好に捉えていることがわかります。
図 3.3 海老川八栄橋:河川流量の観測値と計算値の比較(クリックで拡大)
現況及び将来における水収支の変化
 現在の流域状況における水収支の特徴を調べたところ、蒸発散、浸透、表面流出が年間降水量のそれぞれ約32%、23%、53%であり、自然流域と比べると浸透量が少なく、表面流出が大きくなっています。
 また、河川への雑排水量が中間流出と地下水流出の約4倍になっており、平常時の河川流量に占める雑排水の割合が多いことが読み取れます。河川流量に占める地下水成分の割合は11%と、まだ自然流域が残っている茨城県谷田川流域の場合での約33%と比べると少ないことがわかります。
 さらに将来の宅地化の進展に伴う水循環の変化については、蒸発散、浸透、地下水の河川への流出が減少すること、下水道の整備により平常時の河川流量が大幅に減少することが予測されます。また一方で、出水時の流量が増大することも判明し、これらに対する対策が不可欠であることがわかりました。
現況の水収支
将来の水収支
        
図 3.4 海老川流域における年間水収支の変化
将来の予想される問題点への対策の検討
 水循環系を復元するための対策として、浸透トレンチ等の設置効果を検討しました。浸透トレンチとは、建物の屋根に降った雨水を集めて地中に浸透させるため、地面の下に設置される浸透施設のひとつです。浸透マスは主に底面から雨水を浸透させますが、浸透トレンチは側面からも浸透させることができ、一般的に浸透マスよりも規模が大きくなります。
 解析結果により、浸透トレンチ等の導入により、出水時のピーク流量の低減、平常時の流量の増加、地下水位の回復に一定の効果が期待できることがわかりました(図 3.5)。
 また、浸透トレンチを導入した場合の年間水収支を、図 3.6に示します。平常時の河川流量を確保するためには、下水処理水をどのように流域に戻すかが大きな問題ですが、浸透トレンチの導入により、流域の水循環は将来においても現在の状況と同じ程度に保全されると考えられます。

図 3.5 海老川河口:浸透トレンチと防災調節池の流出抑制効果の検討(クリックで拡大)
 図 3.6  浸透トレンチを導入した場合の年間水収支
茨城県谷田川流域
谷田川流域の概要
 茨城県谷田川流域は、県南西部のつくば市に位置し、流域面積は166km2です。この地域は、平成17年に常盤新線の開通が予定されており、それに伴う都市化が進行すると予想されています。谷田川流域では、1970年代から学園都市の建設に伴い人口が急激に増加し、住宅地・工業団地・道路の建設により土地利用も大きく変化してきました。上水道・下水道の普及につれ、用水量が増加し、用水・排水方式も変わりました。常磐新線の沿線開発に伴い、面積約13km2の開発区域が都市化され、流域の水循環に影響を及ぼすと予測されます。

WEPモデルの検証(河川流量)
 図 4.1は、2000年10月〜2001年3月の谷田川小白硲橋地点における水位記録から換算される河川流量とモデル計算から得られる計算結果とを比較しました。わずかな違いは見られるものの、低水流量、高水流量ともに計算結果は実測値を良好に再現していることがわかります。WEPモデルでは、積雪・融雪現象を表すモデルはまだ組み込まれておりませんが、2001年の冬期は降雪が例年になく多く観測されており、1月8日、1月21日、1月28日、3月8日前後の出水時の実測と計算のずれは、降雪・積雪による影響が大きいと考えられます。
図 4.1 谷田川小白硲橋:河川流量の観測値と計算値との比較(クリックで拡大)
WEPモデルの検証(不圧地下水位)
 図 4.2に流域内における観測井戸の不圧地下水位観測結果と計算結果の比較を示します。計算結果と観測値の逓減傾向は同じですが、計算と観測で降雨に対する応答性が若干異なることがわかります。計算では不圧層の厚さに空間的な分布を反映させ、かつ難透水層の不連続性も考慮していますが、透水係数は同じ透水層で均一な値を用いています。より精度良く地下水状況を再現するためには、透水層土壌パラメータの空間分布についても考慮する必要があると思われます。

図 4.2 谷田川:不圧地下水位の観測値と計算値との比較(クリックで拡大)
現況水収支の解析結果
 1999年の気象条件を用いて、現況の流域条件で谷田川流域全体の水収支の解析を行いました。解析結果を図 4.3に整理しましたが、年間降水量の約62%は蒸発散として大気へ輸送され、河川流量の約半分(降水量の約28%)は洪水時の表面流出由来であることがわかります。また、河川流量に占める地下水成分の割合は約33%と、都市化の進んだ千葉県海老川流域の場合での11%と比べるとかなり多いことがよみとれます。
   図 4.3 谷田川流域全体の年間水収支
現況及び将来における水収支の比較
 常磐新線沿線開発の影響を、谷田川支川蓮沼川流域を対象に、1999年の気象条件を用いて、現状と常磐新線沿線開発後の計算を行い、年間水収支の変化を図 4.4に整理しました。
 蓮沼川流域においては、沿線開発区域の内、葛城地区と手代木地区の一部が含まれます。
 開発により、当該流域の約10%が不浸透域に変わりますが、そのため現況に比べ将来においては、表面流出が25%増加し、浸透量や不圧透水層の涵養量は10%以上減少します。
 また、将来において、流域外(霞ヶ浦)から配水される上水道の占める割合が非常に大きくなり、水循環系に与える人為的影響が増大することがわかります。
現況の水収支

将来の水収支

図 4.4 蓮沼川流域における年間水収支の変化
河道改修後の不圧地下水位の変化予測
 1999年の気象条件を用いて、現状と河道改修後の計算を行いました。 図 4.5に、流域中流部における現状と河道改修後の不圧地下水位の差を示します。河川改修を行うことで河川周辺の地下水位が低下し、雨水の土壌への浸透性が高まることが予想されます。
図 4.5 河道改修後の不圧地下水位の変化予測
沿線開発前後の不圧地下水位の変化予測
 2000年の気象条件を用いて、現状と常磐新線沿線開発後の計算を行いました。 図 4.6に、流域中流部における現状と常磐新線沿線開発後の不圧地下水位の差を示します。なお、常磐新線沿線開発後の計算においては、雨水貯留浸透施設や洪水調節池等の対策は考慮されていません。常磐新線沿線開発により、雨水貯留浸透施設や洪水調節池等の対策を実施しないと開発区域を中心に地下水位が現況より最大2.5m程度低下することがわかります。
 沿線開発計画に関しては、谷田川流域の豊かな水と緑環境を維持保全するために、学識経験者及び関係機関(国土交通省、茨城県、つくば市、都市基盤整備公団)により、常磐新線沿線地区水環境システム整備計画が検討されています。その中で、地下水の涵養や洪水時の河川流量の低減を図るために、雨水貯留浸透施設や洪水調節池の設置が計画されています。今後、これらの対策の効果について、WEPモデルを活用して検証を進めて行く予定です。
図 4.6 流域中流部における常磐新線沿線開発前後の不圧地下水の変化予測(クリックで拡大)

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土木研究所 水理水文チーム