7回水文水資源に関するワークショップ 

 


はじめに

平成157月、国土技術政策総合研究所・土木研究所・米国地質調査所(USGS)による第7回水文・水資源に関するワークショップ(Seventh NILIM/PWRI-USGS Workshop on Hydrology and Water Resources)を日本にて開催しました。当ワークショップは19922月の「地球環境変化が流域規模の水文、水資源に及ぼす影響に関するワークショップ(Workshop on the Effects of Global Climate Change on Hydrology and Water Resources at the Catchment Scale)」が発端で、それ以降、ほぼ隔年でワークショップを開催してきました。ワークショップの技術的成果の詳細は土木研究所及びUSGSホームページ上で公開中の当ワークショップのホームページに譲り、ここでは長年に亘る継続的な国際交流の成功例として、本ワークショップを報告致します。

 

ワークショップ開催の変遷

テキスト ボックス:  
写真1 豊平館での参加者全員による記念写真
1992年の第1回ワークショップは、地球温暖化の水文・水資源に与える影響に関する国際共同研究を推進する目的で、土木研究所・地質調査所以外の専門家も多く招待し、広く公開して開催しました。しかし、それ以降は、土木研究所と米国地質調査所間の共同研究に関連する技術交流・意見交換の場として、小規模かつ2年に1回という頻度で開催してきました。この長年に亘る技術交流を通じて、両機関の間に信頼関係が築かれ、この交流をきっかけとして1992年以来、土木研究所から7名の留学が実現し、短期間の相互訪問交流や、電子メールなどでの技術的な情報収集や問合せは、簡単に行えるようになっています。

土木研究所と地質調査所は、同領域の研究者が研究上、同じ必要性を共有し、方法論に関する情報交換をする交流とは違います。地質調査所は「科学の経験と社会的ニーズへの責任を通した、自然科学の世界的リーダー」と自らを定義しているように科学者集団である一方、土木研究所は実務的な研究を中心に行うエンジニア集団と言えます。両者の交流において、土木研究所はどちらかというと社会的ニーズを工学的に分析・整理しUSGSの科学者に伝え、USGSは科学的研究成果を土木研究所研究者に伝えるという役割分担となっています。これがうまく機能した結果、無理なく10年以上交流が続いているのだと思います。過去7回すべてのワークショップに、両機関への文化および技術面でのアドバイザーとして参加している浅野孝カリフォルニア大学デーヴィス校名誉教授はこれを「(サイエンスに関しては)コーチとアスリートの関係」と呼んでいます。

ワークショップで討議する課題も変化しています。前回、20002月にロングビーチで開催した第6回ワークショップでは、「洪水氾濫流」及び「傾斜地プロセスと災害」の2プロジェクトの活動がありましたが、今回のワークショップではこれらに置き換わり「海岸と海洋地質」が新たな課題として開始されることが決まり、初めての情報交換がなされました。

 

7回ワークショップの概要

今回のワークショップは、地質調査所からも参加した第23回国際測地学・地球物理学連合2003年総会(IUGG2003)直後の2003714-16日に、同じ札幌市にある豊平館で開催することにしました。参加者とセッションを表−1に示します。

以下に、ワークショップでの主要な内容を紹介します。国土技術政策総合研究所、土木研究所、地質調査所の各代表者の開会挨拶に続き、Harry Lins博士が基調講演として国家研究評議会 水科学技術議会による「21世紀における水資源研究の課題を描く(Envisioning the Agenda for Water Resources Research in the Twenty-First Century)」研究イニシアチブにおいて、水利用可能量、水利用、水制度の3分野で広範囲な研究のために相当の新規プロジェクトが必要であると提言したことを紹介しました。続いて、吉谷は旧土木研究所が国土技術政策総合研究所と独立行政法人土木研究所に再編されたこと、総合科学技術会議による地球規模水循環変動イニシアチブにおいて学術研究だけでなく社会との接点を重視した研究が重視された議論がされたこと、現土木研究所の国際活動の課題について報告しました。続いて、Harry Lins博士による交流の歴史の確認が行われました。これは、過去10年間に日米双方の担当者が入れ替わりつつあり、過去の経緯が忘れられることを防ぐため、それを記録に残すために行われました。

その後、研究課題の発表・意見交換がありました。課題は、表-1のとおりで、特筆すべきことは先述のとおり、今回から「海岸と海洋地質」が新たに加わったことです。日本からは、鳥居謙一 国土技術政策総合研究所 海岸研究室長が、日本の海岸線後退と総合土砂管理を含む対策工法・事例を紹介し、John Haines博士はノースキャロライナ及びワシントン州でのモニタリング及び予測について紹介しました。

自由討論は、浅野孝名誉教授の司会により行われました。土木研究所の名前は世界の中でそれほど認知されていないこと、地質調査所は連邦政府の方針で海外活動が制約される方向にあること、若手研究者の人材確保が困難になっていること、などの状況の相互理解が進み、このような状況下で今後も形式にとらわれず研究者間の情報交換を主体としたワークショップを、2年後に、新規課題の研究対象であるワシントン州で開催する予定とすることで合意しました。

テキスト ボックス: 7月14日(月)
挨拶(中村昭、永山功、Harry Lins)
基調講演(Harry Lins)
日本状況説明(吉谷純一)
経緯総括(Harry Lins)
個別課題の情報交換
(1) 水文過程のモデリング・解析技術
(深見和彦、George Leavesley)
(2) 水文観測とデータシステム
(大手方如、Ralph Cheng)
(3) 水生生態系と水質調査(天野邦彦)
7月15日(火)
(4) 海岸と海洋地質(鳥居謙一、 John Haines)
(5) 河道地形と土砂移動(末次忠司)
自由討議(司会:浅野孝)
報告書作成
特別講演:船水尚行(北海道大学助教授)
7月16日(水)
現地見学
札幌市下水処理局創生川処理場高度処理施設及び
安春川せせらぎ回復事業
テキスト ボックス: 表-1 ワークショップスケジュール

ワークショップ会議の終了後、北海道大学 船水尚行 助教授に、翌日の現地見学にそなえて特別講演をしていただきました。内容は、札幌市の水循環の概説、下水高度処理水をせせらぎ用水として用いている安春川の水質コントロール、および最新の研究成果であるエコ・トイレの紹介です。翌日は、船水助教授及び札幌市下水道局の案内により、札幌市下水処理局創生川処理場高度処理施設高度処理施設、その高度処理水を用いた安春川せせらぎ回復事業の現地見学などを行い、無事ワークショップを終えることができました。

 


おわりに

札幌市でのワークショップ開催にあたり、北海道大学 船水尚行助教授、札幌市下水道局、財団法人札幌国際センター佐々木春代専務理事には、便宜を図っていただきました。浅野孝名誉教授には、今回も技術アドバイザーとして参加していただきました。ここに記してお礼申し上げます。

当ワークショップの詳しくは、土木研究所ホームページに掲載されています。