Updated; 2003-09-02 トップページ 第7回ワークショップ ワークショップ経歴 リンク お問い合わせ

第7回PWRI-NILIM-USGS
水文・水資源に関するワークショップ

札幌
2003年7月14-16日

中村氏(NILIM)と永山氏(PWRI)は水文・水資源に関するワークショップのために札幌を訪れたワークショップ参加者を歓迎した。Harry Lins博士(USGS)は、中村氏と永山氏をはじめとするワークショップ開催に務めたスタッフ、また米国代表団手配の支援に感謝の意を表した。

ミーティングは、Harry Lins氏による米国における水資源研究の最近の傾向についてのプレゼンテーションから始まった。Lins氏はU.S. National Research Council(米国学術研究議会)の Water Science and Technology Board (WSTB:水科学技術委員会)による最近のレポート『Envisioning the Agenda for Water Resources Research in the Twenty-First Century(21世紀における水資源研究のための計画設計)』の内容を要約した。WSTBは、以下の3つの論題範囲:水利用可能量、水利用、水制度の研究を拡大するには、新しい資金のしっかりとした公約が必要だと、指摘している。委員会が各3つの範囲のために推奨している特定の機能については、米国科学アカデミーのウェブサイト、http://search.nap.edu/books/0309075661/html/から入手ができる。

 

吉谷純一氏は、旧土木研究所の改組、新組織の構造、現土木研究所と国土技術政策総合研究所のミッション、科学技術における重点施策である地球規模水循環変動イニシアティブの採択過程、及び一般にとって水文科学の認知性が低い実態を紹介した。彼の発表の意図は、今後の共同研究のあり方に関する議論のために、現在土木研究所の国際舞台における位置づけを評価することであった。

Lins氏はPWRIとUSGSの共同研究の経歴について、1992年2月3日、最初のMemorandum of Understanding Concerning Cooperation in the Field of Hydrology, Water Resources and Global Climate Change(水文学、水資源、地球気候変動の分野における共同研究に関する覚書)への署名に至った経緯に始まり、今回の札幌でのワークショップに先立つ6回にわたるワークショップをレヴューした。プレゼンテーションには、過去10年間に行われた多様な研究プロジェクトの合理性とその理由も含まれた。

 

<水文システムのモデリング・解析技術>

深見氏は、本課題の目的=気候・水文環境の変化時における水文解析や予測の精度と信頼性を改善すること、を説明した上で、本課題に関連した土木研究所における以下の研究取り組みについて解説した。

1.人工衛星や航空機からのリモートセンシングを活用した効率的な流域環境モニタリング手法の応用
1.1 衛星搭載合成開口レーダ(SAR)による積雪水量(相当水量)分布の評価
 河川・ダム流域における雪由来の水資源を評価することを目的として、RADARSAT衛星搭載の能動型マイクロ波センサであるSARによる画像を活用した積雪水量空間分布逆推定手法についての研究を行った。対象地域は新潟県中越地方である。地上での積雪分布現地調査データをもとにして、逆推定アルゴリズムの検証を行い、湿雪が見られる平地域では、積雪層物理特性の変化に関係なく4段階程度に積雪水量を区分できることを明らかにした。
1.2 リモートセンシングによる流域規模での水理水文条件のモニタリング
 高解像度のリモートセンシングデータが河道状況やその物理環境のモニタリングに利用できるかどうかについて調査を行った。イコノス衛星画像は、河川構造物の監視には1m分解能では不十分であるものの、特に河道変遷調査には有効であった。ヘリコプター搭載のTLS(スリーラインセンサ)については、1)透明度の高い水面下を含めた地形データ取得、2)河川区域の視認調査、3)河床材料(レキ〜砂)調査等に有効であることが判明した。
 また、現在、文部科学省プロジェクトとして、リモートセンシングデータを用いたカンボジア国トンレサップ湖の水収支把握の研究を実施しているところである。

2.地理情報システム(GIS)を基盤とした分布定数型水文モデルの開発
 2種類のGIS基盤分布型モデルを開発した。一つは、長期流出解析を念頭に開発した概念的分布定数型水文モデル=改良型土研分布モデルである。本モデルは、蒸発散や浸透に関連する大気―地表面相互作用過程について物理的なスキームを用いており、土壌や植生の物理特性との関係付けが可能である。他の部分は、従来の概念的な土研分布モデルを用いている。もう一つの開発モデルは、物理的分布定数型水文モデル=WEHY(流域環境水文)モデルである。本モデルは、洪水予測・解析を念頭に、カリフォルニア大学デービス校カバース教授との共同研究により開発されたものであり、空間平均保存方程式を基礎式としている。両者のモデルとも、日本の山地森林域のダム流域において検証された。これらのモデルは、気候や流域環境(森林・土地利用・都市化等)の変化が河川流出特性に与える影響を評価するために有効であると期待される。

