● 背景と目的
河川の増水により冠水する氾濫原(現在では、堤防間に限られる)には、かつて頻繁に冠水する「ワンド」や「たまり」が多く存在しましたが、近年は本川流路の河床低下に伴い、増水しても冠水しにくくなってきました。その結果、ワンドやたまりの生物生息場としての機能が低下し、氾濫原生態系の指標生物として有効である二枚貝(イシガイ類)も減少してきました。そこで、河川の治水対策としてよく実施される高水敷(河川と堤防の間に設定される一段高い地盤。ここでは、樹林化した砂州も含む)の切り下げが、冠水の範囲と頻度を増大させることに着目しました。ここでは、高水敷をどの高さで切り下げると、二枚貝が生息し易い氾濫原水域が形成されるのかについて、切り下げからの経過年数とあわせて検討しました。
● 方法
勾配1/2500程度の揖斐川中下流部、約8q区間(河口から31−39km)で調査を行いました。調査区間の両岸には、平成12−19年にかけて、様々な高さで高水敷が切り下げられた跡地が分布しています(図1)。切り下げ面は、当初平らに整地されましたが、その後、多数のワンドやたまりといった水域が形成されています。85箇所の水域において、二枚貝の生息量(1時間あたりの採捕個体数:N/hr)を調べました。各水域は、その水域が属している切り下げ面の初期設定の高さに準じ、「渇水位〜平水位」、「平水位〜豊水位」、「豊水位以上」の3カテゴリーに(図2)、切り下げ時期に準じて「平成12−14年」、「平成17−19年」の2カテゴリーに分類しました。そして、切り下げ高さと切り下げ時期が、その後の二枚貝生息場の形成に及ぼす影響について、生息量の違いをもとに検討しました。
● 結果と考察
二枚貝は、「渇水位〜平水位」の切り下げ面に形成された水域において高い生息量を示しました(図3)。二枚貝は冠水頻度の高い水域に生息することが知られています。このような水域は、高水敷を低く切り下げることで形成され、二枚貝の生息場として機能したと考えられます。また、同じ切り下げ高さであれば、平成17−19年(経過年数5年前後)の実施場所の方が平成12−14年(経過年数10年前後)の実施場所より、二枚貝の生息量が高い傾向にあることが分かりました(図3)。これは、時間経過とともに切り下げ面への土砂堆積、もしくは本川の河床低下が進行し、氾濫原水域と本川との比高が増して冠水頻度が低下するといった、水域環境の変化を示しているのかもしれません。今後は、各切り下げ高さにおける水域の量(面積や数)や比高、それらの時間変化を併せて検討し、切り下げ面全体からみた評価を行うとともに、劣化要因を特定することが必要です。
担当:永山 滋也 |
 |
■図1 揖斐川中下流部(河口から31−39km)における
高水敷切り下げの場所と切り下げ高さおよび時期 |
|
 |
■図2 切り下げ高さのイメージ図 |
|
 |
■図3 異なる高さ、異なる経過年数の切り下げ面に
形成された水域における二枚貝の生息量 |
|