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建設工事における自然由来重金属問題
 トンネル掘削、のり面掘削などの建設工事において、天然の状態で有害元素を高濃度で含む地質体に遭遇することがあります。特に近年、このような自然由来の重金属等の存在が判明する事例が著しく増加しています。土壌汚染対策法においては自然由来の重金属等はその対象外 (注) としていますが、実質的に環境汚染を招かないために何らかの対応が必要となることがあります。その対処方法は確立しておらず、現場ごとに検討しながら進めている現状があります。
 この問題に対して、土木研究所と応用地質(株)、三信建設工業(株)、住鉱コンサルタント(株)、大成建設(株)、日本工営(株)は、平成14〜17年度に共同研究を実施し、その成果を「建設工事における自然由来の重金属汚染対応マニュアル(暫定版)」にまとめました。

(注) 平成22年4月1日より、自然由来の重金属等を含む「土壌」については土壌汚染対策法の対象となりましたが、固結した岩石(「岩盤」)については現在も同法の対象外です。
マニュアル(暫定版)の特徴
 岩石に由来する重金属等に関する対応については指針となるものがこれまでなかったことから、実施の共同研究の成果をマニュアルのかたちでまとめました。
 本マニュアルの最大の特徴は、道路事業を例に、路線選定段階、概略設計段階、設計・施工計画段階及び施工段階といった、建設工事の各事業段階で行うべき調査や検討すべき事柄を整理した点です。
 なおマニュアルの内容は、ダムや河川工事などの諸事業に適宜読み替えて適用することが出来ます。
建設工事における自然由来重金属調査の流れ
 マニュアルに記載した、建設工事における自然由来の重金属調査の流れを紹介します。基本的には広域、概略的なものからエリアを絞った詳細な調査という流れで行うものです。
(1) 路線選定段階
 計画路線全体の汚染リスクの有無、程度を広域的に調査、評価し、リスク回避や低減の必要性を検討します。
 具体的には文献調査、および概略の地質踏査等により重金属等のリスク情報を得て、ルートの絞り込みを行います。
 共同研究においては、全国の鉱山位置と産出鉱物等をデータベース化しました。そして鉱山分布と地質図とを重ね合わせた「岩石の環境汚染リスクマップ」(図-1)を作成して、鉱床に起因する重金属汚染の可能性について、地質的な考察を加えました。これらの成果は文献資料として調査に役立てられます。

図-1 重金属リスクマップ(関東地方)
(2) 概略設計段階
 路線選定の段階における対応に基づいて、リスクの低減が必要と判断された場合には、対象となるトンネルや切土区間における環境汚染物質によるリスクを定量的に調査、評価します。
 具体的にはより詳細な地質踏査、地化学的調査、鉱徴調査、ボーリング調査、各種分析等を行い、ずり処理量とその方法について検討し、ルートを確定させます。
 掘削ずりからの重金属等の溶出は、短期的な溶出のみならず、黄鉄鉱に代表される硫化鉱物などの酸化反応に伴って長期的に溶出する場合があります。本マニュアルではリスク判定試験を短期と長期に分けてその双方について基づく評価をすることとしています(表-1)。


(3) 設計・施工計画段階
 環境汚染リスクに対して具体的なリスク低減のために処理の対象となるずりの選別基準を策定し、それに基づいたずり処理方法等の対策工を設計します。
 具体的には各種の溶出試験を行い、個々の現場に合ったリスクの迅速あるいは簡易な判定方法(施工管理試験;表-1)を見いだすほか、廃水処理やずり処理の量やその方法を決定します。
 対策工の設計にあたっては、短期および長期リスクの双方を考慮してずりをタイプ分けし、溶出リスクに応じた適切な対応をすることとしており、短期リスクがわずかに不適合ながら長期リスクがないものなど(表-2のランクU)などは、有識者等の指導のもとで軽減した対策を行うことを提唱しています。
表-1 対策に用いる試験
主たる目的 試験の
位置付け
試験方法(例) ポイント
リスク判定試験 短期リスク試験
(公定法)
環告18号試験(溶出量試験) 地下水飲用のリスク
環告19号試験(含有量試験) 直接摂取のリスク
(覆土の必要性の有無判断など)
長期リスク試験
(独自に設定;長期曝露試験、タンクリーチング試験、繰り返し溶出量試験、過酸化水素を用いるpH試験など)
風化変質による長期の、
・重金属の溶出によるリスク
・酸性水等の発生リスク
施工管理試験 迅速あるいは簡易な試験
(独自に設定;蛍光X線分析、帯磁率測定、簡易溶出試験[pH、EC、ガス検知管、吸光光度計、ストリッピングボルタンメトリー等による測定を併用]など)
環告18号試験もしくは環告19号試験、あるいは長期リスク試験との相関性
迅速性がある、簡便性があるなど
表-2 ずりのタイプ別盛土場設計の例
ずりのタイプ 掘削ずり等の盛土場設計の例
いずれのタイプにおいても覆土を施工
ランクT
(短期及び長期リスク試験とも適合)
一般土捨て場と同等の構造
一般土捨て場と同等の構造
ランクU
(短期又は長期リスク試験のいずれかが不適合;短期リスクの大きなものはランクV)
粘性土による被覆構造
粘性土による被覆構造
ランクV
(短期及び長期リスク試験とも不適合、又は短期リスクの超過が著しいもの)
管理型処分場に準拠した構造
管理型処分場に準拠した構造
(4) 施工段階
 現場でのリスクの迅速な確認と処理の対象となるずりの選別と処理を行います。具体的には(3)で決定した方法により要対策ずりの選別、廃水処理を行うとともに、必要に応じて現場管理項目を設定します。

(5) モニタリング
 対策の事後評価や監視を行います。
モニタリングは建設工事地域、周辺の表流水や地下水、ずり搬出場所において施工前の段階から継続的に実施します。
今後の課題と対応
 マニュアル(暫定版)において従来の試験法、評価法を例示していますが、望ましい試験法を提案することができませんでした。それは、地質体の重金属等含有状態は千差万別で、検討のためのデータが十分に得られていないことなどによります。現状では、現場ごとに創意工夫をもって対応方法を模索せざるを得ません。
 さらに、対策方法については十分に検討を加えることが出来ていません。対策手法ごとに掘削ずりがおかれる溶出環境が異なりますが、この点に関する研究はまだ充分に行われていないのが現状です。
 現場における溶出量の適正な評価のためには実際の溶出環境を把握し、それに近い条件での試験と評価が必要です。
 なお、本マニュアルのとりまとめ後、平成22年3月、「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)」が国土交通省主催の委員会で策定されました。また、平成27年3月解説書「建設工事で発生する自然由来重金属等含有土対応ハンドブック」を刊行しました。あわせてご参照下さい。

−お問い合わせ−
国立研究開発法人土木研究所 地質・地盤研究グループ地質チーム
〒305-8516 茨城県つくば市南原1-6 TEL: 029-879-6769 FAX: 029-879-6734

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