研究の紹介

「凍害と塩害を受けた壁高欄の維持管理に関する研究」

図-1 壁高欄の設置例


図-2 各変状の割合

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図-4 壁高欄を使った実験

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1.壁高欄の役割

  橋梁等に付属するコンクリート製車両用防護柵(以下、壁高欄)(図-1)には、@車両が事故などによって対向車線や路外などに外れないようにすることのほか、A車両が壁高欄に衝突しても、車両や乗員への影響を小さくすること、B衝突した車両を正しい方向に復元すること、などの要求性能(備えるべき性質あるいは求められる役割)が定められています。このため、劣化の状況を把握し、必要であれば補修や補強をしてこの要求性能を維持していくことがとても重要です。


2.壁高欄の変状調査

  我が国には北海道から中国地方山間部まで、積雪寒冷地と呼ばれる地域が広く分布していますが、この地域の壁高欄をはじめとするコンクリート構造物は、凍害(コンクリートに含まれる水分の凍結融解の繰り返しによるコンクリート自体の破壊)、塩害(凍結防止剤の散布等によるコンクリート内部の鉄筋の腐食)、およびその両方の影響を受ける厳しい環境にさらされています。そこで、凍害と塩害によってどのくらい変状が生じているのか、壁高欄の外観を調査しました(図-2)。北海道内の389橋梁に付属した壁高欄のうち、約4割に変状が認められており、さらに建設後20年以上経つと、6割の壁高欄で鉄筋の露出が観察され、劣化がますます進行していることがわかりました。


3.壁高欄を使った実験

  次に、実際に北海道内で約40年間供用されてきた壁高欄(図-3)を使って、様々な調査や実験も行っています。凍害と塩害を受けると、コンクリートと鉄筋の性質が健全な状態からどのくらい変化するのか、材料の性質の変化が壁高欄の性能にどの程度影響するのかを明らかにしていきます。例えば、壁高欄を鉄筋コンクリート(RC)梁が組み合わさったものと考えて、実際の壁高欄から切り出したRC梁が外力を受けるとどのように破壊するかを実験で確認しています(図-4)。

4.おわりに

  今後は、壁高欄を安全に維持していくために、補修や補強が必要となる時期を判断できる劣化指標を提案していきます。

          

               図-3 壁高欄の外観変状    
                      

(問い合わせ先:寒地土木研究所 耐寒材料チーム)

バイオテレメトリー手法を用いた河川横断構造物の評価に関する研究

写真-1

EMG発信機からの電波を受信する様子


写真-2

EMG発信機を装着したサクラマス(オス)


写真-3

魚道内に設置したアンテナ、PITタグ、

PITタグを装着したスモルト

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1.バイオテレメトリー手法とは

  バイオテレメトリー手法は、今まで確認することが出来なかった生物の行動などを把握することができる強力な調査方法です。この手法では、生物に小型の発信機などを取り付け、行動・生理・環境についてのデータを遠隔測定し、行動や生態を調査することができます。

  近年、機器の小型化や性能向上により調査に用いられる研究が増え、欧米では、クジラ、カメ、渡り鳥、魚類など様々な生物の研究事例があります。日本でも調査対象が広がりつつあり、様々な生物の研究に使用される機会が増えていくと考えられます。


2.バイオテレメトリー手法を用いた研究

  当チームでは、バイオテレメトリー手法を使って、シロザケやサクラマスなどサケ科魚類の行動を追跡し、河川内に設置されている横断構造物の評価を行う研究を行っています。サケ科魚類は、産卵や成長するために、海と河川を行き来することが知られており、秋の産卵では河川を遡上し、春には海へ降下します。その際、河川内に畑地に水を取るための頭首工やダムなどが存在すると、そこで魚類の移動はストップしてしまいます。それを回避するため、河川横断構造物をう回させて魚類を上下流に移動させる必要があり、「魚道」と呼ばれる魚の通り道を作ります。魚道は、50年以上の歴史があり、全国各地で数多く設置されています。

  一般的に魚道機能は、流速、水深などの物理的数値で評価されていますが、魚の生態からみた評価、つまり、少ないエネルギーで遡上できるか、短時間で魚道を通過できるか、などの評価を行った研究はほとんどありませんでした。バイオテレメトリー手法は、魚道における魚類の遡上行動を把握するための手段として有効であり、魚類の立場から魚道を含む河川横断構造物の機能評価が可能になります。


3.バイオテレメトリー機器の一例

  魚道機能評価を行うため、シロザケやサクラマスの遡上速度を測定することができるEMG発信機(Electromyogram(筋電位); 長さ5.3cm、重さ18g)を使用しています。この発信機は、魚の筋肉に電極を埋め込み、魚の尾びれが、ゆっくり動いているか、早く動いているかを把握できます。この発信機から得られたデータを解析することで、魚の遊泳速度(1秒間に何m進むか?)の算出が可能になります。

  サクラマスの幼魚(スモルト)が春に海へ降下する際、体長は10cm程度しかなく、EMGのような大型の発信機の装着はできません。そこで、小型魚には、PITタグ(長さ約1cm、重さ0.1g)を装着します。PITタグ(Passive Integrated Transponder Tag)は、装着した魚がアンテナ付近を通過する際に、通過日時と個体の識別が可能となるデータを得ることができます。

  このように、様々な機能を持つバイオテレメトリー機器の中から、欲しい情報や魚のサイズに合わせた機器を選択し、調査を行っています。


(問い合わせ先:寒地土木研究所 水環境保全チーム)