実験河川を活用して河川における自然環境の保全・復元方法について調査・研究を行っております

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Q 人は、川底の「きれいさ」を
どのように評価しているでしょうか?

A 付着物量の多さと色で判断しています。

●研究の背景と目的

 流量の平滑化や減少等によって、河床に付着藻類が厚く繁茂したり、シルト等の細かい土砂が堆積する等、生物への影響や人間からみた河川景観の悪化が指摘され、その改善が求められています。本研究では、景観的な課題をとりあげ、河床付着物と人間の視覚的評価との関係を定量的に明らかにすることを目的とした評価実験を行いました。これを明らかにし、水理量や流況と関連づけることは、河川流量管理、あるいは、近年、ダム下流部の環境改善を目的として実施されているダムの弾力的管理試験の効果を評価する際の知見を提供するものと考えられます。

●評価実験

 実験河川及びその取水河川である新境川(川幅約15〜20m)の様々な河床の状態41ヶ所を対象に、公募等により募った被験者(10〜60代の男女、10〜32名)に、河岸または橋梁上から観察してもらい、「川底のきれいさ」、「石表面のきれいさ」、「水のきれいさ」、「生物がすんでいそうか」、「川に手に入れてみたい」等の項目について、5段階評価してもらいました(例「水のきれいさ」;きたない:1、ややきたない:2、どちらでもない:3、ややきれい:4、きれい:5)。また、あわせて、川底の石から付着物を採取し、乾燥重量、シルト等の細粒土砂量、有機物量及び付着藻類の現存量や種組成及を分析しました。

●結果と考察

 人は、「川底のきれいさ」を、付着物量(乾燥重量、有機物量、藻類量、細粒土砂量等)と色で判断していました(図-1)。付着物量は少ないほど評価が高く、「きれい」と評価された川底の石は、石表面の模様がわかるほど、付着物量が少ない状態でした。また、同程度の付着物量であっても、評価は色によって異なり、緑色系のものは、評価が高くなる傾向がありました。なお、付着物の色は、藻類の種構成の違いを反映しており、今回みられた茶色系、緑色系、黒色系の藻類は、それぞれ、珪藻類、緑藻類、藍藻類の割合が高い傾向がありました(図-2)。また、「川底のきれいさ」は、「水のきれいさ」、「生物がすんでいそうか」、「川に手をいれてみたい」と相関関係がありました。川底の状態は、人の視覚的な評価のみならず、河川の水質、生物の生息空間、親水利用に対する評価を行う際の判断要素にもなっており、河川管理において重要な項目であることがわかります。
 今回の実験で川底のきれいさと最も相関が高かった細粒土砂量と、この沈降に係わる摩擦速度U*との関係をみてみましょう。図-3は、摩擦速度U*と約4ヶ月間、流量一定を保った条件下における細粒土砂量を示しています。今回対象とした条件(水質、水温、日射量の環境条件、付着藻類群集等)において、視覚的に許容される状態は、摩擦速度約5cm/s以上を確保することによって維持されることがよみとれます。この値は、河川流量管理を考える上で、一つの目安になることが示唆されます。
 次に、視覚的な評価が高かった緑藻類についてみてみましょう。緑色系で優占していたCladophora sp.(カワシオグサ)等の糸状緑藻は、しばしば、毛髪状に長く成長し、不快さをもたらすとされています1)。今回対象とした緑藻は、長く繁茂した状態ではなかったため、評価が高い傾向が示されましたが、毛髪状に繁茂した場合は、評価は低くなっていたものと考えられます。また、糸状緑藻は、藻類群落の形成過程の最後に出現する種とされ、河床攪乱がない安定した環境条件の下でしばしば繁茂します2)。したがって、本来、降雨等により流量が変動し、河床付着物がフラッシュされる流況下においては、これが優占する場合は少なく、毛髪状に長く成長しないものと考えられます。さらに、これらの繁茂は、付着藻類を餌とするアユにとって、成長阻害となる可能性が指摘されています3)。長く伸びた糸状緑藻は、景観的にも、河川生態系の健全さからも良好な状態とはいえないでしょう。


1)Wharfe, J. R., Taylor, K. S., and Montgomery, H. A. C : The growth of Cladophra glomerata in a river receiving sewage effluent, Water Res. 18,
pp.971-979, 1984.
(2)野崎健太郎, 内田朝子 : 河川における糸状緑藻の大発生, 矢作川研究所 No.4,
pp.159-168, 2000.
(3)内田朝子 : 矢作川中流域におけるアユの消化管内容物, 矢作川研究 No.6,
pp.5-20, 2002.


担当:皆川 朋子・福嶋 悟

■図-1 「石表面のきれいさ」と付着物量、色の関係
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■図-2 網別構成比
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■図-3 摩擦速度と細粒土砂量との関係
(破線は、視覚的な評価からの許容値)
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