洪水時の水の流れは、川底に摩擦力を及ぼして河床材料を動かし、生物の生息に影響を及ぼすことが知られています。
一般に、洪水時の流量が増加し水深が大きくなると川底の摩擦力が増加します。しかし、川幅が小さい実験河川では河岸に植物が繁茂するとちょっと違った現象が起こります。植物が抵抗となり同一流量でも、流速の低下、川底の摩擦力の低下が生じ(写真-1・図-1)、河床材料が活発に動かなくなるのです。
ここでは、河岸の植物を刈り取った直後(7月)と植物が成長した後(9月)における摩擦力(ここでは、摩擦速度の2乗という指標を使いました)と河床材料の移動状態との関係を推定してみましょう。河床材料の移動状態を「T:移動しない」、「U:川底を転がりながら移動する」、「V:川底から浮上してまた沈降する」、そして、「W:浮上したまま移動する」、の4つに分類します。植物がない場合に比べ、植物のある場合は、河床に働く摩擦速度が大きく低下し、河床材料の移動状態が大きく変化することが解ります。例えば、実験河川によく見られる1mmの粒径の砂は、洪水時(2m3/s)植物がない場合は、Vの状態(浮上と沈降を繰り返して下流に移動する)ですが、植物があるとUの状態(川底を転がりながら移動する)へと変化します。また、10mmの礫の場合は、U(川底を転がる)からT(移動しない)となることがわかります。(粒径を固定して、摩擦速度が低下したときに図中の線を超えるか、超えないかが移動状態の変化を知る目安です)
このように、川幅の小さい河川における河岸の植物は、河床材料の移動を通じて川の生態系に深く関わっていると考えられます。川幅、水深、摩擦速度、河床材料の粒径等工学で使用される尺度が川の生態系の理解を助ける場合があります。
担当 : 水野 徹
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■写真-1 河岸に繁茂する植物の状況 |
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■図-1 実験河川に2m3/sを流下させた時の「摩擦速度と断面平均流速」
実験河川では、河岸の植物を刈り取った直後(7月)と植物の成長した後(9月)に、洪水実験時の水理量を測定しました。図1は流量2m3/sを流したときの、流速、摩擦力(ここでは、摩擦速度という指標を使いました)を示します。植物があると、流速、摩擦速度とも低下することが分かります。 |
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■図-2 植生の繁茂による河床材料の移動形態の変化
上が植物のない場合(7月)、下が植物のある場合(9月)の摩擦力(摩擦速度の2乗)の値を示します。実験河川は勾配や川幅が変化するためその値に幅がありますが、全体的に植物のない場合の摩擦力が大きく、河床材料の移動形態が異なります。 |
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