● 背景と目的
ミヤコタナゴ Tanakia tanago は、関東地方の水田地帯の溜池や用水路に広く生息していましたが、現在の自然分布は栃木県と千葉県の局所に限定され、都市化、水田の土地改良事業、兼業化、機械化や休耕等の農業形態の変化、密漁等の要因で生息数や生息場所が減少したと言われています。本種の生息場所を応用生態工学的に整備するには、各生活環に応じた生息場所特性を定量的に明らかにする必要があります。ミヤコタナゴの稚魚は浮上後の一時期、水面に群れをなすことが経験的に知られていますが、本研究ではそのステージに着目し、物理的・生物的側面から稚魚の定着場所に寄与する要因を明らかにすることを目的としました。
● 方法
調査池の池床材料は泥が優占し、水際にはヨシやショウブ等の抽水植物がみられます。二枚貝調査は平成21年3月に実施し、池内全域を任意にエリア区分して、池床を手探りして採取する方法で行いました。物理環境調査は平成21年6月に実施し、任意の111測点において水深、河床材料、水中カバー(水中の植物体)および水上カバー(水面上の植物体)を計測しました。稚魚調査は平成21年6月から7月に計3回行い、池内全域を踏査して対象(稚魚群れもしくは単体)の数をカウントしました。また、確認地点の物理環境を測定しました。
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● 結果と考察
稚魚は単体もしくは群れ(最大10個体)でみられ、統計モデル解析の結果、稚魚の定着場所は貝の密度が高い浅場であり、水中の植物の際である確率が高いことがわかりました(図1)。ヨーロッパ原産のヨーロッパタナゴは二枚貝から浮出した後、水深の浅い植物の際に定着することが知られています。本研究結果もこれと同様の傾向を示しましたが、これら2要因よりも、貝の密度が稚魚の定着要因として強く寄与していることがわかりました。本種は貝から浮出した後しばらくは、環境条件というよりはむしろ産卵母貝に対する定着性を有する故に、このような分布様式を示したのかもしれません。一方で、流水環境である用水路で行った我々の調査結果からは、稚魚のみられる場所と貝密度の関連性はみられず、低流速域や植物の陰といった避難場所の量が生息に重要なことが示唆されています。以上より、本種の生息場所整備のためには、止水環境と流水環境の違いに着目した生息場所特性の解明を行うとともに、それぞれに見合った生息場所整備手法の検討が必要と考えています。
ミヤコタナゴの稚魚
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