3.河川流況と地域気候・地形地質環境との関係
 2000年の東海豪雨のDAD関係を定量的に明らかにする研究を実施した。その結果、日本における様々な降雨の豪雨特性を定量的に比較し理解するとともに、可能最大洪水を評価するためのDAD特性に関する地域区分を改善していくために、DAD解析が有効であることを再確認できた。

最後に、野洲川を対象とした低水監理モデル開発研究について補足説明を行った。

George Leavesley氏が以下のような流域システムのモデリングと、解析に関連したUSGSの活動を紹介した。

(1)地表水・地下水モデルの連結:流域モデルPRMS、1次元チャネル水力学的モデルDAFLOW、地下水モデルMODFLOWが、完全に統合利用するために連結された。
(2) 目的パラメータ推定:USGSは、様々な水文プロセスの概念化のための先験的パラメータ推定方法論を調査するために、Model Parameter Estimation Experiment (MOPEX:モデルパラメータ推定実験)プログラムに参加している。MOPEXはまた、IAHSのPrediction of Ungauged Basins (PUBS:水文データのない流域の予測)プログラムの構成要素のひとつでもある。
(3) 水マネジメント政策決定支援システム:この活動は、USGSと開拓局の流域河川システム・マネジメント・プログラム(WASMP)の元に共同で続けられている。この焦点は、水資源の課題における公正なバランスを達成するための意思決定支援システムの研究と開発および適用である。
(4) リモートセンシングデータの結合:USGSはアリゾナ大学、コロラド大学、NASA南西地区地球科学研究センターのLawrence Berkeley 研究所の共同研究者である。目的は、リモートセンシングデータの資源管理アプリケーションへの統合を検討することである。最初の検討は、河川流域マネジメントにおける積雪域と雪塊の等価水量リモートセンシングデータの利用を探求することである。
(5) 予測方法論:大気と水文モデルの連結はいくつかの空間スケールにおいて研究されている。MRF天気予測モデルからのダウンスケーリングは、コロラド川上流域での15日水文学的予測を行うのに使用されている。MM5ローカルスケール大気モデルからの動力学的なダウスケーリングはYampa川流域で調査されている。
(6) 改良された水文・生態系プロセスシミュレーション:USGSのWater, Energy, and Biogeochemical Budgets (WEBB:水・エネルギー・生物地球科学的収支)プログラムは流域における流路と水の滞留時間をよりよく定義し、モデル化するためにこれらのプロセスとその相互作用を調査している。アイソトープのトレーサーとしての利用は流路と水の滞留時間認識の手助けとなるための、WEBBプログラムの1つの局面である。この取組みとモジュラーモデリング枠組の利用における利益は、河川流域マネジメントにおけるアイソトープの使用について探求するための、International Atomic Energy Agency(国際原子力機関)との新しい研究活動の展開を促進してきた。
(7) 統合された解析と支援ツール:USGSは、Modular Modeling System (MMS:モジュラーモデリングシステム)と完全にオブジェクト指向のObject Modeling System (OMS:オブジェクトモデリングシステム)の統合のために、U.S. Agricultural Research Service(米国農業研究局)、U.S. Natural Resources Conservation Service(米国自然資源保全局)、ドイツ・Friedrich Schiller大学と共同で研究活動をしている。さらに大きな総合プログラムが、モデル、解析ツール、データベースの開発とシェアを促進するため、8つの米国政府機関の間で着手されてきた。参加機関は、USGS、Nuclear Regulatory Commission(原子力規制委員会)、Department of Energy(エネルギー省)、Environmental Protection Agency(環境保護局)、Army Corps of Engineers(陸軍工兵隊)、National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気庁)、Agricultural Research Service(農業研究局)、Natural Resources Conservation Service(自然資源保全局)である。

両機関は、水資源マネジメントの目的のための水文モデリングと解析における共通の関心を共有している。ミーティングにおいて行われた討論を通して、以下の研究トピックスが、今後1、2年にわたって共同で研究する可能性のある分野であるとされた。

