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気をつけよう,軟弱地盤と標準貫入試験

首都圏に広く分布する軟弱地盤

首都圏における低地帯の分布図

関東平野の南部には,東京低地,荒川低地,中川低地と呼ばれる低地帯が分布しています.この低地帯の下には70mにも達する深い埋没谷が隠れており,厚い沖積層で満たされています.最近の研究によって,この低地帯中の沖積層は,約15,000年前からの急激な海水準変動による河川環境,引き続く内湾・エスチュアリ(潮汐の影響が卓越する河口域をさす地形用語)環境およびデルタ環境という一連の堆積環境変遷の下で形成されてきたことがわかってきました.

沖積層は未固結なうえ,多量の水分を含んでいます.なかでもシルトや高有機質土,粘性土などの軟弱層を主体とする沖積層からなる地盤を「軟弱地盤」と称しています.軟弱地盤は地震に弱く,「不同沈下」や「盤ぶくれ」などの地盤災害を引き起こすことがあります.想定されている首都圏直下型地震への備えや,経済的で安全な都市再生を図るためにも,関東平野南部に分布する沖積層の分布と物性を的確に評価することが求められています.

標準貫入試験とは?

標準貫入試験風景の写真

地盤の物性を原位置で簡便に測定する試験法の一つに「標準貫入試験」があります.標準貫入試験では,63.5(±0.5)kgの重錘を76(±1)cmの高さから落下させ,専用のサンプラを30cm貫入させるのに必要な打撃回数を測定します.その値を「N値」と言い習わしています.土質調査のボーリングでは通常1m間隔でN値を測定します.また,その際にサンプラで回収された試料は粒度組成分析や地質構成判別に利用されます.さらに,標準貫入試験のN値はさまざまな基準体系に組み込まれ,土木建築構造物の設計や施工に欠かせない情報として取り扱われています.

関東平野南部域では,開発に伴い多地点で土質調査ボーリングが実施されてきました.それに伴い,膨大な数のN値データが蓄積されてきています.最近,それらのデータベース化が進み,沖積層の3次元構造モデル構築にN値データを活用しようとする試みもなされています.

このように標準貫入試験のN値データを設計・施工の実務に使用したり,3次元地盤構造モデリングに活用しようとする場合,まずそのN値データの信頼性・品質について検討することが重要です.土木研究所では設計・施工基準の信頼性向上のための研究を実施していますが,その一環として,地盤の原位置物性評価手法とその利用過程について実験的な研究を進めています.本稿ではその研究の一端を紹介します.

専用サンプラと採取したサンプル

問題が多い標準貫入試験

標準貫入試験は工業規格として基準化され(JIS A1219),これまでにも多くの検討分析が加えられてきており,試験法として確立されたものとして扱われています.しかしその方法論や実務過程には以下のような問題点があることが指摘されています.

第一点は,それが連続的固定区間に対する測定ではない,ということです.通常の1mに1深度の測定では,全体の30%程度の区間に対する情報しか得ることができません.情報が得られない区間の割合のほうが大きいのです.また30cmという測定区間も固定ではありません.軟弱層では30cm以上に,一方礫層では数cm以下しか貫入できないことがしばしばあります.

N値には対数尺度がよく似合う

N値の線形尺度と対数尺度の比較図
N値の対数正規確率グラフ

第二の問題点は,計測値が線形尺度に乗らず,正規分布もしないことがあげられます.上図は,濃尾平野臨海部で実施されたボーリングのN値約2000データの頻度分布を示したものです.線形尺度では低N値側にピークが出現していますが,対数尺度では区分の中央部にピークが現れています.これは,N値が対数正規分布していることを示唆しています.右図の対数正規確率グラフでも,ほぼ直線的な分布を示しています.現在さらに多くのN値データを収集し,N値の出現頻度に地域性があるのか,堆積相による違いがあるのかについて検討中です.

厄介な「N値ゼロ」

標準貫入試験に関わる問題の第三点は,測定レンジが狭小でスケールアウトするデータが多く存在することをあげることができます.このうち高N値側(50回以上打撃しても30cm貫入しない)は計算によって換算N値を算出することができますが,低N値側,すなわちN値がゼロ(ロッド自沈あるいはハンマー自沈)はデータの取扱いが厄介です.関東平野南部に広がる低地帯の特徴の一つとして,N値ゼロの「軟弱地盤」が広く厚く分布していることがあげられます.この軟弱地盤の性状をより詳細に解析するには,低N値側に何らかの補正を加えるか,あるいはスケールアウトしない別の計測データを活用することが求められます.

高精度・連続的な地盤物性計測を目指して

軟弱層の物性を原位置で高精度に計測することが可能な方法の一つにS波速度検層があります.S波速度は地盤の基本物性の一つであり,地震防災分野などで利用されてきましたが,軟弱地盤の物性示標としてはあまり検討されてきませんでした.

深さ30m付近までN値ゼロの軟弱層が分布している中川低地において,高精度で計測されたS波速度データを,湿潤密度や間隙率などの土の基本物理量と比較検討してみました(下図).その結果,S波速度がこれらの物性と高い相関性を有することがわかりました.S波速度と湿潤密度から計算した剛性率は,室内振動三軸試験結果とよく一致しました.またN値は対数尺度で表示すると,他の物性データと調和的であることがわかりました.

S波速度データと土の基本物理量と比較

今後さらに計測・試験データを収集し,標準貫入試験の信頼性向上と軟弱地盤物性について調査研究を進める予定です.