土研の人

道路技術研究グループ 久保 研究グループ長

自己紹介

 1966年生まれ、奈良県出身ジャイアンツの岡本選手と同じ智辯学園、 京都大学大学院土木工学課程修了。1990年に建設省に入省し土木研究所舗装研究室に配属。宮崎河川国道事務所や大阪国道事務所の事務所長といった行政職も経験したが、勤続30年のうち土木研究所での勤務は23年目に突入。
排水性舗装など舗装技術の研究開発に取り組むほか、委員会活動を通じて舗装に関する技術図書のほぼすべてに関与。舗装技術者として国内外のさまざまな委員会に参画。

関与した技術図書の一部

関与した技術図書の一部

排水性舗装と従来型の舗装

排水性舗装と従来型の舗装

土木研究所で働くということ~いきなり日本の第一人者

 舗装技術を研究する機関は大学や民間企業にもありますが、土木研究所は国内に並び立つ機関が無く、私自身も入省してすぐに舗装分野の第一人者のように扱われました。 プレッシャーも大きかったですが、ある意味“英才教育”であり、苦労をする分、その成果は確実に国民生活に影響を与え、自らの人脈の構築や人生の豊かさにも繋がっているという満足感があります。

印象に残っている仕事

 これまでの舗装技術者として蓄積した知識や人脈を総動員してアジアで初めてとなるアスファルト舗装に関する国際会議を開催したことがあります。 それまでに国内外の委員会活動で培ってきた人脈などをベースに44か国から635名が参加する国際会議を成功裏に開催できたことは、私の舗装技術者としての一つの集大成であったかもしれません。
 この国際会議を受けて、特にアジアにおける日本の舗装技術に関する関心も高まり、二国間研究協力や技術指導など、およそ20か国に出張し、国際的な人脈も構築することができました。

ISAP名古屋会議

ISAP名古屋会議部

アジア諸国との交流にはカラオケは有効!?

研究成果の例~排水性舗装~

 排水性舗装は従来使用しているアスファルト混合物の配合を大幅に変え、その空隙率を飛躍的に向上させたものです。 水が浸透することで雨天時の交通安全性が向上するとともに通気することでエアポンピング音が3dB程度低下します。高速道路では雨天時の事故率が飛躍的に減少し、いまでは8割以上の高速道路に排水性舗装が適用されています。
 いまでは特別な技術ではなくなりましたが、開発当初は「水を舗装に入れたらすぐ壊れる」という世界的な“常識”との戦いでした。新しい材料規格の提案、配合設計手法の確立、施工方法の確立と管理・検査方法の提案などを、 研究所での研究成果も活用しながら産官学の舗装技術者が参画する委員会において議論を重ね、1996年に技術図書としてとりまとめました。 刊行からすでに20年以上を経過していますが、基本的な考え方は大きく変わっておらず、その内容は日本国内における排水性舗装の普及に貢献しています。
 世界的にはまだ「舗装に水を入れるのはタブー」という認識が支配的であり、日本の技術はいまも世界のトップを独走状態です。

排水性舗装技術指針(案)

排水性舗装技術指針(案)

世界をリードする日本の舗装技術

 排水性舗装については前述のとおりですが、舗装材料の再生利用についても我が国のリサイクル率はほぼ100%であり、世界でも例を見ない実績を誇っています。 その世界的な先進性はNAPA(米国アスファルト舗装協会)がリサイクル技術の視察のため来日したことでも明らかであり、50年以上前の米国の技術基準を参考に我が国の舗装技術が 進展してきた歴史の中で、初めて日本が米国に舗装技術を教えるという快挙であったと言えます。
 独創的な日本の舗装技術としては路面温度を下げることができる保水性舗装・遮熱性舗装も挙げられます。これらの舗装は特殊な塗料を使うなどして、真夏の路面温度を10℃以上 下げることができます。かつて世界道路協会(PIARC)の技術委員会において地球温暖化への対応が議論され、各国の取組みが報告書としてとりまとめられました。 他の国が「地球温暖化により豪雨などが増えるから、水に強い舗装技術を開発せねば」という受け身の対応だったのに対し、日本は「路面温度を下げることで少しでも地球温暖化の 抑制に貢献できないか」というスタンスでした。委員会の参加メンバーからも世界的にも稀有な発想だと評価してもらい、特別に報告書内に日本の技術を紹介するコラムを設けてもらいました。
 前述の国際会議やさまざまな技術開発を経て、日本の舗装技術は世界的にも知られるようになりました。発展途上国からも技術支援の要請が増え、モンゴルやミャンマーでは日本の指導の下、 各国独自の技術基準も策定されています。私が国際貢献の際に特に気を付けているのは日本の技術を相手国に押し付けないことです。 日本がそうであったように、各国には各国の事情があり、気象条件や使用材料も日本とは異なります。日本の技術は米国の技術をベースにしていますが、 その後50年以上のわが国独自の経験を活かして改善し、わが国独自の技術として昇華されています。この改善する能力こそ日本人の武器であると考え、 相手国の技術者と議論しながらその国独自の技術として確立していくことを目指して頑張っていきます。

米国からの調査団

米国からの調査団