私達の生活は、数多くの貯水ダムによって成り立っています。しかし、貯水ダムができることで、その下流の物理環境や生態系機能にどのような変化が見られるのか等の知見は、日本国内にはほとんどありません。そこで、貯水ダム下流域生態系の変化状況をさまざまな角度から検証することを目的に、野外調査を行いました。調査地には、流況の面から日本中部以西の典型的な貯水ダムである阿木川ダム(岐阜県恵那市・木曽川水系)を選び、そのダム上流・下流において、環境要因を網羅した環境調査・生物(底生動物)採集を行いました。
調査の結果、ダム下流における最も顕著な変化として、細かい河床材料の減少が見られました(図1)。これは、砂などがダム湖内に捕捉されて下流に供給されなくなり、次第に大きな河床材料だけとなる「粗粒化」と呼ばれる現象が起きていることを示しています。このような変化を受け、細かい河床材料を利用する生物(堆積砂にもぐって生活する、巣材として利用する等)はダム下流において少なくなっていました(図2)。
また、次に大きな変化として、流程の短い日本の河川には本来見られるはずのない「植物・動物プランクトン」が、ダム下流で非常に多く見られたことが挙げられます(図3)。プランクトンの栄養価(他生物の餌としての価値)は、河川に通常流れている細かい有機物(流下粒状有機物)とくらべて非常に高いことが知られています。栄養価の高い餌が供給されるため、流下粒状有機物を濾過して食べる種類の生物(濾過食者)はダム下流において顕著に増加していました(図4)。
これらの結果は、貯水ダム下流域生態系の変化が、「河床材料の変化」・「流下粒状有機物組成の変化」を主な原因としていることを示唆しています。しかし同時に、このような環境改変は、ダム下流に支川が流入した後は緩和される可能性があることも分かってきました。ダム下流の生態系保全のためには、このような緩和ポテンシャルが高いと考えられる支川を積極的に保全するなどの対策が必要なのかもしれません。今回得られた阿木川ダムでの調査から導かれる結果を一般化できるよう、センターでは引き続き、調査・実験を行っていきます。
担当:片野 泉
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■図-1 河床材料割合 |
■図-2 土砂を利用する生物数 |
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■図-3 河川水中のプランクトン数
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■図-4 プランクトンを食べる生物数 |
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