物理探査・土木技術に関する情報を提供します.

第2回 物理探査のプロセスと方法論

物理探査のプロセス

物理探査は,地球物理学の実践技術という性格を持っています.したがって,物理探査を「ちゃんとやる」には,背景となる地球物理学に対する豊富な知識を有していることも不可欠ですが,それに加え,実践に関わる「現場技術」としてのノウハウを養っておくことが大切です.道具(計測機器)を使って,成果(データ)を得る,という物理探査のプロセスは,船で沖に出て魚を獲る,という収穫型第一次産業に類似しているといえるでしょう.

物理探査のプロセス図

現場技術としての物理探査は,まず「測定準備」からスタートします.これは漁具の手入れや漁場の見極めなどの下準備に相当するもので,ツール調整,測定手順の検討,そして現地でのセンサ類の展開などが含まれます.いずれもよいデータを取るための下準備に他なりません.またより高品質のデータを得るために,新しくセンサ・ツール類を開発する場合もあります.「最近の話題」で紹介している「ランドストリーマー」も新たに開発したツールの一つです.

次のプロセスが「データ取得」です.しかし「ぶっつけ本番」では良いデータが得られる保証はありません.漁の際にタナの位置を変えたり,ポイントを変更したりするのと同様に,現場状況に応じて計測機器を細かく調整し,データのQC(品質評価)を行なうことが大切です.

物理探査は地盤構造や構造物の内部を可視化(イメージング)する技術ですが,現場で取得した生データから直接イメージングできる場合はほとんどありません.一旦持ちかえり,さまざまな「データ処理」を加えることで,はじめて構造や物性が見えてきます.包丁裁きや煮炊きによって,素材本来の味を引き出す「料理」にたとえることができるプロセスです.

せっかくの料理も,味わってこそ価値があります.物理探査では,「データ解釈」がこれに相当するといえるでしょう.イメージングされた構造や物性から何がわかるのか,そして対象地盤にどのように手を加えたらよいのかを提案するプロセスで,次につながる最も重要なステップです.しかし残念ながら現状ではあまり大事にされていないようです.データ解釈には,地球物理学の専門的知識だけでなく,地質学や地盤工学に関わる専門的知識も必要とされるのですが,専門技術者間の相互理解が不足しているからではないかと考えています.

物理探査の方法論

前段では物理探査のプロセスを,準備から解釈までの一連の流れの中でみてきました.ここでは,その流れの中で取り扱われる「データ」をキーワードにして物理探査の方法論的特徴を整理してみましょう.

物理探査の過程と物性・地質モデル

物理探査の「データ取得」段階では,対象とする地質体に実際に物理探査を適用し,対象地質体に関わる情報を入手します.得られた情報は通常「観測データ」あるいは「測定生データ」といわれます.そしてこのデータ取得過程は,方法論的には一般に「観測問題」と称されています.観測問題では,対象とする地質体をありのままに写し取る方法を扱います.現実的にはありのままに写し取ることなど不可能で,不充分な情報しか得ることができない場合がほとんどです.そこで対象とする地質体がどうなっているかをあらかじめ予測し,可能な限り高品質の情報が得られるよう最適な探査条件・観測システムを選択し,的確な観測配置を設計することが大切です.いくら高精度の観測システムを使用したとしても,観測配置や実際の測定条件に不備があると,解析に耐えうる観測データを得ることはできません.もちろん物理探査に関する専門的知識だけでなく,対象とする地質体に関する知識も必要とされます.高性能の漁具があっても,魚の習性を理解していないと,よい釣果が得られないのと同様です.

データ処理の過程では,観測データにさまざまな処理解析が施され,物性モデルへと変換されます.この処理解析過程に関わる方法論が,「逆問題」と呼ばれているものです.不充分な観測データからはユニークな解を得ることはできません.最適解を得るためにどのようなアルゴリズムを適用するか,最適か否かをどう判定するか,モデルにどのような制限を加えるか,などの解析上のノウハウが必要とされます.

最近の計算機技術の進歩を背景として,ある物性モデル解に観測を行なうとどのような観測データが得られるか,を数値計算で求めることが容易になりました.この数値シミュレーションに関わる方法論が「順問題」と呼ばれるものです.順問題における検討課題は,逆問題と基本的に同じです.

ところで,観測データには,本質的に観測誤差が含まれています.さらに利用可能なデータが少なかったり,観測配置が限定されている場合などには,データ処理や数値シミュレーションの過程でも誤差が発生します.この誤差の取り扱いに関わる方法論が「誤差問題」です.最近では,逆解析と順解析,誤差解析を繰り返し,誤差分布が最小となる物性モデルを,「最適解」と見なすという数値解析的技法が標準となってきています.トモグラフィー解析がその典型例です.

さてここで注意しておきたいのは,物理探査のデータ処理過程を経て得られるものは「物性モデル」であって,「地質モデル」ではないということです.「物性モデル」とは,「数学的に記述可能な状態方程式を解くことによって得られる物理パラメータの空間分布の最適解」のことです.これに対し「地質モデル」とは,「構成要素の空間的分布とその相互関係および形成過程を,先見的知識および地球科学理論によって説明・記述したもの」のことです.一般の地質図やトンネル地山断面図,ボーリング柱状図などは実地質体を観察し,特定の岩相などの特徴を区分してモデル化し,図化した地質モデルの一種です.しかし「ルジオンマップ」や「切羽観察表」などは地質モデルには該当しません.モデル化が不充分だったり,地球科学の基礎的知識に立脚したものでないからです.一方「物性モデル」には,屈折法速度層分布,反射法探査断面,トモグラフィー解析断面,重力異常分布などが含まれますが,通常の地中レーダー断面や地震映像断面などは含まれません.逆解析の過程を経ていないからです.

「物性モデル」と「地質モデル」とは全く異なったものです.そして物理探査を含め,地質調査研究では「地質モデル」の構築が最終的な成果になります.したがって物理探査においては「物性モデル」から「地質モデル」を構築する「データ解釈」の過程が不可欠となります.上にも書きましたが,データ解釈には地球物理学の専門的知識だけでなく,地質学や地盤工学に関わる専門的知識も必要とされますが,残念ながら「物性モデル」に留まっている場合が多いようです.

土木研究所では,物理探査を巡る以上のような課題についての調査研究を実施するとともに,技術指導や最先端技術の普及活動を実施しています.

次回に続く ...