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3次元データを活用して治水と環境を同時に評価できるツールはありますか?

3次元データを活用して治水と環境を同時に評価できるツールはありますか?

EvaTRiP Pro などの”多自然川づくり支援ツール”があります。

背景と目的

 近年グリーンレーザー(ALB)等を用いた河川測量が可能になり、広い範囲で地上・水中を含めた精密な3次元地形データ(点群データ)を取得できるようになりました。3次元地形データは横断形状の抽出をはじめ、河川の蛇行や瀬淵分布といった面的な情報を取り扱えるため、2次元の水理解析を用いた治水検討や生物の生息場評価等の環境検討がより正確に行えるようになります。当センターでは、3次元地形データを用いた河川設計を支援する「多自然川づくり支援ツール」の開発を行っています(図1)。無償の水理解析ソフトウェアであるiRICソフトウェア(以下、iRIC)に、地形編集と河川環境評価の機能を持たせることで、治水と環境を同時に評価することを可能にしました。ここでは、河川環境評価ツールEvaTRiP Pro(Evaluation Tools for River environmental Planning)について紹介します。

河川環境評価ツール(EvaTRiP Pro)

 EvaTRiP Proは水理解析で得られた流速等の計算結果を取り込んで様々な評価指標を算出するもので、専門家から管理者まで様々なユーザーのニーズを満たす高度な河川環境評価が可能です。図2に瀬淵分析機能による結果を示します。この機能ではフルード数(流れの状態を表す指標)による自動分類と、河川の状況に応じて水深・流速の閾値をマニュアルで設定する2つの方法が使えます。その他にも統計分析や変数の合成機能等があり、ユーザーが自由に式を入力して分析する機能もあります。EvaTRiP Pro はPython(プログラム言語の一つ)で動作するiRIC初の機能で、ソースコードが公開されています。これにより、EvaTRiP Proを改良して、様々な機能を独自に開発できます。

今後の展開

 EvaTRiP Proは環境評価のみならず、水理解析とAIや深層学習を組み合わせた新しい河川の評価技術のプラットフォームとして、幅広い活用が期待されます。また、河川設計を行う際は、治水や環境の評価に加えて景観の評価も同時に行うことが求められています。景観評価を行うツールとしてCG等によるリアルな表現が可能なゲームエンジンが注目されています。iRICでは、ゲームエンジンとiRICで地形データのやり取りを円滑に行うためのI/O(入出力)の整備も実施済であり(図3)、治水、環境、景観に配慮した3次元川づくりの実現を可能としつつあります。
最後に、自然共生研究センターのYouTubeチャンネルでは、EvaTRiP Proの解説動画を公開しています。本ツールが活用されることで、多自然川づくりが益々発展することを期待しています。
【解説動画はこちら】
(https://www.youtube.com/watch?v=2xCdC9DmVLA&t=2s)

■図1 多自然川づくり支援ツールの全体像
■図2 フルード数による自動分類(上)とマニュアル分類
(下)による瀬淵等の区分
■図3 ゲームエンジンの地形をiRICへの入力