研究の紹介

地震による揺れを山岳トンネルで計測


写真-1 新潟県中越地震における
山岳トンネルの被害事例
(写真提供:国土交通省北陸地方整備局道路部)



図-1 計測機器を設置したトンネルと、
計測した自身の震央の位置



図-2 計測機器を設置した様子



図-3 地山の変形モードとトンネル被害モード
(クリックすると拡大します)


  山岳トンネルは、極端に条件の悪い箇所を除いては、一般に地震に強い構造物とされています。しかし、2004年(平成16年)に発生した新潟県中越地震において、トンネル覆工(トンネルの最も内側に設置されるコンクリートの壁で、30〜60cm程度の厚さのものが多い)のコンクリート塊が崩落するほどの被害が発生した箇所がありました(写真-1)。このような被害を最小限に抑える耐震対策を合理的に実施するために、山岳トンネルにおいても地震により被害が発生するメカニズムを明らかにすることが求められています。

  ところが、山岳トンネルは地震による被害の事例が少なく、また、実際のトンネルにおいて地震の揺れを計測した事例も極めて少なかったことから、大きな地震動がトンネルに作用した場合の挙動はほとんど分かっていません。そこで、既設のトンネルにおいて、地震時の動きを測る機器を設置したところ、強い地震が発生し、実際のデータを得ることができましたので、紹介します。

  計測機器を設置したのは、宮城県石巻市にあるサン・ファントンネル(図-1)で、1996年(平成8年)に建設された、一般的な2車線の道路トンネルです。このトンネルの覆工に、加速度計とひずみ計を取り付けました(図-2)。その後、2011年(平成23年)4月に宮城県沖でマグニチュード7.1の地震(東北地方太平洋沖地震の余震)が発生し、石巻市でも震度6弱の揺れを観測しました。

  この地震におけるトンネルの加速度は200gal(重力加速度の約0.2倍)程度で、石巻市内の地表面の観測点で計測された300galよりはやや小さいものでした。これは地表面に比べて地中の方が揺れが小さいことを裏付ける可能性が高いものと言えます。

  覆工に発生したひずみは最大で20μ程度(10mの長さの構造物が0.2mm縮む程度の変形)であり、コンクリートが圧縮されて破壊する目安とされる2,000μと比べてもかなり小さいものでした。また、一般に地震による地盤の変形はせん断変形(図-3のType-I)が卓越し、トンネルの耐震対策を検討する際の最も基本的な変形とされていますが、今回の計測の結果は、上下方向もしくは横方向からの圧縮変形(図-3のType-IIやIII)に近いものでした。これは、今後トンネルの耐震対策を考えていく上で、せん断変形以外の変形も考慮する必要があることを示していると考えられます。

  これらの計測結果は、トンネルが地震に強い構造物であると言われてきたことを裏付ける可能性があるとともに、地震の時のトンネルの変形について新たな知見が得られたものと言えます。ただし、今回の計測は1トンネル、しかも1断面での事例でしかないため、今後もデータの蓄積や検討を重ねた上で、トンネルの耐震対策を確立していきたいと考えています。



(問い合わせ先:トンネルチーム)

色と光で危険を知らせる


 モルフォ蝶



 金属のひずみを色の変化(赤→緑)で検出。
緑色部分に変形が生じていることを示す。
(クリックすると拡大します)



 コンクリートのひび割れを光(明るい→暗い)で検出。
(a):自然光下では中央部のひび割れはわかりにくい
(b):ブラックライト下では暗い部分にひび割れがあることを示す。
(クリックすると拡大します)


  もし、構造物自身が「壊れそうである」ことを知らせてくれれば、点検作業が少なくて済むのではないかと考えています。

  地震によるダメージや老朽化が原因で、橋、トンネルなどの道路構造物や堤防、水門などの河川構造物が壊れる事象が発生しています。こういった構造物が壊れてしまう危険(劣化)は遠目で見ただけではわからないことがあります。近くで作業するための架設作業床を組んで詳しく観察し、触ったり、叩いた音を聴いて、壊れる危険がないかを点検しています。構造物は数十メートルから数キロメートルに渡るものもあります。広い範囲を人間の手作業で点検しているため、時間と人手がかかり、劣化・危険のサインを見逃す恐れもあります。

  構造物に力がかかって「ひずみが生じている」ことや、「ひび割れが生じている」ことを「色や光で知らせる」ことができる機能を持つ材料(機能材料)を研究しています。例えば、「オパール薄膜」と呼ばれる薄いフィルムは、変形すると色が変わることで私たちにひずみを知らせてくれます。オパール薄膜は、鮮やかな色と金属光沢をもつモルフォ蝶という蝶の羽を真似たもので、鱗粉の微細な構造によってもたらされる光の干渉から色づく仕組みが変形に影響されることを応用しています。また、センサー塗料というものもあります。コンクリートや鋼材に塗布しておくと、ひび割れが生じた時に光で危険を知らせてくれます。特に、発光するという特長はトンネル内部や橋の裏側など、暗くて観察が難しい箇所の点検に有効であると考えています。

  これら機能材料を道路や橋に貼り付けたり、塗ったりしておけば、「異常な力がかかっている、微小なひび割れが入っている」ことが一目でわかります。色や光で危険を知らせる機能材料を設置した構造物はデジタルカメラなどで遠くから観察できるため、危険な場所に足場を組まなくても点検できるようになります。今後は、実際の社会に役立てるような実用化の研究を進めていきます。これらの成果は、土木研究所と、物質・材料研究機構、広島大学、東京工業大学との共同研究によって得られたものです。



(問い合わせ先:新材料チーム)

環境負荷の少ない濁水処理システムの開発


写真-1 大雨のあとの濁ったダム湖



写真-2 凝集処理の室内実験
(上から静置1分後、15分後、60分後)
(左から凝集材少量→多量、右端は凝集材なし)
(クリックすると拡大します)



