研究の紹介

流量観測の高度化への取り組み

写真-1 電波式流速計
写真-1 電波式流速計

図-1 電波式流速計の概要
図-1 電波式流速計の概要

写真-2 ドローンに搭載した電波式流速計
写真-2 ドローンに搭載した電波式流速計

  洪水時に、または渇水時にどれだけ川に水を流すかという計画は、基本的に流量で示されます。そして、その計画を作るためには、日頃から河川の流量を把握することが重要です。流量は流速と断面積から計算されますので、普段は流速と水位を測定することになります。

  従来、洪水時の流速測定は浮子と呼ばれる棒状のものを川に流して人の手で通過時間を測定して算出していました。しかし、洪水時に川に近づくことは危険であり、また近年は作業員の不足等で測定が困難になっていることから、土木研究所では人の手を使わずに計測できる非接触型流速計の開発を行ってきました。

  写真-1がその電波式流速計です。図-1にその仕組みを示しています。河川に向けて電波を照射すると、水面に当たって反射する電波はドップラー効果により周波数が変化します。この周波数の変化により河川の表面流速を算出します。この電波式流速計は、すでに複数のメーカーで製品化され、多くの現場で調査に活用されています。

  流速計や水位計は、低価格化や高精度化のほか、新たな計測手法や活用方策等を目指した開発が現在でも多くのメーカー等において行われています。こうした開発を支援するため、土木研究所は土木学会水工学委員会の流量観測技術高度化研究小委員会の事務局として、合同流量観測会や勉強会等を開催していています。写真-2は今年4月に開催された合同観測会で行われた実験の一例で、電波式流速計をドローンに搭載して計測を行ったものです。

  土木研究所では、自ら研究開発を行うだけでなく、こうした研究開発への支援を今後も継続して行っていきます。



(問い合わせ先 : 水工研究グループ 水文チーム)

ディープラーニングを用いた地すべり地形の抽出

図-1  ディープラーニングの位置づけ
図-1  ディープラーニングの位置づけ

図-2  ニューラルネットワークの例
図-2  ニューラルネットワークの例
(松尾豊(2015)より)


図-3  地すべり地形(学習データ作成例)
図-3  地すべり地形(学習データ作成例)

1.はじめに

  地すべりは反復性・再活動性の特徴を有するものが多く、滑落崖と移動体からなる地すべり地形と呼ばれる地形を作ります。したがって、地すべり地形を判読することで、地すべりが発生する恐れのある場所を把握することができます。

  地すべり地形判読は、従来から技術者が地形図や空中写真を用いて行ってきました。また近年は、航空レーザ測量により得られる精度の高いデータから作成した地形図を用いて不明瞭な地すべり地形の判読を行うことが可能になってきています。しかし、判読の対象範囲を広域とした場合は、多くの時間を要することとなります。

  そこで、地形判読の作業効率の向上を目標として、ディープラーニングを用いた地すべり地形の自動抽出の可能性について検討しています。


2.ディープラーニング

  ディープラーニングとは、コンピュータを用いた機械学習の一つです(図-1)。ニューラルネットワーク(図-2)と呼ばれる人間の脳を参考にしたモデルにより、コンピュータ自らがデータの潜在的な規則性などの特徴量をとらえることで、より精度の高く効率的な判断を実現させる手法です。


3.ディープラーニングを用いた地すべり地形抽出

  ディープラーニングを用いて地すべり地形を自動抽出する場合は、多数の地すべり地形データを画像として認識させて学習します(図-3)。具体的には、まず、既存の地すべり地形データと航空レーザ測量成果から作成・加工した等高線図や傾斜量図、標高図などを訓練データ(検証データを含む)とテストデータに分け、訓練データをニューラルネットワークに入力します。そして、コンピュータが予測した結果を真値(既存の地すべり地形)に近づけるようにニューラルネットワークのパラメータを調整します。最後にテストデータを含む範囲にて、学習済みモデルにより地すべり地形を抽出し、テストデータと比較して汎用性を確認します(図-4)。

  現在、土木研究所では民間4社と協力し、地すべり地形データや地形量データ、ネットワーク構造などが異なる様々な条件下で地すべり地形の抽出を試みているところです。


  技術者による地すべり地形判読結果        ディープラーニングによる予測結果

図-4  地すべり地形分布図(防災科学技術研究所)とディープラーニングの予測結果の比較


(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 地すべりチーム)

日本海北部海域(武蔵堆周辺)の海域環境とマウンド礁の湧昇効果

図-1  マウンド礁のイメージ図
図-1  マウンド礁のイメージ図

図-2  基礎生産の算出結果
図-2  基礎生産の算出結果


図-3  数値モデルによるマウンド礁の効果
図-3  数値モデルによるマウンド礁の効果

1.研究の目的

  近年、我が国の漁業生産量はピーク時の4割まで減少しており、特に北海道周辺では日本海北部系群のスケトウダラ資源量が著しく減少しています。他方、西日本の海域では、マウンド礁を用いた漁場整備(フロンティア漁場整備事業)が行われており、日本海北部海域においても漁場整備の可能性に関する基礎的な検討が求められています(図-1)。

  そのため、現地観測および数値モデルによって、日本海北部海域にマウンド礁を整備した場合の底層の栄養塩の湧昇効果について検討を行いました。


2.基礎生産構造とマウンド礁の効果

  今回調査を行った日本海北部海域では、夏季から秋季は、表層の水温上昇によって躍層が発達し、上層の有光層では貧栄養となり基礎生産は低位となります。また、冬季は、鉛直混合により栄養塩は充足しますが、日射量不足により基礎生産は低位となります。これらに対し、春季は、栄養塩・日射量とも充足し、基礎生産は高位となります。

  以上より、夏季から秋季において有光層に底層の栄養塩を供給できれば基礎生産量の増大が可能と考えられます。低次生態系モデルを用いた試算では、栄養塩が枯渇する秋季に栄養塩を充足した場合、基礎生産量は現況よりも約3倍に増加することを確認しました(図-2)。

  そこで、数値モデルを用いて、流速20 cm/s、水深100mにマウンド礁(高さ30m)を設置した場合の鉛直流れ分布の解析を行った結果、水深40mにある躍層以浅まで擾乱される結果となり、この条件下における湧昇効果を確認しました(図-3)。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水産土木チーム)