1) GIS解析を活用した流域での水文モデリングツールと方法を設置する。おもなニーズは、土地利用や気候の変動が水資源にもたらす影響を推測そして/または評価できるようにするために、既存の水文データベースに依存するのを避けることである。(PWRI-PWRI分布モデルなどのGISベースの水文モデルの開発; USGS- OMS-MMS-GIS Weaselシステムとマルチメディア環境モデル、MOPEXの開発)

2) 水不足による水闘争に直面している流域のためのテクニカルサポートの推進。 (PWRI-野洲川; USGS-Water2025)

3) 国際河川の水資源に関連した調査、解析、問題解決のための適切な方法の提案。(PWRI-メコン川研究; USGS-国際河川へのトレーサーの適用)

深見氏とLeavesley氏は、両機関が関心分野の共通の領域、特に上記の3つの項目において共同研究を推進するということで賛同した。共同研究は、情報と人材の交流を通し、成し遂げられる。例えば、PWRIが、OMS-MMS-GIS WeaselシステムをPWRI分布モデルへ組み込む計画を立てるなどである。

 

<水文測定とデータシステム>

大手氏は、 PWRIの現在の浮子観測に取って代わる(または、浮子測定の不利な点が補正できる)新しい観測技術についての関心とともに、PWRIの浮子を用いた洪水流の水文観測に関する研究について発表した。PWRI は、洪水流測定における、橋脚による障害の影響の実地調査を行っている:平行らせん流の3次元構造と、その浮子使用に及ぼす影響;非接触水面速度測定法、水圧式洪水流速計とADCPを用いた、垂直平均速度を得るための変換係数。

Cheng氏は、流水測定データが、資源評価と配分、水工施設の設計、洪水災害計画、洪水予測にどのように利用されているかを説明した。USGSの7000をこえる流量観測所の大部分が、ほぼリアルタイムでウェブ上に掲載されている。しかし、河川流量は直接観測されてはいなく、水位流量関係から得られる。河川流量がユーザーへの配信のために、ほぼリアルタイムにて直接観測されるように、観測流水測定技術を向上させる必要がある。USGSの組織的な研究開発の取組みは、非接触レーダーシステムを利用した河川流量の測定は可能であることを示した。現在の最新技術では、水面速度の川岸からの信頼性のある観測ができるが、水路横断面はground-penetrating radar (GPR:地中探知レーダー)の河川水面に対して、正常に向いているレーダー光線で測定されなければならない。USGSは河川水理学の更なる理解に重点を置いたこの探求を継続する予定である。この進歩は、河川流量のための川岸側に設置されたレーダーシステムを、ヘリコプターから河川流量を測定する航空機レーダーシステムという概念へつなげる結果となった。ヘリコプターシステムは、局地的な洪水における緊急事態対応、またアクセスの難しい地域への適用に適している。

Cheng氏はまた、USGSが都市地質学と水自然災害イニシアチブの一部として、どのように洪水のおきやすい河川流域における流水測定補足のための準リアルタイムの洪水シミュレーションと警告システムの設立を試みるかについて説明した。システム案は、大気予測モデルの統合と、通常と洪水時の河川状況をシミュレーションする水文モデルのための適切な境界状況を設定する地域水文モデルからなっている。非構造グリッドUnTRIMモデルは、都市地域での洪水浸水をシミュレーションするのに強く、効率がよいことを示した。統合システムにおけるモデルは、同時にまた相互に作用しつつ作動している。このシステムは、無事に設立され有効性が証明されれば、インターネットを介した準リアルタイムでの洪水予測と洪水警告発表に利用される。まとめとして、USGSは、流量測定、洪水災害研究、準リアルタイム運転のための洪水警告における技術の推進を試みている。

 

<水界生態と水質研究>

天野氏は、USGS・Sartoris氏と共同で行われた、水質変化(水処理)と生態系との相互関係の点から見た、湿地帯の機能に関連した研究活動について説明した。USGSはカリフォルニア州Hemetに構築された湿地帯にて、水質変化とmacrophytes(大型植物)の影響に焦点を置いた研究に取り組んでいる。PWRIは渡良瀬川貯水池の水界生態系によってもたらされる水質変化に焦点をあてた研究を行っている。天野氏はまた、6月上旬の渡良瀬川貯水池の植物プランクトン発生の停止を伴う、無機栄養素増加現象の解析を目的とした、現地測定の結果と、その数値シミュレーションを用いた解析法も発表した。

