実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 付着性藻類の流れやすさは、
種によって異なるのでしょうか。

A 種によって異なる生活様式や石への着生形態の違いが、
流されやすさに関与していることが推察されました。


 川底の石の表面に生育している藻類は河川生態系における一次生産者としての役割を担っています。しかし、近年、河川流量の安定化や攪乱の減少によって、糸状緑藻の繁茂、細粒土砂の堆積等が生じ、藻類を餌資源とするアユ等の魚類等への影響が指摘され、出水によって藻類が流されたり、川底の石が転がったりすることの重要性が認識されてきています。当センターでは、川底の環境を取り戻すため、藻類が流される出水条件や良好な川底を保つための攪乱頻度について研究しています。その中で種によって流されやすさは異なることがわかってきました。
 石の表面に付着する藻類は、細菌の被膜が形成された後、平面的に付着する珪藻が出現し、長い柄で付着する珪藻や、ロゼット状を呈する珪藻、さらには糸状性の緑藻や藍藻主体の立体的な構造の群集へと遷移することが知られています1)。そこで、遷移の段階が異なる付着物、ここでは川底に設置していた期間が異なる2タイプ(15日間、47日間)の付着物(図-1)を用いて、出水によって掃流しやすさが異なるかどうか実験しました。平常時流量0.1m3/sを1.0m3/sに増加させ24時間継続させた結果、15日間設置した付着物中の細粒土砂や藻類量は減少したのに対し、47日間の付着物は減少せず、後者の方が前者より流されにくいことがわかりました。
 両者の遣いについて顕微鏡を用いて観察したところ、15日間設置したものは、Scenedesmus spp.(写真-1)やPlanktosphaeria gelationsa(写真-2)が多く出現していました。これらは浮遊性の藻類であり、出水によって容易に流されやすい種です。その他、珪藻のNitzshia palea(写真-3)、Navicula viridula var. rostrata(写真-4)、Gomphnema parvulum(写真-5)、Synedra spp.(写真-6)、Melosira varians(写真-7)が出現していました。このうち、Nitzshia paleaNavicula viridula var. rostrataは平面的に着生しますが自由に動き回ることができ、Melosira variansは細胞がつながった糸状の群体を形成することから、これらは共に流されやすい種と考えられます。Gomphnema parvulumSynedra spp.は殻端でパットにより着生する種で、流されやすさは中程度です。このように15日間設置したものに付着していた藻類は流されやすい種が多かったようです。
 47日間設置していたものには珪藻のSynedra spp.、Navicula viridula var. rostrataMelosira variansNitzshia paleaや、糸状体性の藍藻のHomoeothrix janthina(写真-8)が代表的に出現していました。Homoeothrix janthinaは出水によって糸状体の一部は切れて流されますが、付着している部分は流されにくいようです。その他、15日間設置したものにはほとんどみられなかった糸状緑藻のSpirogyra sp.、Cloniphora sp.(写真-9)、Oedogonium sp.(写真-10)が出現していました。Cloniphora sp.は糸状体の部分は切れて流されることもありますが、基部細胞は流されずに残ります。基部細胞を持つ種は、一般的に基部細胞から伸びる仮根状突起でしっかりと石面に着生しているため、この部分は流されにくいと考えられます。このように、47日間設置していた付着物中には、流されにくい種が含まれていました。種によって異なる生活様式や石への着生形態の遣いが、流されやすさに関与していることが推察されました。ただし、種による付着形態は不明なものも多く、付着形態の観点から、流されやすさを整理することは今後の課題であるといえます。また、付着形態のみでなく、藻頬の粘性物質による結合や補足などが、流されやすさに影響を及ぼすことも考えられますので、これらの検討も必要であると考えられます。

1) 参考文献「陸水学」 京都大学学術出版会
(著)アレキサンダー・J・ホーン/チャールズ・R・ゴールドマン
(訳)手塚泰彦


担当:皆川 朋子・福嶋 悟(部外研究員)

■図-1 実験に用いた石の上面。左は設置期間15日間、右は47日間
■写真-1 
Scenedesmus
spp.
■写真-2 
Planktophaeria gelationsa
■写真-3 Nizshia palea ■写真-4 
Navicula viridula
var.
rostrata
■写真-5 
Gomphnema parvulum
■写真-7 Melosira varians
■写真-6 Synedra spp. ■写真-8 Homoeothrix janthina
■写真-9 Cloniphora sp. ■写真-10 Oedogonium sp.


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