図 2基の水槽の濁りの程度の変化
(クリックすると拡大します)


はじめに

  ダムは大雨の時に貯留した水を、洪水の危険が無くなってから徐々に下流に放流し、この水を私たちは水道用水や農業用水として利用しています。一方、大雨のときにダム湖に流入した水は、普段、川を流れている水に比べると濁っています(写真-1)。このため、ダムから放流する水の濁りがダム下流の景観や水生生物の生息環境に影響を及ぼし、問題となることがあります。土木研究所では、ダム湖が濁ってしまった場合の対策として、水の濁りを改善する技術を開発しています。


凝集材を使った処理システム

  水の濁りを改善する方法に、凝集沈殿という方法があります。濁った水に凝集材を入れてかくはんすると、凝集材が濁りの原因である土粒子を吸着し、土粒子が複数個の集団を形成し、沈降が促進されます。その結果、時間が経つにつれ上澄みは透きとおってきれいになります(写真-2)。一般に、凝集材には薬品が使われますが、ダム湖内に薬品を散布した場合、沈殿物の回収が課題となります。私たちはダム湖に直接散布しても環境上問題が生じにくい手法として、自然由来の凝集材を使って、濁りを取り除くシステムを考案しました。

  ここで、使用する凝集材は「アロフェン」と呼ばれる材料です。アロフェンは火山灰質土壌に多く含まれる、粘土質のコロイド粒子です。アロフェンを水に溶かし、酸やアルカリを加えると、pHの条件次第で分散したり凝集したりと、状態を変化させます。この性質を利用して、水の濁りの原因である土粒子を吸着して、濁りを改善するシステムを考案し、現地で実験してみました。


現地実験

  濁りを取り除く実験は、九州電力(株)の管理する山須原ダム貯水池の湖岸で実施しました。山須原ダムでは、湖内に貯まった土砂を移動する作業が行われています。この移動に伴い生じる濁水を湖岸に汲み上げ、水槽内で凝集実験をしました。水槽は2基用意し、一方の水槽では濁水処理を行い(水槽1)、他方の水槽では何も手を加えず静置しました(水槽2)。

  2基の水槽の濁りの変化を示します(図)。ここでは、水槽1のかくはんの開始時刻を-180分、終了時刻を0分とし、-180分から1440分までの濁りの程度を整理しました。水槽1では6m³の濁水に対して3時間にわたり超音波による振動を加え、同時にかくはんを加えた結果、無処理の水槽2に比べ濁りの程度が大きく低減しました。かくはんの開始時の濁りの程度は、水槽1・水槽2とも上層・下層の平均で約290NTUでしたが、両水槽とも時間の経過とともに濁りが低減しました。ここで、「NTU」とは、濁りの程度を表す単位です。1440分後の濁りの程度は水槽1の上層・下層平均で13NTU、水槽2の上層・下層平均で186NTUとなり、アロフェンによる凝集効果が現地実験において確認できました。


実用化に向けて

  実験では濁りがほとんど取れましたが、実用化には多くの課題があります。今後は、凝集処理の効率が高まるようシステムを改良し、システムの実用化に向け研究を進めようと考えています。



(問い合わせ先:水理チーム)

雪の降り方積雪深はどう変わってきているのか?


 図-1 冬期最大積雪深の変化傾向
(1983-2008年度)
(クリックすると拡大します)



 図-2 24時間降雪量40cm以上の大雪事象の発生頻度の差
(2001年度〜2010年度の平均)−(1981年度〜2000年度の平均)
(クリックすると拡大します)


  近年、暖冬による雪の少ない年がある一方で、平成18年豪雪や平成22年度、平成23年度の冬期など大雪に見舞われる冬もあります。さらに、急激に発達した低気圧による局所的な大雪や暴風雪によって、多くの車両が立ち往生する災害が各地で発生しています。特に、平成25年3月には、北海道で暴風雪により9名の死者が出るなど、これまでに無い激しい気象状況が散見されます。

  そこで、新潟県以北を対象に、最大積雪深や短時間の大雪事象の発生について近年どのような傾向があるか調べてみました。用いたデータは、気象庁アメダス141地点の1981(または観測開始年)〜2010年度の毎時の積雪深です。また、冬期を当年11月1日から翌年4月30日までとします。

  図-1は、最近26冬期(1983〜2008年度)における、1冬期あたりの最大積雪深(cm)の変化傾向を示したものです。冬期の最大積雪深の変化傾向は、北海道では日本海側の小樽以北、内陸部、オホーツク海側および太平洋側東部で、また本州では北部太平洋側で増加傾向にあることがわかります。

  次に、24時間で40cm以上の降雪があった事例(ここでは、大雪事象と呼びます)について発生頻度の傾向を調べます。ここでは、1時間ごとの積雪深の増加量をその1時間の降雪量としました。

  図-2は1981〜2000年度に比べて2001〜2010年度の大雪事象の発生頻度がどのように変わってきているかを示したものです。主に北海道東部と東北地方の山間部で、大雪事象の発生頻度が増加する傾向が見られます。北海道東部の大雪は、発達した低気圧に起因する場合が多いことから、冬期の低気圧によって大雪が発生するパターンが多くなってきていると考えられます。一方、本州の日本海側では、大雪の発生頻度が減少する傾向にあります。これは冬期気温の上昇により、雪ではなく雨として降ること等が理由として考えられます。

  道路の防雪計画の検討や防雪施設の設計には、最大積雪深や最大日降雪量が用いられており、このような降雪や積雪の変化傾向の解析結果は、今後の防雪対策を考える上での基礎資料となります。



(問い合わせ先:寒地土木研究所  雪氷チーム)