子どもの頃は,科学者に憧れていました。とくに,目には見えない反応の仕組みを解き明かしていく化学に強く惹かれ,大学では応用化学を学びました。しかし,旅先で出会った数々の土木構造物,とりわけ橋に込められた設計思想の奥深さに心を打たれ,大学院では土木工学へと進み,鋼橋を研究することになります。 修士課程修了後,土木研究所に採用され,1年目からトンネルチームに配属されました。当時は「トンネル」という研究分野が存在することすら知りませんでした。正直に言えば,最初は手探りで業務をこなしていたというのが実情です。ところが,仕事を通じてその奥深さに触れるうちに,次第にのめり込んでいきました。今では,寝ても覚めてもトンネルのことを考えるほど,この分野に魅了されています。
錦帯橋(学生時代に見て感銘を受けた橋のひとつ)
トンネルの挙動を理解するためには,岩盤力学,構造力学,地質学,水文学など,実に幅広い分野の知識が求められます。
例えば,トンネルの支保工や覆工の破壊メカニズムを解明する際には,大学院で身に付けた構造力学の視点が不可欠でした。また,別の現場では,進行していたコンクリート劣化の要因が硫酸ナトリウムであることを突き止めるなど,化学の知識が問題解決に直結した経験もあります。
人間万事塞翁が馬。学生時代に学んだことが,思いがけない形で活かされる——それこそが,トンネルという分野の面白さであり,奥深さだと感じています。
実大規模のトンネル覆工載荷実験の様子
私は職住近接の環境で,自転車通勤をしています。つくばは地形が比較的平坦で,雨の日も少なく,無理なく通勤できる街です。早朝の澄んだ空気の中,筑波山を眺めながらペダルをこぐ時間は,一日の仕事に向き合うための大切なリズムになっています。
つくばは,車と分離された歩行者空間や公園が充実しており,子どもを安心して育てられる環境が整っています。身近に教育・研究機関が多く,一般公開などを通じて子どもが知的な刺激に触れる機会が豊富な点も大きな魅力です。自然と都市機能が程よく調和し,ワークライフバランスを調えやすい街だと感じています。
つくばの歩行者用デッキ
起床,朝食,身支度
自宅出発
電車を乗り継いで羽田空港へ向かいます。
電車を乗り継いで羽田空港へ向かいます。
綺麗な富士山が見えて心が癒されることもしばしばあります。ときには珍しい気象現象を目にすることもあります。これから向かう現場が見えた際には,山の性状に思いを巡らせます。いずれにせよ,日常とは異なる視点で物事を考えることができる,貴重な時間です。
機窓からの景色
現地空港着,道路管理者と合流
現地の空港で,これから向かう現場を切り盛りしている道路管理者と合流します。現場への移動の途中では地元の美味しい食事を味わい,「今日はもう十分働いた気分になる」ほどの満足感を得つつ,もちろん午後の業務に向けて英気を養います。
トンネル施工現場到着,現地調査
ここからが本番です。現場に到着すると,五感をフルに使って状況をつぶさに観察します。事前報告で聞いていたことでも,実物を見ると新たな気付きがあります。公式の会議の場では語られない,オフレコの率直な意見が交わされることもあります。
現地調査の様子
会議室にて技術検討委員会参加
会議室に移動し,技術検討委員会に出席します。資料に記載された内容と,現場で確認した状況との整合性を確かめたうえで,今後のトンネル施工方法などについて議論を行います。委員会には多様な分野の専門家が集まり,それぞれの専門的視点からの助言が活発に交わされます。
委員会の様子
懇親会
委員会では厳しい表情だった外部有識者の先生方とも,懇親会の場ではざっくばらんに意見を交わすことができます。自然と距離が縮まり,人脈が一気に広がるのを実感する瞬間です。
ホテル着
ようやく一人になれる時間です。家族と連絡を取ったりしながら,気持ちを切り替えます。当日の振り返りや残務整理,翌日の準備を行う時間でもあります。