● 背景と目的
河川が増水した時に冠水するエリアを氾濫原と言います。河道の中の氾濫原(以下、氾濫原)に形成される「ワンド」や「たまり」といった水域には多様な生物が暮らしています。しかし、ここ数十年の聞に進行した河床低下に伴い、氾濫原は相対的に高い位置に取り残され、樹木に覆われるようになりました。これは、氾濫原の「陸域化」、「樹林化」と呼ばれています(上表紙)。我々は、氾濫原における水域生態系の指標生物として淡水性の二枚貝(写真1)に着目し、その生息適性条件を検討しています。これまで、水域内部の物理環境条件として、水深約70cm以上のエリアには二枚貝がほとんど存在しないとが分かりました。ここでは、水域内における二枚貝の微環境と周辺樹木との関係から、特に水域の適正幅について検討しました。
● 方法
木曽川下流部に存在する最大水深約50cmのたまりにおいて、2014年11月にコドラー卜調査を行いました。コドラー卜の大きさは1mX1mで、たまりを横断する6本の測線上にほぼ隙聞なく設定し、各コドラー卜で二枚貝の採捕、物理環境(水深、泥厚、有機物量、枝量、上空の樹木カバーの有無)の計測を行いました。二枚貝の生息量と水深、泥厚、有機物量との関係、ならびに有機物量と樹木カバーとの関係を解析し、たまり周辺の樹木が二枚貝の生息に与える影響を検討しました。
● 結果と考察
二枚貝は、水深が大きく有機物量が少ないコドラー卜に多く生息していました(図1)。また、有機物量は上空に樹木カバーがあるコドラー卜で多く、枝の量と正の関係にありました(図2)。
これらの結果は、@水深50cm程度までであれば、二枚貝はより深い場所を好むこと、また、Aたまり上空に張り出した樹木が枝や葉を直接たまり内に落とし、二枚貝の生息環境を悪化させることを示しています。
以上より、二枚貝の生息に適したたまりの条件として、まず、水深が50cm程度のエリアを広く持つととが上げられます。また、たまり周辺の樹木が成長しでも、上空が覆い尽くされてしまわない水域幅を確保するととも重要だと理解されます。本調査のたまりでは、樹木カバーの幅は平均8.2m(3-12m)図3
水域の横断面で示した周辺樹木によるカバーと水域内の有機物、二枚貝分布との関係。樹木カバー幅以上の水域幅があると、生息に適した関空域が創出される。で、あったことから、少なくとも10m以上の水域幅を確保することが望ましいと考えられます(図3)。
担当:永山 滋也、 原田 守啓 |
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■写真1 イシガイ採捕した二枚貝の1種 |
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■図1 二枚貝生息量と水深、有機物量との関係 |
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■図2 有機物量と樹木カバーの有無、技量との関係 |
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■図3 水域の横断面で示した周辺樹木によるカバーと水域内の
有機物、二枚貝分布との関係。樹木カバー幅以上の
水域幅があると、生息に適した開空域が創出される。 |
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