新潟試験所ニュース

研究ノート

地下水排除施設の機能低下に関する試験調査

1. はじめに

写真−1 スライム付着状況
写真−2 鉄細菌

 地下水排除施設(横ボーリング,集水井)は、地すべり斜面内に集水管を挿入し、地すべり発生誘因である地下水を排除することで斜面の安定を図るものです。しかし、施工後の時間経過に伴い、地下水排除量が減少するといった機能低下現象を示す例が多く、斜面の不安定化が懸念されています。
 新潟試験所では、この地下水排除施設機能低下現象に対し、その実態,原因,防止方法について調査・試験を行っているところであり、その成果の一部は新潟試験所ニュ−ス第2,8,10号で紹介いたしました。今回は、その後実施した地下水排除施設機能低下防止に関する追加試験について紹介します。

2.集水管内スライム付着防止のための追加試験

 新潟試験所ニュ−ス第2,8,10号で紹介した調査・試験では、下記の結果が確認されました。
(1)地下水排除施設の機能低下原因の1つとして、集水管内のスライム付着による目詰まりが多く見られる。
(2)スライムは酸化第二鉄を主成分とし、その生成には鉄細菌の活動が関与している。
(3)鉄細菌は地下水中への通電や空気中の酸素濃度低下によって活性低下を生じ、そのことによりスライムの生成が抑制される(基礎試験結果)。
 今回の試験では、(3)の基礎試験結果より確認された、空気中の酸素濃度低下によるスライム生成防止方法について、次の追加試験を実施いたしました。

2.1 ガラスビン内スライム生成試験

図−1 ガラスビン内スライム生成試験装置
図−1 ガラスビン内スライム生成試験装置

 ガラスビン内において、鉄細菌によるスライム生成量が酸素濃度を低下させることによりどのように変化するか試験しました。
 図−1は、試験装置です。試験では、ガラスビンに地下水及び鉄細菌を含んだスライムを入れ、それらをチューブで連結し、酸素濃度を調整した窒素・酸素混合気体を流した状態でスライム生成を行いました。なお、スライム生成量は、試験開始後7日間毎にガラスビンを装置からはずし、ガラスビンに付着した酸化第二鉄量を測定して評価しました。

図−2 ガラスビン内酸化第二鉄生成量
図−2 ガラスビン内酸化第二鉄生成量

 図−2は、試験開始後の経過日数とガラスビン内に付着した酸化第二鉄量との関係を示したものであります。酸素濃度 が通常状態では、経日変化により酸化第二鉄量の増加が認められるのに対し、酸素濃度15%以下では、酸化第二鉄の生成がほとんど無い状態となっております。このことより、酸素濃度低下に伴いスライム生成が抑制されたことを確認できました。

2.2 横ボ−リング模型内スライム生成試験

図−3 横ボ−リング模型内スライム生成試験装置

図−3 横ボーリング模型内
スライム生成試験装置

 横ボ−リング模型内において、外気からの酸素流入を遮断したものと、遮断してないものにおいて、スライム生成量がどのように変化するか試験しました。
 図−3は試験装置です。試験では、横ボ−リング模型(水封したものと、水封しないもの)の試験装置を作成し、その中で地下水を 循環させるこ とでスライムの生成を行いました。なお、地下水中への鉄細菌・鉄分の供給は、貯留タンク内に鉄細菌を含んだスライムと鉄粉を入れることで対応しました。また、試験装置内の酸素濃度を確認するため、7日毎に塩ビ管に設置した酸素濃度測定用チュ−ブから酸素濃度測定を行いました。試験後のスライム生成量は、試験開始30日後に試験装置内(塩ビ管内、タンク内、ホ−ス内)に付着した酸化第二鉄量を測定し、その量で評価しました。

図−4 横ボ−リング模型内酸素濃度推移

図−4 横ボーリング模型内
酸素濃度推移

 図−4は、水封処理有無別の試験開始後経過日数と試験装置内の酸素濃度との関係を示したものであります。水封を行った装置は、水封を行っていない装置に比べ、酸素濃度が低い状態を示しております。

図−5 横ボ−リング模型内酸化第二鉄生成量

図−5 横ボーリング模型内
酸化第二鉄生成量

 図−5は、水封処理有無別の試験装置内酸化第二鉄生成量を示したものであります。水封を行った装置は、水封を行っていない装置に比べ、酸化第二鉄生成量が少ない値を示しております。
 この2つの結果より、水封により外気からの酸素流入を遮断することで、試験装置内の酸素濃度低下が図られ、スライム生成が抑制されたことを確認できました。

(3)集水管内酸素濃度低下方法の現地試験

図−6 現地試験装置

図−6 現地試験装置

 現地試験は、実際の地下水排除施設(横ボーリング)において、2本の集水管を対象に実施しました。この試験の目的は、図−6に示した。
装置を用いて集水管内の酸素濃度がどの程度低下できるかを確認することであります。なお、集水管内の酸素濃度測定は、エルボに設置した酸素濃度測定用チューブより実施しました。また、酸素濃度測定は2回実施し、1回目はエルボ設置から2週間後、2回目は1回目測定から1ヶ月後に行いました。

表−1 酸素濃度測定結果

表−1 酸素濃度測定結果

 表−1は酸素濃度測定結果を示したものであります。集水管内の酸素濃度は7〜13%を示し、水封処理を行うことで大きな酸素濃度低下を図れることが確認されました。このことより、集水管孔口の水封処理によってスライム生成を抑制できる可能性のあることが分かりました。今後は、更に現地試験を継続していき、直接スライム付着抑制効果について確認していく予定であります。

(文責:安藤)

(雪崩検知と気象観測システム)
図 幕の沢周辺の地形図

図 幕の沢周辺の地形図

 雪崩は、重力による駆動力が、積雪層を支持する力を上回るときに起こると考えられていますが、特に大きな被害をもたらす表層雪崩は、全層雪崩に比べて発生場所や時期の予測が困難であるため、雪崩対策上の問題になっています。そこで、気象・積雪データから積雪強度を推定し、雪崩発生の予測手法を確立することを目指した研究を行 っています。
 写真−1は雪崩が頻発する妙高山麓の幕の沢 (図)に設置した雪崩検知システムで、雪崩の発生時刻と規模を記録しています。
 また検知した雪崩が発生するに至った積雪や気象条件を明らかにするために、気象観測を行っています(写真−2)。観測項目は表に示したとおりで、10分毎のデータを記録しています。雪崩 が発生 るような多雪地域 における冬期の気 象観測は観測機器 に雪が積もる等のトラブルが多く多難ですが、詳細な気象や積雪のデータを蓄積することで、雪崩の発生予測の研究に役立てたいと考えています。


写真−1 雪崩発生検知システム 表 観測項目
観測項目 観 測 機 器
日   射 日 射 計
反   射 日 射 計
正味放射 放射収支計
風  向 風 向 計
風  速 三杯式風速計
気   温 静電容量式温湿度計(強制通風)
湿  度 静電容量式温湿度計(強制通風)
表面湿度 放射湿度計
雨 雪 量 溢水式雨雪量計
写真−2 気象観測システム
写真−1 雪崩発生検知システム 写真−2 気象観測システム

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