● 背景と目的
昨年度までに実施した実験から、礫間のすきま(以下、間隙)が冬期を含めた平水時の生息場所として機能していること、および礫サイズによって魚・甲殻類の選好性が異なることが明らかになりました。しかし、増水時に魚・甲殻類がどのように間隙を利用するかについては明らかになっていません。
実験河川では人工的に洪水を発生させることは可能ですが、増水時に河道内で魚類等を採捕することは、技術的に難しく、採捕方法に工夫が必要です。そこで、今年度は、昨年度の敷網による採捕方法を応用して、増水時の間隙に生息する個体を全量採捕することで、増水時の魚等の利用状況、間隙の機能を明らかにすることを試みました。
● 間隙実験の方法
増水時に間隙を利用する個体を全量採捕するために以下の手順で実験を行いました。@昨年度の実験に使用したものと同じ房状に連結した石礫群を用意する(以下、石礫群)、A実験河川の河岸に木材で作った凹状の平面形の箇所に魚類採捕用の巾着袋状の網(2.0m×2.0m)を敷設する、B敷設した網上に石礫群を重機で吊り降ろし実験区(1.5m×1.0m)を設置する、Cこの状態を魚類定着の目安となる2週間維持する、D魚類調査を実施する。Dでは、石礫群の下に敷設した網を使って瞬間的に石礫群を包み、魚類が逃避できない状態とし(写真1)、続いて、巾着袋状の網を開口し、重機で石礫群を吊り上げて、石礫群内の魚類を全て採捕しました。
実験に用いた礫径は、遊泳魚の利用が多かった350mm径とし、平水時(0.1m3/s)と増水時(2.0m3/s)の両方で各4つの実験区を設け、採捕数を比較しました。
● 結果と考察
6m2当たり、平水時に32個体、増水時に29個体、計9種61個体(優占種はタモロコ、オイカワ、フナ属、ナマズの4種)の魚類が確認され、増水時も平水時と同様、1実験区当たり平均で7個体以上の魚類が生息していることを確認できました。さらにオイカワでは、平水時の全ての実験区で生息数0であったのに対し、増水時には全ての実験区で個体を確認できました(図1)。オイカワは実験河川の優占種の一つであり、平水時は流心部を遊泳しています。従って、本結果は平水時流心を遊泳するオイカワが、増水によって石礫群内へ避難したことを示すものと考えられます。
昨年度実施した実験では、石礫群が越冬場所として機能していることが分かりましたが、本年度は、石礫群が増水時の避難場所としても機能していることが分かりました。
このように間隙は生息場所として様々な機能も有しています。今後は、得られた結果を工法開発等、具体的な河岸・水際域の保全・修復手法に結び付けて行くことが必要となります。
担当:大森 徹治、佐川 志朗、萱場 祐一 |
|
■写真−1 増水時における石礫群内の魚類採捕方法 |
|
|
■図−1 平水時と増水時の石礫群内の優占種個体数 |
|
|