● 背景と目的
「中小河川に関する河道計画の技術基準」では、護岸が露出する場合の景観上の条件の一つとして、テクスチャー(質感、肌理)には「凹凸や陰影、ざらざらとした質感を持たせること」が求められています。しかし、この記述は概念的な内容にとどまっており、護岸ブロックの評価や開発をする上での課題となっています。そこで、既存の護岸ブロックに使用されている代表的なテクスチャーを使用し、実物大の護岸を作成することで、どの様なテクスチャーが周囲の景観に調和せず、河川景観に悪い影響を与えるかについて検証を行いました。
● 方法
既存の護岸ブロックとして主に用いられている8種のテクスチャー(図1)について実物大の護岸(横3.5m×高さ約1.8m)を作成しました(左頁写真)。各護岸に対する人の印象を調べるために、アンケートに基づいた印象調査を行いました。アンケートの被験者には、その護岸から15m程度離れた所から、各護岸が「周辺環境に調和しない」(以下、「調和しない」)かどうか、について回答をしてもらいました。さらに、その理由について、「凹凸だから」、「明るいから」などといった16種の形容詞対の中から選択してもらいました。また、各テクスチャー表面の形状を測定する事と護岸ブロックの明度を測定する事で、計測した凹凸量や明度と各テクスチャーに対する人の持つ印象との関係性を分析しました。
● 結果と考察
印象調査の結果、「調和しない」と多く回答された護岸ブロックは滑面、小擬石、大擬石の3種類でした(表1)。その理由は、1位「人工的」、2位「明るい」、3位「平らな」でした(図2)。次に、実際に測定した明度と印象調査の結果を比較したところ、実際に明度が高い(明るい)ブロックに対して、被験者の多くは「明るい」を選択していました(図3)。また、護岸表面にある凹凸量と印象調査との結果を比較すると、凹凸量の極端に小さい滑面に対して、被験者の多くは「平らな」という印象を受けていました(図3)。
実物大の護岸を使用して判断される印象調査の結果、「人工的である」と「明るい」の他に、「平らである」と感じられる護岸は、「調和しない」と感じられることが明らかとなりました。つまり、護岸の表面にある凹凸や起伏といったテクスチャーが判断材料の一つとなっている事が示されました。したがって、明度が高い(明るい)事に加え、凹凸量が極端に小さい(平らな)「滑面」は「調和しない」と感じる代表的なブロックとして挙げられ、護岸ブロックとしての利用を控えるべき素材であると考えられます。
担当:櫻井 玄紀 |
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■表1 印象調査の結果、各テクスチャーに対し、
「調和しない」を選択した被験者の
割合とその理由 |
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■図1本研究で用いた8種類の ■図2決定木による、テ
テクスチャー クスチャーに関係なく
「調和しない」と
感じられる主な理由 |
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■図3 「調和しない」を選択した被験者の中で,
「明るい」を理由として選択した被験者数と
明度との関係(左)と
「平らな」を理由として選択した被験者数と
起伏量の標準偏差との関係(右) |
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