● 背景と目的
堆砂問題が顕在化しているダムでは、ダム貯水池に堆積した細粒土砂を人為的に下流へ流す取り組み(土砂還元)が検討されています。この際、流下した細粒土砂が河床に堆積すると、河床の石礫が埋没し、河床の環境が変化する可能性があります。一方で、河床の石礫は多くの水生生物が餌として利用する付着藻類の生育基盤となっています。とりわけアユはその主要な消費者であると共に、水産上の有用魚種でもあります。そのため、河床の石礫が埋没した際のアユの採餌への影響について、土砂供給を実施する前に検討することが望まれます。ここでは、河床の石礫の埋没の程度とアユの採餌の関係性について野外河川で調べた事例を紹介します。
● 方法
対象地は、琵琶湖流入河川(6 河川、各2 地点)です(図1)。調査では各地点において3 m の横断測線を6 箇所設定し、測線上の石礫(粒径5cm
以上)の粒径と露出高、アユの食み跡の有無を潜水により観察しました。その他に、1mごとに水深と流速を計測しました(図2)。そして、食み跡の有無に影響する要因を探索するために、4変数(露出高、露出面積、流速、水深)を説明変数としたロジスティック回帰分析を行いました。露出面積については、計測した粒径サイズと露出高をもとに、楕円体を想定して面積値を計算しました。
● 結果と考察
解析の結果、食み跡の有無に最も影響する要因は露出高であり、その間には正の関係性があることが確認されました。この結果は、アユが露出高の大きな石礫を採餌対象として利用したことを示しています。さらに、食みやすい露出高の閾値を探索する観点から、50%確率で食み跡が確認される露出高を算定したところ、10
~15mm 程度でした(図3)。この値は、今後、土砂供給後の河床の評価の際に、アユが採餌可能な露出高の目安として利用できるものと考えられます。
以上のことより、土砂供給によって河床の石礫が埋没し露出高が小さくなった場合には、アユの採餌に影響をおよぼす可能性が考えられます。そのため、アユが採餌可能な露出高を維持できるような土砂供給方法を検討する必要があります。なお、アユの採餌には、露出高のみでなく、石礫の粒径も関係していると考えられるため、河川あるいは同じ河川でも流量によっては、露出高の選好性が異なる可能性があることに注意が必要です。
担当:堀田 大貴、 小野田 幸生 |
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■図1 調査対象河川と調査位置図 |
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■図2 調査方法 |
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■図3 ロジスティック回帰分析の結果
(露出高と食み跡の有無の関係) |
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