 

<海岸プロセスと海岸システム>

NILIMの鳥居氏は自然状態では大量の土砂によって形成された日本の海岸について説明した。その中で、河川変形、砂利撤去、海岸構造に大きく影響された現在までの堆積システムの変遷についてもふれられた。NILIMによる解析は、日本の海岸の侵食問題の規模と位置についての概要を明らかにした。これにより、漂砂系が河川流域から海岸に至る流砂系の観点から、位置付けられた。また、河口部がこのプロセスを理解する上で重要であることを明らかにした。NILIMの2つのプロジェクトは:

1) 安部川流砂系における、土砂運搬と堆積変遷の解明に取組み。河川の砂利採取量の大幅な変化が、海岸に多大な影響を及ばした。本研究は、関連した潜在的に相反する、洪水災害コントロールと海岸侵食の問題へ科学的な計画を定めた。
2)河川プロセスと海岸プロセスが相互作用するところである河口部での堆積システムとそれに対応するプロセスを説明するための研究アプローチが説明された。

これらのプロジェクトは、海岸システム研究のための大まかな枠組み(流砂系)を示し、また、研究にとって重要な領域(河口)と重大な問題(豪雨プロセス、土砂採取)を示した。

Haines氏は、USGSの海岸地質学者と海洋学者の、海岸変化予測という目的で地形が海岸の変化に与える影響を理解する取組みについて紹介した。USGSのプログラムは幅広く、多くの問題と環境について取り組んでいるが、ここでの焦点は、侵食と砂浜システムの展開におかれた。 発表では3つの主要点が示された:

1) マッピングによる地域的海岸システムのための概念上の(一部量的な)『堆積物予算』モデル開発の説明と (側方監視、地中探知レーダー、音響測深)と地理学の解釈、
2) 多様な時間スケールにおける海岸線付近での海岸変化のモニタリングとモデル化(LIDAR, GPS 地形図と海底地形図)、
3) 地理的枠組みと海岸線変化に基づいた、我々の海岸変動についての理解を、テストし改良するための現地実験と多様なモデルの適用

上記に説明された要素は、将来の自然・人的影響の実際的なシナリオが与えられた海岸変動予測に必要な、科学と情報の基盤を提供している。最後に、発表では、さらに幅広く環境的な、資源マネジメント問題を支援するため、流砂系において海岸変動を予測するための、多くの取組みの中のいくつかが示された。2機関間の関心と取組みには多くの共通する点がみられる。両機関とも、局地的土砂収支によって定義されるシステムとして、海岸問題について取り組んでおり、また海岸変動についてよりよく理解できるように、プロセスについての理解を向上させるよう努力している。両機関は土砂輸送と堆積のプロセスを理解することは、幅広い環境問題へ適用できると認識した。 NILIMは必然的に、本省の活動を向上させる技術的使命が反映される方法をとっている。このため、彼らの研究は、海岸システムの過去と将来の潜在的人的変質と深く関わっている。技術的システムの活用と、複雑で相反する海岸資源の利用に対処するため、、NILIMがすでに行っている科学と政策決定を関連させる努力をするようにとUSGSに告知されるだろう。

米国と日本の海岸システムの詳細には似通った点-またいくつか異なった点がある。研究共同者として海岸システムに関するよりよい理解にむけ努力するにあたり、システムの似ている部分(河口でのプロセス、砂浜への豪雨の影響)と、違った部分(欠乏している堆積物と肥沃な堆積物)でのそれぞれの取組みから学ぶことができる。両機関にとって、基本的な研究疑問点の解決に利用できるデータを向上させるデータをシェアする機会があるかもしれない。すべての科学的追求と同様に、利益共有に適用される、能力と技術に関する知識をシェアすることにより得られることはたくさんある。

 

<地形学と堆積物移送>

末次氏は、日本でどのようにして多くの河川で植生の侵入・定着が起きているのか説明した。NILIMは、多摩川の永田地区を重点的にとりあげ、低水路を広げ、上流に砂利を置くことによる、河成システムの再生方法について研究している。この再生技術は、2001年から2002年の観測を通し、有効であったことが証明されている。USGSは、2002年にPlatte川において、植生クリーニングによる再生を開始した両機関とも、これらの課題について共同研究を続けていく。